小説を書いたワケ【カメラホリックレトロVol.2】
先日発売のカメラホリック レトロ Vol.2で、「反転ノクチの妖精」という小説を書いた。タイトルからそれとなくわかる通り、古い大口径レンズをめぐるファンタジー小説だ。オールドレンズ本になぜ小説? そもそも澤村って小説なんて書けるの!? とまあモヤッとしている人が多いだろう。僕がレトロVol.2に小説を書いたワケを説明してみたい。
カメラホリック レトロ Vol.2[ホビージャパン][Amazon]
発売日:2022年10月24日
出版社:ホビージャパン
税込価格:2,970円
昨年、「オールドレンズはバベルの塔」というエッセイ集を出した。この本、立て付けこそエッセイだが、実のところ執筆手法は完全に小説だ。帯びに「事実か、虚構か……」とあるのはそういう事情があったからである。本の目的は「オールドレンズにふりまわされる男」を描くことなのだが、まったくの小説にしてしまうと現実味が乏しい。そこで僕の半生をベースに「オールドレンズとともに歩む人生」を書くことにした。つまりエッセイの顔をした小説だ。
そんなややこしいスタンスで書いたものだから、読者の皆さんもだいぶ混乱したらしい。「オールドレンズ本なのにオールドレンズの情報が少ない」と怒られることもしばしばだった。でも、読み物として捉えてくれた人の評判はよく、この本の目的、「オールドレンズにふりまわされる男」の悲喜こもごもを楽しんでもらえた。その結果出てきた意見が、「もう小説書いちゃえば?」だった。
カメラホリックの編集者から「小説で何か賞獲りなよ。そしたらエッセイ集が売れるから」と半ば冗談、半ば本気で言われ、さすがに五十をすぎて新人賞狙いはなあと途方にくれる。ただこのとき、オールドレンズファン限定で小説を書くことを思いついた。いわゆるレンズ解説とは違った切り口で、オールドレンズの魅力を表現できないか。賞は無理だけど、レトロに小説を載せるという線で勘弁してもらった。レトロで僕の小説を読んで、気に入ってくれたら「オールドレンズはバベルの塔」もぜひ、という戦略。戦略というにはあまりにわかりやすいけど(笑)。
こんな経緯で生まれた「反転ノクチの妖精」だが、思いついたからといってすぐに小説が書けるはずもなく……。いわゆる雑誌の原稿と小説は別モノ。原稿書きに慣れているライターでも、小説を書くにはそれ相応の訓練が必要だ。ただ僕の場合、この訓練は不要だった。
実は僕が文章を書くキッカケこそが小説だったからだ。大学生の頃、文章を書く楽しさに目覚め、仲間うちで同人誌のようなものを作っていた。大学四年間、ほぼ小説ばかり書いて過ごした。このあたりの話はレトロVol.2のフォトギャラリーの解説文で触れている。気になる人はそちらも読んでみてほしい。
社会人になってからも、フリーライターになってからも小説は書き続け、大手出版社の新人文学賞で最終候補に残ったのが人生のハイライト。その後、思うところあって筆を折った。筆を折ったはかっこつけすぎか。ライター業を優先し、小説はまた気持ちがのったら再開しようと少し距離を置くことにした。それが三十代後半の話だ。
期せずして十数年ぶり(いや、もはや二十年近いか)に小説を書き、あの頃より少しばかりうまくなったような気がする。読み手を意識しながら小説が書けるようになったのは、きっと長らくライターを続けたおかげだろう。もちろん、気のせいかもしれないけど。
何が言いたかったのかというと、小説自体は書き慣れているよ、という話。アマチュアではあるけれど、新人賞で最終選考に残る程度の書き手ではあるので、ストレスなく読んでもらえるはず。レトロVol.2の「反転ノクチの妖精」、ぜひご一読を。