RAW Develop

July 16, 2020

X-T4でオールドレンズ【フジフイルム X-T4 WORLD】

久しぶりに機種別ムックでオールドレンズネタのお座敷がかかりました。機種はFUJIFILM X-T4。オールドレンズ×マウントアダプターでも手ブレ補正が効き、使いやすいボディです。オールドレンズ撮影はいつもRAWストレート現像なんですが、今回はフィルムシミュレーションを適用したカットを載せてみました。渋くていい色合いのJPEGを吐いてくれます。ぜひご覧ください。

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●フジフイルム X-T4 WORLD[日本カメラ社][Amazon
マウントアダプターでオールドレンズの自由を
純正ソフトで仕上げるRAW現像

 

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June 15, 2020

今だから言えるアノ本の裏話

「作品づくりが上達するRAW現像読本」の裏話を。Windows95時代、はじめてPhotoshopを使った感動をいまでもおぼえている。スライドバーひとつで写真の色や明るさが変わる。すごい時代になったものだと驚いた。パソコンライターにとって、画像編集の世界はとてもまぶしかった。

 

ただ、どうやって写真を編集すればいいのか、そのアプローチがわからない。何しろこちとら場末のパソコンライター、まだカメラや写真に興味がなかったので、写真をきれいに見せるノウハウがない。画像編集ソフトでできることと、やりたいことの関係がよくわかっていなかった。

 

いずれ、著名な写真家やライターが写真編集の解説本を書いてくれるだろう。そう思って待っていたのだが、いっこうに出てこない。一応、画像編集ソフトのマニュアル本は出てきた。ただ、どれだけ操作手順をおぼえても、写真編集のアプローチには至らない。手順とセンスはまったく別モノだ。

 

目の前の写真を分析して、「こういう○○な写真は、××して△△に仕上げよう」みたいな、写真編集の基礎をアドバイスしてくれる本はないものか。ソフトウェアの使い方ではなくて、写真編集を学問として紐解いてくれるような本。写真編集の何たるかを理解できるような本が読みたかった。

 

時が過ぎ、パソコン誌からカメラ誌に軸足が移った。当時、機種別ムックというのが流行っていて、メーカー純正RAW現像ソフトの解説記事をよく担当した。これは過去形ではなくて、いまもひんぱんに依頼がある。自分の中でも得意な仕事のひとつだ。

 

あるとき、某出版社からLightroomの解説書を書いてほしいとオファーがきた。当時の自分にとって、Lightroomの解説書は少々荷が重かった。ただ、かつて読みたいと思っていた写真編集の本を自ら書くチャンス、と思うことにした。Lightroomをベースに写真編集の基礎が学べる本を書こうと。

 

企画書が通り、台割を作り、テスト原稿へと進む。そして提出したテスト原稿が真っ赤に修正されて戻ってきた。自分で言うのもなんだが、27才でライターになって以来、原稿の大幅修正なんて一度もなかったのに。大きなトラブルの予感がした。

 

ぼくは企画書で提案した通り、画像編集の基礎体力がアップするようなテスト原稿を書いた。ところが版元は、手順だけを載せろと路線変更してきたのだ。作例を読者にダウンロードさせ、事細かに手順を指示。手順によって誌面と同じ結果が出ることを体験させる。要は達成感の得られる本にしろと言う。

 

達成感だけでは読者が上達しませんよ、読者の画像編集力が向上するような本を目指しませんか、と再交渉する。立て板に水だった。読者が本当に上達してしまったら、それ以上本が売れないじゃないですか? 返す言葉がなかった。達成感は快感。快感を売る本。自分の考えと、深く埋めがたい溝があった。

 

ライターになってはじめて途中で仕事を降りた。解説書である以上、読者の役に立つものを送り出したい。青臭い考えかもしれない。古臭いのかもしれない。ただ、情報の送り手、本の作り手として、役立つ本という線は死守したい。読者が上達したら本が売れない、そんなことを言う大人にはなりたくない。

 

さらに数年の時間が過ぎ、玄光社から声がかかった。「RAW現像の本を書きませんか」と。ちょっとぼんやりとした依頼だ。LightroomではなくRAW現像? 先方に確認する。「Lightroomの解説書ですか?」「澤村さんがLightroomを使われているならそれで」。前回のことがあるので、慎重に言葉を選ぶ。

