内爪ニコンSが出てくる小説のワンシーン
「あなた、内爪ニコンSなんですって?」
桂木さんはそう言うと僕の前に腰かけた。学食にはたくさんの空いた席がある。僕と相席する必要はない。経済学部の学食には日当たりの良い席がたくさん用意されているのだ。それはもうKIPONのマウントアダプターの種類にも負けないほどに。
「学校でそのことは伏せてるんだ。ヘリコイドがないって知られると、いろいろと都合が悪いからね」
学食から学生たちの姿が消えていた。すでにチャイムが鳴っていたのだ。僕らはいつも少し遅れて大切なことに気づく。取り返しがつかないほどではないけれど。
「あたなのこと、試してみたいの」
やれやれ、またその話か。何度カプラーからそう声をかけられたことか。コンタックスCとの互換性の話はウンザリだ。
「僕はゾナーじゃない。ニッコールはゾナーの代わりになれない」
コップのお茶を飲み干し、トレーを持って席を立つ。返却口はすでにたくさんの食器とトレーで埋まっていた。そんな僕の背後から、桂木さんが言葉を浴びせかける。それは僕がもっとも聞きたくない言葉だった。
「フランジバックが同じって知ってるんだから!」
(続かない)
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