【開平ロケハン記03】 遺跡に住む人々
ロケハン2日目、朝イチで錦江里に向かう。世界遺産に指定されている村落の中で、開平市街からもっとも離れた場所にある村落だ。タクシーで国道級の道を30分ほど飛ばす。スピードダウンと同時に周囲を見ると、明らかなスラム街に入っていった。それを抜けると一気に視界が開け、どこまでも田んぼが広がる。その田んぼのあちらこちらに、望楼と石造りの家々が点在する。昨日の赤坎鎮は商業地だったが、錦江里は農村だ。
世界遺産に指定されている村落は入園料がかかる。5つの村落で使えるフリーパスが180元。日本円で3,000円前後だ。中国の物価水準からすると、そこそこの金額だと思う。ただ、このお金が村落にフィードバックされ、村落内の道や公衆トイレに姿を変え、観光地としての機能を備えていく。今回、開平の村落を回ってトイレや水分補給に困ったことはなかった。フォトジェニックなロケーションの観光地化は賛否両論あると思うが、僻地で適度な生活水準をキープしてくれると、撮ることに集中できるのでありがたい。
180元のフリーパスで、立園、自力村、馬降龍、錦江里、南楼の5カ所を回れる。今回のロケハンでは南楼以外の4カ所と赤坎鎮を撮り歩いた。
錦江里はこじんまりとした農村だ。すぐ脇を川が流れ、牛やニワトリの姿が見える。取って付けたような石門をくぐると、一世紀ぐらいタイプスリップしたような感覚に襲われた。石造りの民家がひしめくように身を寄せ合い、その奥に華洋折衷の望楼がそびえ立つ。村落前の広場では、住人が農作物を天日干しにしていた。
錦江里の入口にある石門。ここをくぐって村落に入る。そこはかとなくアトラクションっぽくてアレだけど、一歩足を踏み入れると別世界が待っている。
養鶏が盛んな村のようで、至るところにニワトリがいた。養鶏は短時間で現金化できるため、中国の農村ではよく行われているらしい。
土手に上がって村落を俯瞰し、何回もシャッターを切る。次は村落の中へ突入だ。水平に並んだ家々が城壁のようだ。あとで知ったことだが、事実、昔は路地を塞いで城壁の役割を持たせたらしい。細い路地に身を滑らせ、石造りの家々を巡る。窓の隙間からテレビの声が漏れ、食器の触れ合う音が鳴る。人が住んでいる。観光用の遺跡ではない。正真正銘の民家だ。日光江戸村に人が住んでいたら、ちょうどこんな感じだろうか。
土手から村を一望する。望楼の手前に石造りに家々が密集する。右下にご婦人と赤ちゃんが写り込み、そのスケールがわかるだろう。
路地は狭く、息を潜めて歩くと、生活音がすぐさまに耳に入ってくる。錦江里の住人は観光客に行為的で、写真は撮りやすかった。ちなみに、馬降龍は住人と観光客のトラブルが多いという。実際、馬降龍をロケしたとき、監視員のような男に立ち入りをとがめられることがあった。
村落の一番奥に望楼が建つ。この望楼は公開されていて、てっぺんまで登れる。錦江里だけではなく、世界遺産に指定された村落の望楼は、観光客に公開されているものが多い。フォトグラファーにとってこれはパラダイスだ。柵もない、ガラスもない。下界に広がる屋根の海に、素のままレンズを向けて撮影できる。俯瞰パラダイス。これはたまらない。
望楼に昇って村を俯瞰する。日本は素通しで俯瞰できる場所が減っているので、こういうロケーションで撮れるのはとても楽しい。
昼メシ時、この村唯一の食堂に入る。そもそも、この村落に食堂があること自体に驚いたのだが、店内に入るともっと驚くことになった。食堂というよりも、どう見ても一般家庭のダイニングなのだ。がっかりしているのではない。これ幸いと写真を撮り出す。一般家庭の写真なんて、早々撮れるものではない。台所にはかまどが鎮座する。壁はご先祖の肖像。前時代的な光景にシャッターを切る指が止らない。この家のおじさんとおばさんも撮られ慣れているのだろう。カメラの前でにっこりスマイルだ。
食堂といってもダイニングテーブルがひとつあるだけ。このときは他にお客さんもおらず、Turtlebackのメンバーでテーブルを占拠する。
席に着くと、ざっくりと切り分けたマンゴーが出てくる。これから作るんで、とりあえずこれでもつまんで待っていてくれ、ということらしい。家庭料理の店でそんなに待たされることもなかろうと思ったのだが、甘かった。
おじさんとおばさんが目の前のキッチンで調理をはじめる。いや、調理ではない。食材の調達からはじまった。名シェフたるもの、食材へのこだわりがハンパないのだ。おばさんが黒い物体をキュッと締める。あれって、庭でコケコッて鳴いていたやつだよね。待つことしばし、活きのいい鶏料理が食卓に並ぶ。もちろん抜群にうまい。なにしろ活き作りだからな。
お通し代わりのマンゴー。たぶん、さっき庭で取ってきたのだと思う。
調理場に鎮座するかまど。でも、左横にはちゃんとガス台もあるのでご安心を。
おばさんが慣れた手つきでコケコッをお肉にさばいていく。帰国して妻にこの話をしたら、「子供の頃、晩ごはんがトリカラの日は、じーちゃんが裏庭で何かごそごそやってた」と衝撃のカミングアウトが。
瓜と砂肝のカレー風味炒め。おいしくいただきました。ちなみに、向こうは鶏肉というと骨ごとぶつ切りなので、日本人の感覚からするとかなりワイルドだ。
帰り際、店のおじさんが近づいてきた。「さっき撮ってもらった写真、ウィーチャット(中国のLINEに似たアプリ)で送ってくれないか」とスマホを取り出す。ちょっと待て、ここでスマホ? あれだけ前時代的ライフスタイルを見せておいて、スマホなの!? 錦江里、侮れない村だ。
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