 

画像編集の基礎を学べる本にしたい。読者に手順を押し付けるのではなく、理解を深めてもらう本にしたい。先方は「それでお願いします」という。本当に大丈夫だろうか。Lightroomのマニュアル本ではないですよ、全機能徹底解説的なことはしませんよ? 「澤村さんのよく使う機能だけでかまいません」。

 

某出版社はソフトウェアのマニュアル本を作りたかったのだろう。玄光社は写真編集の本を作りたがっている。玄光社となら、前々から思い描いていた本が書けるかもしれない。もちろん、自分が写真編集の基礎を語るにたる書き手かという疑問は残るが、そこはしっかり精進していこう。

 

こうした経緯で生まれたのが、「作品づくりが上達するRAW現像読本」だ。紆余曲折あったけど、初版以来6回の増刷を重ね、ついには増補改訂版を出す運びとなった。自分の写真編集に対する考えに、賛同してくれる読者がたくさんいたということなのだろう。とても励みになります。

 

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玄光社「作品づくりが上達するRAW現像読本 増補・改訂版」発売です!

RAW現像をやっていて、どこから手をつけていいのかわからない、という経験はないでしょうか。いまどきのデジタルカメラは高性能ですから、早々大きくハズすことはありません。とはいえ、撮って出しそのままというのも納得がいかない。「作品づくりが上達するRAW現像読本 増補・改訂版」は、そんな画像編集に対して一歩踏み出せない人にぜひ読んでいただきたい本です。

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●作品づくりが上達するRAW現像読本 増補・改訂版[玄光社][Amazon
出版社:玄光社
発売日:2020年6月15日
価格:1,980円

本書は画像編集の基礎体力づくりを目標に執筆しました。画像編集は詰まるところ、光と色の調整にすぎません。できるだけシンプルな操作で、狙い通りの効果が得られるように、わかりやすく解説しています。

今回の増補改訂では、最新のLightroom Classicに対応しました。合わせて、モバイル版のLightroomについてもけっこうなページ数をさいています。現在Lightroomは、デスクトップ版、モバイル版、ウェブ版と大きく3つの種類があります。本書は解説した操作がどのLightroomで可能か、対応マークを付けました。デスクトップ版、モバイル版、どちらのLightroomユーザーでも安心して読んでもらえると思います。

また、ゴミ取り、シャープ、ノイズ除去など、面倒だけどそれなりに重要度が高い機能を追加解説しました。といっても澤村の本ですから、マニュアルチックに解説するのではなくて、いかにラクして使いこなすか、に重点を置いた解説です。気負わずにちょっと面倒な機能が使いこなせるようになりますよ。

そんなこんなの「作品づくりが上達するRAW現像読本 増補・改訂版」、ぜひご高覧ください。

 

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June 04, 2020

Nik Collection 3 の再編集を試してみた。

Nik Collection 3がバージョンし、Lightroomから再編集が可能になりました。前々から再編集できないことに不満をおぼえていたので早速バージョンアップ。その操作について、metalmickey's cameraにてレポートしました。

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●metalmickey's camera
DxO Nik Collection 3 | Lightroomから再編集が可能に

Nik CollectionはもっぱらSilver Efex Proばかり使っていたんですが、再編集できると今後は気負わずに使えそうです。これまでは一発でキメないといけないから微妙にプレッシャーが(笑)。ちなみに、再編集はちょびっと設定が必要です。具体的な操作はmetalmickey's cameraのレポートをご覧ください。

●追記
デジカメWatchにもNik Collection 3の記事を書きました。合わせてご覧ください。

モノクロ好き注目「Nik Collection 3」の喜びポイント

 

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May 30, 2020

「作品づくりが上達するRAW現像読本 増補・改訂版」6月15日発売です!

