エッセイ
September 10, 2024
September 04, 2024
マウントアダプター・エッセイ集、発売です!
マウントアダプター・エッセイ集、発売です。オールドレンズブーム前夜から全盛期にかけて、銘品と呼ばれるマウントアダプター、業界裏話、マウント改造など、マウントアダプターを巡るエピソードをたっぷり収録しました。
タイトルの「爪痕」は、オールドレンズブームという歴史に爪痕を残したマウントアダプターという意味です。けっして質の悪いマウントアダプターがカメラのマウントを傷つけた、という話ではありません。ちなみに、サブタイトルは「オールドレンズ沼よりマウントアダプター大湿原」です。ずぶずぶです。
第1部「マウントアダプターの爪痕」
第2部「墓まで持っていくのはやめた」
第3部「マウント改造は蜜の味」
こんな三部構成で傑作マウントアダプターや業界裏話をもりもりと詰め込みました。当時の製品写真も載せています。昔を懐かしむ意味を込めてすべてモノクロ画像にしました。
紙版はペイラインのメドがついたら検討、とさせてください。なにぶんセルフ出版は売れないとただ働きなのです。前作の「CMOSセンサーに心が写ると信じているのか?」でもだいぶ苦労しました。売り上げ的にメドがついたら、紙版制作のために時間を取りたいと思います。
これまでどこにも書かなかったマウントアダプターの本音と裏話、ぜひお楽しみください。また、前作カメラ・エッセイ集も合わせてご覧いただけるとうれしいです。
August 03, 2024
たかが機材名。
機材名の要不要なんて、議論するまでもない。
写真展やSNSで写真を公開するとき、機材名は必要だろうか。こんなことを議論するのはナンセンスだ。機材名という《言葉》を添えるのか、添えないのか。これは撮影者が《機材名=言葉》を伝えたいのか、そうではないのか、という点に尽きる。
単なるコミュニケーションにすぎない。
伝えたいなら明記すればいい。伝えたくないなら書かなければいい。それは当人の問題であって、他人がとやかく言うことではない。強制するようなものでもない。
すきにすればいい。
機材名があれば、その機材を使っている仲間とつながれる。お気に入りの機材を自慢する、というスタンスだってけっこう。機材自慢もカメラ写真の楽しみ方のひとつだ。そんなこと、大人なら誰だってわかっている。
お互い機材を通じて楽しくやればいい。
機材名がなければ写真を純粋に見てもらえる。写真で勝負したいなら、機材名は控えたほうがいいかもしれない。
でも、機材名がないから写真が評価される、という話ではない。
僕の経験で言うと、日本カメラの口絵に掲載してもらったとき、機材名は載せている。撮影データは省略したが、機材名は必要だった。ムックのフォトギャラリーでもあたりまえのように機材名を入れる。作品力で勝負する場面でも、機材名が要求されることはけっしてめずらしくない。
個展では機材名を載せないが、鑑賞者から機材を問われることは多々ある。「写真よりも機材が気になったのだな」と寂しい気持ちにもなるが、それは己の実力不足にすぎない。ただここで重要なのが、鑑賞者は《機材という言葉》で僕とコミュニケーションを取りたいと意思表示している点だ。それに応えるのか、無視するのか。人との交流をどう考えるか、態度が問われることになる。
機材名なしで写真で勝負しろ!
そんな威勢のいい言葉をSNSで見かけた。いま話題の炎上系フォトグラファーの言葉だ。ストイックな姿勢は若い人の心を打つ。ピュアに感じられるからだ。でもそれが、カルトやファシストの常套手段であることを、人生折り返しをすぎた僕はよく知っている。一元的な言葉は人々から迷いを削ぎ、思考停止を促す。
そして壇上の男は言う。私についてこい、と。
これは政治の話ではない。たかが写真の話だ。しかし、自由な写真表現の空間が、カルトやファシズムでどす黒く塗りつぶされる様子を看過できるほど、僕は老いていない。
村上龍「愛と幻想のファシズム」について、こんな論評を読んだおぼえがある。主人公トウジのようなカリスマをもつ独裁者が実際に現れたら、それは全力で叩かなければならない、と。
たかが機材名というなかれ。炎上商法にマジレス、と侮るなかれ。扇動者はいつだって自由を狩りにくる。そうした者が写真界隈に現れたことに、大きな危惧をおぼえる。大好きな写真とカメラが、いつまでも自由であってほしい。
July 14, 2024
ペーパーバックを追加しました!
