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January 03, 2024

世界標準

そのとき初めて世界標準に触れたのだ。

久しぶりの写真展開催だった。会場は新宿マルイ本館の八階。同じ階にスターバックスがあり、一般のお客さんも写真を見てくれる。自分の写真が世間に通用するのか、いい腕試しになる。しかし、隣が免税受付カウンターであることを見落としていた。

外国人のお客さんが多いのだ。

米国人っぽい老夫婦とその息子達。息子のひとりが近づいてきて、こう言った。このプリントを売ってほしい。B0サイズの巨大パネルを指さしていた。このときの写真展はプリント販売していたが、用意したサイズはA3とA4。畳のようなB0サイズの販売は想定外だ。しかも彼はこう続けた。

これがほしい。これを持って帰る。

まさかのお持ち帰りをご所望だ。両親の家の壁にドーンと飾りたいという。老婆が期待を眼差しを僕に向ける。しかしB0パネルを梱包する用意はなく、「これは展示用の非売品です」と伝えて販売を断った。惜しいことをした。

二人目はイケメンだった。北欧出身の俳優ビョルン・アンドレセンみたいな美少年が、マネージャーっぽい男を連れてやってきた。どこぞのモデルかタレントか。放つオーラがすごいことになっていた。背景にバラが見えた。

この写真のデータを売ってくれ。

美少年がそう言うのだ。バラを背景に。すんでのところで「はい!」と即答しそうだったが、どうにか正気を保つ。彼は続ける。自分で大きくプリントして飾りたい。日本からプリントを持って帰るのは大変だろ、と。言わんとすることはわかる。でも、データ譲渡はさすがに無理だ。

美少年が帰った後、スタッフが近づいてきてこんなことを言う。さっきのデータ販売、十万円だったら売りましたか、と。

売る。十万なら売る。

大きくプリントして壁中貼ってくれてかまわない。プリントTシャツにして大量販売したっていい。十万円ならぜんぜん元が取れる。NFTアート、やっておけばよかった。

世界の住宅の壁は広くてデカイ。A4プリント売ってる場合じゃなかった。この日、世界標準に触れた。

 

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