Kindle写真集の作り方
先日、Kindleで写真集「BLACK MORNING」を自主出版してみた。Kindleダイレクトパブリッシングは、今後フリーランサーやアマチュアにとって強力なツールになる。そうはいっても、デジタルスキルがないとかなり歯ごたえのある世界で、かくいうぼくも相当苦労して出版にこぎつけた。そこで自分のための覚え書きもかねて、制作の流れをまとめておきたい。
●BLACK MORNING Digital Infrared Photography
まず、制作の大まかな流れを列挙しておこう。
(1)KDP(Kindleダイレクトパブリッシング)にアカウントを登録
(2)EPUB形式およびMOBI形式の書籍データを作成
(3)KDPに書籍データをアップロード
(4)KDPサイドでレビューが完了すると出版される
要は自前で書籍データを作り、KDPにアップロードすればよい。出版社を経由せず、完全自力で本を出版できるわけだ。販売数という問題を棚上げすれば、パソコンひとつで誰もが自主出版できる。現状はマーケットとして微々たるものだが、本のインディーズレーベルといったところだろうか。出版社に持ち込んでも書籍化が難しいような企画は、「とりあえずKindleで」という流れが今後できてくるかもしれない。
さて、問題は書籍データの作成だ。ぼくが作成に用いたアプリケーションは以下の通り。
ドキュメント作成:Adobe InDesign CS6
MOBI形式出力:Kindle Plugin for Adobe InDesign
プレビューソフト:Kindle Previewer
InDesignでドキュメントを作り、プラグインでMOBIに出力。出力したものをKindle Previewerで動作チェック、という流れになる。ドキュメントは、表紙画像、目次、本編をそれぞれ用意する。これらの具体的な作り方はケースバイケースだが、ぼくの場合は表紙画像をPhotoshopで作り、目次と本編をInDesignで作成した。目次はInDesignの目次作成機能で作っておくと、Kindleプラグインで出力した際にtoc.ncxとして認識される。実はこれが書籍としてとても重要なポイントだ。
左の画像はKindle本で移動メニューを開いた状態だ。Kindle本を数冊買ってみたところ、いくつかは目次がグレーアウトしていた。toc.ncxがちゃんと作成されていないと、「目次」がグレーアウトしてしまうようだ。実はこの目次まわりを完備したいがために、わざわざInDesignでドキュメント制作した。書籍としてお金を取る以上、最低限の体裁は整えたい。ぼくはEPUBを手書きするだけのノウハウがないので、ソフトの機能で補うことにした。
一通りドキュメントができたら動作チェックだ。完成したドキュメントをKindleプラグインでMOBI出力し、Kindle Previewerで表示してみる。ところがこのプレビューソフトがクセモノで、カラー画像なのにモノクロ表示しかできない。これが仕様と気づくまでにずいぶんとムダな時間を費やしてしまった。プレビューソフトは画面上でこそ「Kindle Paperwhite」と「Kindle DX」を選択できるようになっているが、どうやらKindle Paperwhiteモードしか動作しないようだ。プレビューソフト上はモノクロでも、KDPにアップロードすればちゃんとカラーで表示される。
また、リフロー型のドキュメントを作成した際は、見え方についてもさほどナーバスにならない方がよいだろう。書籍データはKindleだけでなく、iPhoneやAndroidでも表示されることになる。画面サイズが様々なので、ディテールにこだわってもあまり意味がない。ただし、ひとつだけ留意したいのは、改ページという概念だ。リフロー型コンテンツはページという概念がないものの、画像とテキストが混在した状態でベタ打ちすると、写真の上下にテキストがひっついて体裁がわるい。InDesign上で適宜改ページを打ち、リズムをつけるとよいだろう。
一冊出版してみて、大きな反省点はふたつある。ひとつはキャプションをしかるべき位置に表示できなかったこと、ふたつ目は表示環境によって不要な余白ページが入ってしまうこと。リフローという形態に慣れていないため、このあたりをもっと明示的にハンドリングできるようになりたい。一方、写真を見せるデバイスとして、タブレットはある種理想的な環境だと感じた。デジタルフォトはやはり透過光と相性がよい。BLACK MORNINGをiPhoneとiPadで表示したところ、発色、階調、シャドウの見え方、どれも及第点だと感じた。
画像解像度については賛否両論あるだろう。すでに「もっと高解像度な画像で見たい」というリクエストも届いているが、これは「写真」を見たいのか「画像」を見たいのか、という問題だと思う。BLACK MORNINGはKindleプラグインのデフォルトで画像出力しているが、iPadで見て取り立てて劣化は感じないので、「写真」を見せることに関しては及第点だと思う。ただし、オールドレンズ解説本の作例という場合は、もう少し高解像な画像を用意し、拡大してディテールが確認できる形で提供したい。
現状はとかく作業が繁雑だが、いずれKindle本作成ソフトなるものが登場するだろう。というか、登場してほしい。個人的にはデジタルステージあたりがリリースしてくれると期待している。使い勝手のよいツールが登場すれば、ZINE、同人誌、自費出版の様相は大きく変わってくるだろう。
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