先日出版したKindle版(電子版)のカメラ・エッセイ集にペーパーバック(紙版)を追加しました。四六判厚さ1センチのしっかりした作りです。読書はやはり紙にかぎる、という方はぜひ! なお、電子版も引き続き発売中です。
●カメラ・エッセイ集
CMOSセンサーに心が写ると信じているのか?
著者:澤村 徹
July 07, 2024
マニアのための辛口カメラ・エッセイ集発売です!
新刊のお知らせです。オールドレンズ、ライカ、雑誌の裏話など、マニアックなカメラネタをたっぷり詰め込んだエッセイ集を出版しました。Threadsに掲載したものに大幅加筆し、さらに収録分の半分以上は書き下ろしエッセイです。
ちなみに、本書はKindleのみの発売です。つまり、セルフ出版。お目付役の編集部や広告クライアントがありません。書きたい放題。もちろん、下品な物言いはしていませんが、いつもよりは本音を多めに盛った文章が載っています。ぜひご高覧のほど、よろしくお願いいたします。
●カメラ・エッセイ集
CMOSセンサーに心が写ると信じているのか?
著者:澤村 徹
出版:Office TSSR
May 09, 2024
カメラ・ショートショートはじめました。
最近、カメラ・ショートショート(掌編小説)をコツコツと書いています。とりあえず10編ほど、電子ブックにまとめてみました。カメラ系の読み物が好きな方、ぜひご一読を。だいぶマニアなカメラネタに全振りしていますが、カメラ好きの人ならニヤニヤと楽しんでもらえると思います。
January 04, 2024
写真の行方
祖父の撮った膨大な写真は、もうこの世にない。一葉の写真も残っていない。
祖父はライカ使いだった。ライカ・コンタックス論争で有名な小冊子「降り懸かる火の粉は拂はねばならぬ」に寄稿していたほどなので、当時はブイブイと言わせたライカ使いだったのだろう。
実家の屋根裏部屋には壁面を埋める大きな本棚があり、すべての棚がモノクロプリントのアルバムで埋まっていた。祖父曰く、「白から黒まですべての階調が揃った写真がいいモノクロ写真だ」という。父がそんな話を祖父から聞いたと言っていた。
祖父が亡くなり実家を売り払うとき、その他の家財道具といっしょにアルバムは処分された。当時、僕は写真やカメラと無縁の生活を送っていたので、写真の行方にまったく興味がなかった。祖父の写真を一度も見ることなく、気づけばそれらは姿を消していた。いま思うと、何枚かでも残しておけばと思う。
でも仕方のないことなのだ。
家族と縁もゆかりもない被写体が写った写真など、残された家族はまったく興味が持てない。だからそれは、仕方のないことなのだ。
これまでの写真をすべてバックアップしたハードディスクの山を前に、そんなことを思った。
January 03, 2024
内爪ニコンSが出てくる小説のワンシーン
「あなた、内爪ニコンSなんですって?」
桂木さんはそう言うと僕の前に腰かけた。学食にはたくさんの空いた席がある。僕と相席する必要はない。経済学部の学食には日当たりの良い席がたくさん用意されているのだ。それはもうKIPONのマウントアダプターの種類にも負けないほどに。
「学校でそのことは伏せてるんだ。ヘリコイドがないって知られると、いろいろと都合が悪いからね」
学食から学生たちの姿が消えていた。すでにチャイムが鳴っていたのだ。僕らはいつも少し遅れて大切なことに気づく。取り返しがつかないほどではないけれど。
「あたなのこと、試してみたいの」
やれやれ、またその話か。何度カプラーからそう声をかけられたことか。コンタックスCとの互換性の話はウンザリだ。
「僕はゾナーじゃない。ニッコールはゾナーの代わりになれない」
