今回の香港行きで、鯉魚門(レイユームン)を二度訪れた。香港ワークショップの最終日に訪れる予定の地だが、実は4月のロケハンで下見できなかった場所なのだ。そのため、ワークショップ初日、集合時間前にレイユームンを下見することにした。
レイユームンはひなびた漁村であり、同時にちょっとした観光地でもある。船溜まりの奥に古い建物が並んでいるのがわかるだろう。この一帯は生け簀とレストランが軒を連ねている。生け簀で魚介類を注文し、レストランで調理してもらうというシステムだ。日本で言うと、おいしい魚を食べに伊豆に行く、みたいな感じだろうか。
それなりに観光地化した場所なのだが、建物は古く、寂れたバスケットコートに放し飼いの犬が寝そべるなど、なかなかどうしてフォトジェニックな場所だ。香港通からすると、手垢にまみれたスポットかもしれないけど。
レストラン街を抜けるとこの燈台(!?)にたどり着く。ここがレイユームンのランドマークだ。観光客はここまでやってきて記念写真を撮り、折り返していく。しかし、写真好きにとっては、むしろここからが本番だ。
燈台から東に歩き出すと、超絶ひなびた漁村があらわれる。たぶん、ひとりだとブルって歩けないほどの枯れようだ。
下着類もかまわず外乾しだ。生活空間に立ち入った感がハンパない。ただ、観光地と隣接しているためか、通行人や撮影に対し、それほどナーバスな感じはない。
さらに歩くと廟に到着する。この廟の中にはらせん状の線香がたくさん吊してあり、被写体にもってこいだ。ここまで歩いてくる観光客もそこそこいる。実は夕方になると夕焼けの名スポットと化し、三脚持参のカメラマンでごった返す。とりあえず、ここまでがレイユームンのお約束スポットである。ただし、我々ロケ隊はさらに東に向かって歩いて行く。
道幅が急激に狭くなり、屋根の上から犬に吠えられる。このあたりは放し飼いの犬がたくさんいて、ひとり歩きはかなりリスキーだ。この屋根の上の犬がやたらと吠える。それでも我々は進む。ちょっと尋常じゃないくらい吠える。それでも歩みを進めると、なんと民家に囲まれ行き止まりになってしまった。引き返してみると、犬が吠えだしたところに分かれ道がある。どうやらこの犬、「ちがうって、道ちがうって! そっちじゃないから」と訴えていたらしい。番犬としていい仕事していたわけだね。犬は我々が分かれ道を歩き出すまで執拗に吠え続ける。ごめん、ホントごめんて。
最大の難関はここだろう。ここを左に折れて進むなんて、ひとりだったら絶対に無理だ。もちろんまっすぐ進むのは罰ゲームに他ならない。ただ壁をよく見ると、赤いペンキで「←可」と左に進めることが記されている。いやあ、仮にこの矢印に気付いてもひとりだったら進めないって(笑)。
生活臭はMAXモードに突入。ロケに同行しているスタッフもめっきり口数が減った。ときどきぼくを振り返り、いくの? マジでまだいくの!? と目で訴えてくる。
ひなびた漁村とかいうレベルじゃないね。部外者NGでしょ完全に。かろうじて遠くに見える高層ビルが香港であることを臭わすが、とんでもないところに来たなと泣きそうだ。しかし、このあと我々は至福の時を迎える。
いきなり採石場跡があらわれた。戦時中のものだろうか。突端の釣り人がいい雰囲気を醸してくれる。
ええ、ここに来たかったんです。ビビって引き返さずによかった。産業遺跡万歳!
さらに進むと、野っ原に地層剥き出しの崖というありえない光景があらわれた。現地スタッフも香港にこんなところがあるなんて知らなかったとのこと。ひなびた漁村→過剰な生活臭→トドメの最果て感と、トリプルコンボなロケーションだ。と、これだけなら、スゲエなあレイユームン、で終わるわけだが、実はこの話にはさらなる続きがある。ワークショップ最終日の日曜日、この場所を参加者ともども訪れたときのことだ。我々はこの最果ての地で桃源郷を目にすることになる。
カップルが廃墟に腰掛け、カメラマンに写真を撮らせている。右手前の三人もセルフィー目的の女の子たちだ。女子率急上昇である。
キャッキャうふふと黄色い声がする。そこいら中で写真の撮り合いっこだ。何のことはないレイユームンの突端は、セルフィーのメッカ、インスタグラマーの聖地だった。最後の二枚はエクター47ミリF2の開放である。女の子たちのキャピキャピふわふわした感じがよく表現できたと思う、ともっとらしくまとめるのすらアホらしい(笑)。レイユームンの秘境、日曜日はぜんぜんフツーに賑わってますからね。