久しぶりに単独書の告知です。2016年に出版した「作品づくりが上達するRAW現像読本」の増補改訂版が発売になります。全編の画像を刷新し、最新版のLightroom Classicに対応。新機能やモバイル版の使い方も追加しました。前著よりページ数が増え、ドンと160ページの大作です。

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●作品づくりが上達するRAW現像読本 増補・改訂版[玄光社][Amazon
出版社:玄光社
発売日:2020年6月15日

前著は「Lightroomをベースに画像編集の基礎体力を鍛える」をコンセプトに、RAW現像の基本をわかりやすく解説しました。ソフトウェアの解説本はソフトがバージョンアップするとすぐに陳腐化してしまいます。その点を考慮し、前著はLightroomをベースにしつつ、でもLightroomに依存しない作りにしました。ちょっと極端な言い方をすると、Lightroom以外の画像編集ソフトのユーザーにも役立つような汎用性の高い内容を目指そうではないか、とまあ志しだけは立派です(笑)。その甲斐あってか、6刷まで増刷を重ね、ソフトウェアの解説書としてはだいぶ息の長い本になりました。

そんなわけで、前著は陳腐化しづらい内容の本ですが、そうはいっても発売から4年以上が経過しています。そろそろ最新版Lightroomに対応させた方がいいのでは、と出版社から打診があり、増補改訂版を出すことになりました。

まず、画像はすべて刷新しています。Lightroomのスクリーンショット(画面画像)はもちろん、作例もすべて新しくしました。新機能の中でこれはマスターしておきたいというものを追加し、スマートフォンやタブレット用のモバイル版Lightroomにもたくさんページを割きました。あと、それぞれのTipsがどのLightroomに対応しているか、アイコンで示しています。ええ、皆さん知ってましたか、Lightroomって今3種類もあるんですよ(遠い目)。

「作品づくりが上達するRAW現像読本 増補・改訂版」はこれからRAW現像をはじめる人に自信を持ってオススメできます。加えて、前著をすでに持っていて、何度も読み返して勉強している方もこれを機会に増補改訂版に差し替えてもらえるとうれしいです。Lightroomのスクリーンショットがすべて新しくなっているので、操作で戸惑うことなく学べると思います。ちなみに、本書はいわゆるVol.2ではありません。前著をベースに増補改訂した一冊になります。この点だけ誤解なきように。

本書はトリッキーなレタッチテクニックはひとつも載っていません。色と明るさをシンプルに操るだけです。でもたったそれだけのことで、写真を思い通りに編集できます。「作品づくりが上達するRAW現像読本 増補・改訂版」、ぜひご高覧ください。

 

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May 23, 2018

中国語版が大変なことになってました(汗)

新刊出ました、といっても違和感ないほど、まったく未知の本が届きました。ええと、新刊は書いてません出してません。でも、著者名は澤村徹とあります。ちょっと漢字が変ですが。

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この正体は、2016年に出した「作品づくりが上達するRAW現像読本」の中国語版です。下の写真を見せてください。左がオリジナルの日本語版、右が中国語版です。これまで台湾の出版社からオファーをいただくことが多かったのですが、今回はじめて中国の出版社から依頼がありました。

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それにしても、なぜこの写真を表紙に使ったんだろう。京都リスペクトかなあ。実際は某下町なんですが。かなり謎です(笑)。もし中国人のお友達がいたらお薦めください。

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May 10, 2018

DPP4の部分補正はちょっと重いです

キヤノンの純正RAW現像ソフト「Digital Photo Professional 4」がいつの間にか部分補正に対応した。Version 4.8.30.0にアップデートすると、部分補正が使えるようになる。EOS 20Dの頃からDPPに触れてきた身としては、ガチで目頭が熱くなる。

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Lightroom、SILKYPIXといった市販RAW現像ソフトは部分補正に対応しているが、デジタルカメラの付属RAW現像ソフトではお初だろうか。早速アップデートして部分補正を試してみた。

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使い方は簡単だ。セレクト編集画面を開き、ツールパレットの「部分調整」パレットを開く。パレット上段がブラシツールのセッティングで、下段には塗りつぶしたエリア(選択したエリア)に対する補正パラメーターが並ぶ。Lightroomなどで部分補正を経験済みの人は無論、RAW現像ビギナーでも簡単に使い出せるはずだ。