コップのお茶を飲み干し、トレーを持って席を立つ。返却口はすでにたくさんの食器とトレーで埋まっていた。そんな僕の背後から、桂木さんが言葉を浴びせかける。それは僕がもっとも聞きたくない言葉だった。
「フランジバックが同じって知ってるんだから!」
(続かない)
炎上するならディベートすればいい
またもや炎上している。撮って出しとフルサイズが。
一体何度目だろう。僕のオールドレンズ撮影はRAWストレート現像派なので、撮って出し擁護で議論に参加したくなる。
でもしない。結論が出ないから。
撮って出しとフルサイズ、これらは結論の出ない議題だ。撮って出し絶対主義もレタッチ新自由主義も、フルサイズ保守党だろうとAPS-C解放戦線だろうと、けっして結論が出ることはない。何を言っても反論があり、何を言われても反論できる。
これってディベートのお題目じゃないか。
CP+でディベートをやればいいのに。会場のメインステージで、デジカメ炎上ディベート大会を開くのだ。大御所の先生や業界関係者に登壇してもらい、その場でくじを引いて賛成反対を決める。普段の主義主張は関係ない。どのみち結論の出ないお題目なのだから、くじで決まったポジションでディベートしてもらう。
マイクロフォーサーズを使う写真家のフルサイズ擁護、中判ミラーレスメーカーのAPS-C賛歌、JPEG派報道カメラマンが語るプロの仕上げ論、RAW現像ソフト開発者による撮って出しの主張。
マズイ、盛り上がる予感しかしない。
世界標準
そのとき初めて世界標準に触れたのだ。
久しぶりの写真展開催だった。会場は新宿マルイ本館の八階。同じ階にスターバックスがあり、一般のお客さんも写真を見てくれる。自分の写真が世間に通用するのか、いい腕試しになる。しかし、隣が免税受付カウンターであることを見落としていた。
外国人のお客さんが多いのだ。
米国人っぽい老夫婦とその息子達。息子のひとりが近づいてきて、こう言った。このプリントを売ってほしい。B0サイズの巨大パネルを指さしていた。このときの写真展はプリント販売していたが、用意したサイズはA3とA4。畳のようなB0サイズの販売は想定外だ。しかも彼はこう続けた。
これがほしい。これを持って帰る。
まさかのお持ち帰りをご所望だ。両親の家の壁にドーンと飾りたいという。老婆が期待を眼差しを僕に向ける。しかしB0パネルを梱包する用意はなく、「これは展示用の非売品です」と伝えて販売を断った。惜しいことをした。
二人目はイケメンだった。北欧出身の俳優ビョルン・アンドレセンみたいな美少年が、マネージャーっぽい男を連れてやってきた。どこぞのモデルかタレントか。放つオーラがすごいことになっていた。背景にバラが見えた。
この写真のデータを売ってくれ。
美少年がそう言うのだ。バラを背景に。すんでのところで「はい!」と即答しそうだったが、どうにか正気を保つ。彼は続ける。自分で大きくプリントして飾りたい。日本からプリントを持って帰るのは大変だろ、と。言わんとすることはわかる。でも、データ譲渡はさすがに無理だ。
美少年が帰った後、スタッフが近づいてきてこんなことを言う。さっきのデータ販売、十万円だったら売りましたか、と。
売る。十万なら売る。
大きくプリントして壁中貼ってくれてかまわない。プリントTシャツにして大量販売したっていい。十万円ならぜんぜん元が取れる。NFTアート、やっておけばよかった。
世界の住宅の壁は広くてデカイ。A4プリント売ってる場合じゃなかった。この日、世界標準に触れた。
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