朝イチの高速バスで香港を発ち、4時間半ほどで開平のホテルにチェックインできた。ホテルのレストランで昼食を済ませ、撮影の準備に取りかかる。普段、海外ロケにはたんまりと機材を持ち込む。ボディ3台、レンズ10本程度が標準的な機材で、1日3本ペースで撮っていく。しかし、今回の開平行きは機材を最小限に絞り込んだ。理由は、香港経由で中国に入るからだ。
昼食後、まだ青い空が見える。この日、目的地に着くとだいぶ雲が厚くなってしまった。
香港から中国へ出入国する際、同一製品の大量持ち込みはとがめられるリスクがあるという。日用生活品を香港から中国に持ち込む、いわゆる運び屋が横行しているからだ。あらぬ嫌疑でカメラとレンズを没収されてはたまらない。今回はボディ2台、レンズ4本というミニマム構成で撮影に挑むことにした。
(ボディ)
Leica M8
Leica M10
(レンズ)
Ultra Wide-Heliar 12mmF5.6 Aspherical
G Biogon T* 28mmF2.8
Summilux-M 35mmF1.4
Tele-Elmarit 90mmF2.8
標準レンズが含まれていないが、APS-HのライカM8にズミルックス35ミリを付けると標準画角になる。中望遠は持参したものの、結局は使わずじまいだった。レンズセレクトについては改めて後述したい。
ホテルのロビーに集合。Turtlebackのメンバーはすでに三脚を立て、GoProでムービーを撮りはじめ、やる気満々だ。あえて言うけど、まだホテルのロビーだからね。
さあ、いよいよ撮影だ。ワゴンタイプのタクシーで赤坎鎮を目指す。中国の運転の荒さは覚悟していたが、川沿いの大荒れの舗装路をノンブレーキが突っ走る。アスファルトはひび割れ、傾き、陥没しているのだが、そんなことはおかまいなし。スクーターを避けるために反対車線に出る。対向車はノンブレーキ、こちらもノンブレーキ。素でチキンレースをやるのだからたまらない。道の両脇に田んぼが広がり、目をこらすと、その奥にレンガ造りの民家が密集している。望楼らしきものも見える。これぞ開平といった村落が、道の両脇の至るとところに広がっていた。正直言って、「赤坎鎮まで行かなくても、ここと撮ってもいいのでは?」というくらいどこもかしこも開平状態なのだ。
開平は基本的に田舎町だ。山河がゆったりとした時間とともに広がる。世界遺産以外にも撮りたいものがたくさんある。
タクシーが一気に速度を落とす。景色が一変する。2~3階建ての建物が両サイドから迫る。まるで側溝の底をミニカーで走るような気分だ。建物の多くは、西洋とアジアをミックスした開平特有の建築様式をまとっている。どうやら赤坎鎮の旧市街に入ったようだ。西洋化するチャイナというイメージは、映画による刷り込みが多い。事実、この赤坎鎮は映画のロケ地として幾度も登場しているらしい。近代化する中国のテンプレ的風景がここにある。貧弱な発想でアレだが、とりあえず、ジャッキーが5人ぐらいは出てきそうな街だ。
赤坎鎮は道の両サイドにファザードがつづく。メインストリートは意外と交通量が多く、特に電動自転車の普及は目を見張るものがある。
赤坎鎮の観光地的なメインスポットは、川沿いにある三門里の迎龍楼だ。華洋折衷のファザードが川に沿ってつづいている。赤坎鎮でググって出てくる画像がここだ。特に対岸からの写真はお約束の構図となる。ただ、さすがは世界遺産、この通りはお土産屋や屋台が並び、すっかり俗化している。ここをお目当てに撮り出すと、あまりの観光地っぷりにちょっとがっかりするだろう。ただし、案ずることはない。本番の撮影は、道を一本入ったところからはじまる。
三門里の迎龍楼のファザード。こういう華洋折衷の建物が川に沿ってずっとつづいている。これを狙うなら対岸からの撮影がオススメ。
川沿いの通りは観光地化が進み、お土産屋と屋台が、軒ならぬパラソルを連ねる。見方を変えると、ここに来れば食事と水にありつけ、用も足せる。撮影旅行の場合、観光地化したスポットはある意味オアシスだ。
赤坎鎮のアイコン的な古い石橋は、補修のため通行禁止になっていた。ここの中程からファザードの壁を狙いたかった。
川沿いにライトアップ用の照明器具を発見。夜になるとライトアップするようだが、あまりの暑さにそれまで待てなかった。
豆腐と獅子唐にスライスした鶏肉を貼り付け、しっかり焦げ目を付ける。これがスパイシーでうまい。とにかく蒸し暑いので、辛いもので体に活を入れないとやってられない。
細い路地を進むと、目の前の光景はほぼ遺跡だった。しかし、そこには人々の生活が根付いている。遺跡に住む人々、とでも言えばいいのか。強烈なタウンエイジングだ。街自体は古いのだが、驚くほど活気がある。マーケットや屋台は人であふれ、スクーターと電動自転車が群れをなして行き交う。圧倒されるが、賑やかな方が写真は撮りやすい。そもそも世界遺産に指定されている街なので、写真を撮っていてもさほど奇異の目で見られない。が、調子にのるのは禁物だ。路地を奥まったところまで進むと、目に見えないゲートのようなものを感じる。ここから先に進むと、身ぐるみ剥がされても文句言えないな、と。こういうのは理屈ではないので、違和感をおぼえたときは引き返すにかぎる。
川から1~2本奥まった道を行くと、一気に生活臭が強くなる。ここからが撮影本番だ。
映画に出てきそうなバルコニー付きの建物に、洗濯物が鈴なりだ。このギャップがたまらない。いや、そもそもこれがギャップなのかどうか(汗)。
廃墟一歩手前といった風情だが、路上駐車したクルマが生活の場であることを教えてくれる。
Turtlebackメンバーがイチ押しするロケーション。オールドレンズファンならば、赤坎鎮のランドマークはこれに決定。
映画のセットではない。時の経過のなれの果てだ。こういう光景が至るところにあり、次第に視神経が麻痺してくる。
ここで足が止った。赤坎鎮は生活臭の強い街だが、路上にゴミは散乱していなかった。ここから先は進んだらダメだと思った。
赤坎鎮は旧市街ならではのタイムスリップ感をたっぷり楽しめる。建物だけでなく、濃密な生活感に満ちているのがよい。写真を撮る身としては、映画のロケ地云々という蘊蓄はあまり気持ちがのらない。旧市街の生活臭がフォトジェニックだ。
●TurtlebackTurtlebackオールドレンズ・ワークショップ第2弾
澤村徹と行く開平ワークショップ
2017年11月23日~26日
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