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具体的な使い方を見ていこう。まず、「部分調整」パレット上部の「調整領域を指定する」をクリックする。これでマウスポインタがブラシツールに変化するので、部分補正を施したいエリアを塗りつぶす。Lightroomのように領域を着色表示する機能はないが、初期状態で明るさが「50.0」とかなり明るく設定されており、これで塗りつぶしたエリアが一目でわかる。ただし、試用した限りでは消しゴムツールが見当たらず、過度に塗りすぎた場合はイチからやり直すしかなかった。何か消しゴムツールのショートカットキーでもあるのだろうか。

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Lightroomではいくつでも部分補正の箇所を増やせるが、DPP4は最大5つという制約がある。パレット中程の数字をクリックすると、部分補正のエリアを追加できる。番号の隣にある目玉アイコンをクリックすると、調整効果の反映をON/OFFできる仕組みだ。

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上が補正前の画像、下が消防栓と黄色い看板に部分補正を施した画像だ。DPPでもこうした部分補正が簡単にできるようになった。これは無論朗報なのだが、今回の試用ではパフォーマンスがかなり気になった。まず、「部分調整」パレットを開いても、「調整領域を指定する」がクリックできるようになるまで時間を要する。ブラシツールも動きが重く、ゆっくり動かさないと追従してくれない。補正箇所が最大5つとなっているのも、こうしたパフォーマンスに起因しているのかもしれない。付属ソフトで部分補正に対応した快挙を評価する一方、ビギナーが最初に接するRAW現像ソフトだからこそ、ノンストレスで手軽に使える機能であってほしいと思う。

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October 10, 2017

ぼくらはノートリミング主義を笑えない

SNSを見ていたら、写真加工に関するおもしろい投稿を見つけた。長い投稿だったのでかいつまんで言うと、「なぜ人は写真加工の有無について自己申告するのか?」というものだ。「少しトリミングしています」「軽く補正しました」「HDRで処理しています」などなど、写真公開とともに言葉を添える人は少なくない。また、公開された写真に対し、「これはJPEG撮って出しですか」と暗に制作工程を問う書き込みもよく見かける。これらの問題は、突き詰めるとシンプルなところに行き着く。写真加工の善悪。そう、写真加工は良いことなのか、それとも悪いことなのか、という問題だ。

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誤解を恐れずにあえて書こう。人は誰もが「写真は無加工であるべきだ」と思っている。撮ってそのままの写真こそがもっともすばらしいと、多くの人は信じて止まない。ぼくらを取り巻くありとあらゆる写真が、すべて加工済みであるにも関わらずだ。

そう、フィルム時代もデジタルになってからも、商業ベースで無加工の写真などありえない。ポスター、看板、書籍、雑誌、ありとあらゆる写真は、その印刷形態や展示形態に合わせて加工が施されている。ページレイアウトに合わせたトリミング、被写体を鮮やかに見せるためのトーン調整、人物写真は瞳の写り込み対策が欠かせない。撮ってそのままの写真を使うことなど、ほぼ皆無だ。

おそらく撮って出しが許されるのは、作例と報道ぐらいだろう。カメラやレンズの性能を評価するための写真は、撮って出しでなくてはならない。報道写真は真実を伝えるという使命のため、無加工であることが望ましい。しかしながら、こうした分野以外、商業用途にせよ作品用途にせよ、写真はほぼすべてが加工済みだ。

にも関わらず、撮ってそのままの写真こそが美徳と、多くの人は信じて止まない。トラディッショナルな写真教室では、トリミングや加工は堕落とすら教えかねない勢いだ。写真をやらない人たちだって、合成と聞いただけで眉をひそめるではないか。

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ぼくが写真をはじめたばかりの頃、RAW現像ソフトでひたすらトリミングの練習をした。当時、RAW現像ソフトはSILKYPIXがほぼ唯一の選択肢だったのだが、非破壊編集というやり直しの効く編集環境は魅力的だった。一枚の画像を幾通りにもトリミングし、どういう構図が美しいのか、どんな構図が自分の好みなのか、納得が行くまで何度も作業を繰り返す。色調やトーンも同様だ。画質劣化しない非破壊編集をこれ幸いと、一枚の写真をとことんいじくり倒した。自宅で画像編集できるのはデジタルの特権だ。デジタルカメラとパソコンがあるならば、その特権を謳歌してこそである。そううそぶきつつ、なぜ加工に罪悪感をおぼえるのか。

