先日、2種類のキノン50ミリF2を触れる機会があった。方やパクセッテのキノン50ミリF2。私物購入して最近お気に入りの一本だ。この間のデジカメドレスアップ主義でも使用した。硬めで暴れるボケといい、たっぷりの周辺減光といい、オールドレンズっぽさをわかりやすい形で見せてくれる。ネームバリューのわりに値段が手頃な点もいい。
Super Paxette IIB + Quinon 50mmF2
もう一本は知り合いから借りたライカLマウントのキノン50ミリF2だ。ライカユーザーにはおなじみだが、軽く20万超えする銘玉である。パクセッテのキノンにハマッていると話したら、撮り比べしてごらんと借り受けることができた。
ライカLのキノンはゾナー型だ。そしてパクセッテのキノンも長らくゾナー型と言われてきた。同じスペック、同時代のレンズ、そして互いにレンジファインダー機のレンズ。どちらもゾナー型と判断するにやぶさかではない。
ところがそれに異を唱える人たちが現れた。パクセッテのキノンはダブルガウスっぽい写りではないか? そもそもパクセッテはフランジバックが44mmと長く、バックフォーカスを稼げないゾナー型では構造上無理があるはず。パクセッテのキノンはゾナーか、それともダブルガウスか!? 局地的にパクセッテキノンのダブルガウス疑惑が持ち上がった。
でもそれって、バラせばすぐわかるよね? というわけで、パクセッテのキノン50ミリF2をバラす勇者が現れ、この疑惑は早々に決着した。ダブルガウス型でキマリだそうな。使えるキノンをバラした勇者に惜しみない拍手を!
そうなると、今度はパクセッテのキノンが何故ゾナーと信じられてきたのか、その点が気になってくる。ライカLのキノンと同じ構成と偽れば、高値でパクセッテのキノンをさばける? 中古レンズ業界の陰謀!? パクセッテのキノンは大して高くないので、陰謀論はちがうな(笑)。個人的な感触としては、たぶん、パクセッテキノンの開放描写のせいだと思う。
α7II Quinon 50mmF2 Paxette F2 1/1600秒 ISO100
一般にダブルガウス型のレンズは、開放で仄かに滲み、繊細な描写を得意とする。プラナーやズミルックスの繊細さをイメージするとわかりやすいだろう。ただし、開放F2のダブルガウスは少々事情が異なる。たとえばズミクロン35ミリF2は、すっきりくっきり写るレンズという捉え方になる。個人的に、このレンズをダブルガウス型の繊細タッチのレンズ、と意識したことはない。パクセッテのキノン50ミリF2も似た印象を受ける。開放からちゃんと使える、という印象だ。
パクセッテのキノンがダブルガウスだと聞いたとき、実はそのこと自体を疑ってしまった。むしろゾナーっぽくないか? 開放F2のダブルガウスは、そう誤解されても仕方ないようなシャープさがある。
Leica M Quinon 50mmF2 Leica L F2 1/350秒 ISO200
上の写真はライカLマウントのゾナー型キノンで撮ったカットだ。パクセッテのダブルガウス型キノンと明確なちがいを、即座に見出せるだろうか。むしろ、ゾナー型キノンの開放は滲みを伴い、F2ゾナーらしからぬ印象さえ感じられる。レンズ構成という先入観が、ややもすると混乱を招く。
この2枚、どっちのキノンで撮ったものかわかるだろうか。上がライカLのゾナー型キノン、下がパクセッテのダブルガウス型キノンだ。ともに開放撮影である。レンズ構成がわかったところで、端的にどちらがどっちかなんて判断できるものではない。
ただし、双方を使い込んでいくと、やはり2本のレンズに明確なちがいが見えてくる。パクセッテのダブルガウス型キノンは、とにかく暴れる。ボケは硬い上に乱れが強く、周辺減光も相まってドラマチックな描写になりやすい。一方、ライカLのゾナー型キノンは、どの絞りでも描写変化が少なく、安定した写りだ。クセ玉好きならパクセッテのキノン、正統派描写を求めるならライカLのキノンと言えるだろう。
α7II Quinon 50mmF2 Paxette F2 1/320秒 ISO100
個人的にはじゃじゃ馬なパクセッテキノンが好きかな。