こんなこともあった。はじめての個展でデジタル赤外線写真を展示したときのことだ。高校時代の友人がギャラリーに足を運んでくれた。一通り写真を見た後、彼は「すばらしい作品だ」と褒めてくれた。友人は写真やカメラに精通していない。デジタル赤外線写真は特殊な処理を行うので、そうした部分を簡単に説明する。赤外線を受光できる特殊なカメラを使い、さらにカラースワップという独自の画像編集を経てこの写真が完成するのだと。友人は苦笑を浮かべ、こうつぶやいた。なんだ、この写真がそのまま撮れるわけじゃないのか。

ここでぼくは、ロバート・M・パーシグの「禅とオートバイ修理技術」を思い出す。バイクツーリングしながら哲学的思考を展開する奇妙な小説だ。この本の中にこんな一節がある。主人公らがバイクツーリングしていると、友人のバイクが途中で不調になってしまう。友人のバイクはハーレーだったかドカティーだったか、とにかく高級車だ。主人公は空き缶を加工して修理パーツを作り、友人のバイクを直そうとした。すると友人は頑なにそれを拒む。主人公は友人に説明する。これは見た目こそ悪いが、市販の修理パーツとまったく同じ働きをする、と。それでも友人は首を縦に振らない。「俺のハーレー(ドカティーだったかもしれない)を空き缶で修理するなんて、カンベンしてくれよ」と言外に思いを滲ませる。主人公はここで、クオリティーという概念に行き当たる。高級車はちゃんとしたパーツで直すべきという友人の考え。空き缶を加工したパーツも市販のパーツも、ともに同じ働きをするという現実。両者の間に何があるのか。主人公の思索はつづく。とまあ、そんな話だったと思う。

写真についてもまったく同じことが言える。詰まるところ写真にも、クオリティーという絶対値の世界があるのだ。論理的に説明するのは難しいが、誰もが内包する尺度。それがクオリティーである。写真は撮ってそのままの姿こそが理想、加工した写真はニセモノという感じ方。これが写真のクオリティー(絶対的な価値観)だ。この感じ方を根底から、かつ論理的に否定するのは難しい。どんなスタンスの人であれ、写真は撮ってそのままの姿が良い、と思っている。これは理屈ではない。

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さて、ぼくらはどうすればいいのだろう。クオリティーという名の心の声に従って、写真は無加工で使うべきなのか。それとも心の声に抗い、加工に手を染めるべきなのか。もちろん、そんな画一的な判断では結論にたどりつけない。写真は素のままであるべきという共通認識を踏まえた上で、個々の表現をどのように表わしていくのか。これだ。クオリティーという実態のない尺度を見据えつつ、その向こう側に手を伸ばす。クオリティーをないがしろにしてはいけない。しかし、クオリティーに振り回される姿も滑稽だ。

答えはちゃんと自分の中にある。加工しすぎたら「やりすぎた」と思うし、どんなに好きなカメラとレンズでも、撮って出しで物足りなさを感じることもある。自分の感じ方に素直に耳を傾ければ、自ずとなすべきことが見えてくる。ただその、自分の感じ方に素直になるのが難しいのだが。

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September 25, 2017

台湾語版RAW現像読本「Lightroom影像精修速成班」が出ました

「作品づくりが上達するRAW現像読本」の台湾語版が発売になった。ぼくが手がけた本の中で、オールドレンズ本はすでに何冊か翻訳版が出ている。が、ソフト解説本の翻訳オファーははじめてであり、かつかなり意外だったた。

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●Lightroom影像精修速成班
出版社:尖端出版
価格:NT$480/HK$160

なにゆえ意外なのかというと、写真本とソフト解説本では、翻訳作業の量が桁違いだからだ。オールドレンズ・ライフを例にとると、この手の写真の本は画像をすべて流用し、文章だけ翻訳して流し込めばOK。ただし、ソフト解説本はそうはいかない。

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ソフト解説本は大量のスクリーンショット(ソフトウェアの画面画像)が載っている。ぼくは日本語版のLightroomでスクリーンショットを制作しているが、翻訳本となれば、これらを現地語のソフトウェアの画面に置き換えなくてはならない。要はメニュー項目をすべて現地語に置き換えていくわけだ。作業的にはフォトショップで合成するだけだが、なにしろ一冊分だ、枚数が尋常じゃない。台湾語版の編集さん、マジお疲れっす。この作業はチトしんどいわ(泣)。

台湾語の書籍は香港の皆さんも読めるとのこと。台湾と香港のデジタルカメラユーザーの皆さん、画像編集のステップアップにぜひ!

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May 19, 2017

20年前に読みたかった本を書く

「作品づくりが上達するRAW現像読本」の見本誌が届いた。発売から1年以上たった今、なぜ見本誌が届くのか。それは増刷がかかったからだ。増刷がかかると、その都度見本誌が届く。この2度目の見本誌が著者にとってどれほどうれしいか、説明するまでもない。

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奥付を見ると、4版と記してある。これは4回刷ったという意味だ。約1年で3回増刷したことになる。本が売れるのは著者としてうれしい話だが、RAW現像本に関しては、それとは別のうれしさがある。ぼくにとってこの本は、20年越しの因縁の書なのだ。

話は1990年代後半、世がパソコンブームで沸いていた頃に遡る。当時パソコン誌で記事を書いていたぼくは、あるアプリケーションが気に入っていた。「Paint Shop Pro」という画像編集ソフトだ。有り体に言うとナンチャッテフォトショップなのだが、画像編集はちょっとしたカルチャーショックだった。スキャナや30万画素のデジタルカメラで撮った画像を読み込み、明るさや色調をいじる。目の前のディスプレイ上で、自分で撮った写真を鮮やかにしたり明るくしたり、自在にコントロールできることに興奮した。この時代、パソコンは文字通り、魔法の箱だった。

ただし、画像編集の壁にすぐさま突き当たった。明るさとコントラストのちがいがわからない。彩度と色相のちがいもわからない。ディスプレイ上で効果の相違は確認できるのだが、どのような場面でどの機能を使えばよいのか、まったく見当がつかなかった。

画像編集ソフトのマニュアル本を読んでみたものの、搭載機能の使い方が書いてあるだけで、写真仕上げの落とし所については説明していない。プロカメラマンに話をふってみても、当時はまだフィルムが全盛だったこともあり、画像編集ソフトについてのノウハウは大して聞き出せなかった。レタッチャーという職種がクローズアップされたのはこの時期だと記憶しているが、彼らのフィールドはあくまでも商業印刷であり、そのノウハウは一般のパソコンユーザーには縁遠い。そうした中、こう思ったことをよくおぼえている。

誰か、画像編集の極意書を書いてくれ。

当時から画像編集のわかりやすい解説書は存在した。ただし、「この画像に○○機能を適用すると、このように仕上がります」という特定画像に限定された解説が多かった。そこで解説されたノウハウは、別の画像の場合、どう適用すればよいのか。初心者にはそれがわからない。一問一答形式で、「こういう画像はこうしろ!」みたいな画像編集の本が読みたい。頼む、誰か書いてくれ。そう思ったのが20年前の話だ。

「作品づくりが上達するRAW現像読本」を書くとき、20年前の画像編集の極意書が脳裏を過ぎった。元々パソコン誌で仕事をしていたので、アプリケーションの操作解説は慣れた仕事だ。そしてこの10年は写真漬けだったので、画像編集についてそれなりにノウハウの蓄積ができている。20年前に読みたかった本を、自分で書いてみるか。

詰まるところ画像編集は、アプリケーションの操作だけでなく、画像コンディションを分析する力が大切だ。目の前の画像はどのような状態で、それをどういう方向に持っていくのか。そしてそのためにどのような機能を使えばいいのか。アプリの操作と写真の分析、この両面についての掘り下げが重要だ。本書はそんなことを考えながら書き進めた。

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さてこの本は、みなさんにとって画像編集の極意書になれただろうか。4刷りまでいったということは、それなりに評価されたのだと思いたいのだが。

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