Visoflex Elmar 65mmF3.5 が手放せない!
最近、個人的に高稼働中のオールドレンズがある。それがElmar 65mmF3.5だ。ライカ、ビゾフレックスマウントのマクロレンズ。こいつがややもすると、EOSに1週間付けっぱなしというくらい大活躍なのだ。正直、ここまで使用頻度が上がるとは思ってもみなかった。ビゾフレックスのなかでは評判のよいレンズだけど、かといって大絶賛というレンズでもない。それでも妙に惚れ込んでしまう愛おしいレンズなのだ。
Elmar 65mmF3.5はVisoflex用のレンズだ。本来であれば、ライカM型にビゾフレックスを付け、そこにこいつを装着する。ライカM8の場合はビゾIII型が使えるらしいが、実は試したことがない。ぼくがこのレンズを使うときは、もっぱらマウントアダプタ経由のEOS DIGITALだ。
というのも、M8だと焦点距離1.33倍になってしまうが、EOS 5D Mark IIならフルサイズで撮れる。アダプタ経由がオリジナルスタイルという、ちょっとした逆転現象だ。ただそうはいっても、このレンズ、アダプタ経由だと使い勝手がいまひとつ。まずピントリングに目盛りがない。しかもレンズ指標が底を向いてしまう。絞りリングは無段階調整だから、いちいち底面をのぞいて絞り値をセットしないといけない。絞りストッパー搭載がせめてもの救いだ。
そんな使いづらいレンズをなにゆえ重宝がっているのかというと、こいつでブツ撮りするといい感じに仕上がるのだ。ここ最近、ブログや仕事でカメラのブツ撮りが多い。メカものの撮影といえばパキッとハイコントラストがお約束だが、ぼくの被写体は必ずしもそうではない。オールドレンズを付けたデジタル一眼レフ、ゴテゴテにカスタムした高級コンパクトなど、レトロ感あふれる被写体が圧倒的に多いのだ。そこで「オールドアイテムをオールドレンズで撮ったらどうなる?」と思い立ち、このエルマー65mmF3.5で撮りはじめた。すると予想以上におもしろい仕上がりで、ことブログのブツ撮りはエルマー65mm一本槍。仕事でも冒険が許される案件に関してはこいつで納品している。ブツ撮り時の描写傾向に触れる前に、通常撮影のサンプルをご覧いただこう。カメラはEOS 5D Mark II、RAWモードで撮影し、Lightroomでストレート現像したものを掲載している。
EOS 5D Mark II + Elmar 65mmF3.5
うむぅ、どんなもんでしょう。発色は黄味がかかるものの濃厚。ボケ味はマクロレンズだけあってなだらか。シャープネスはカッチリ系というよりは繊細派。ライカらしい中間調重視の描写で、なかなか味わい深い。ただ、マクロで中間調重視だとインパクトに乏しい。よく写るけど、パンチのある描写とは言い難い……てなところだろうか。
ところが、このパンチ不足がぼくのブツ撮りスタイルにマッチする。手持ちのレンズはやや曇りがあるせいか、シャドウの締まりが弱い。言い方を変えると、シャドウをよく拾ってくれる。それが幸いして、カメラのブツ撮りではシャドウまでしっかり写るのだ。カメラは大半が黒だから、現行レンズだとコントラストがつきすぎて潰れてしまうこともしばしば。でもこいつなら、1灯レフ板なし、なんて条件でもシャドウを拾ってくれる。しかも中間調重視のテイストだから、やわらかい描写がレトロな被写体とよく似合う。そんなこんなで最近は、すっかりこいつがブツ撮り専用レンズと化しているのだ。
ただし、やはりオールドレンズなので本気撮りでは神経をつかう。色がかぶりやすく、ホワイトバランスはマニュアル設定が必須。色収差が顕著なので収差補正も欠かせない。さらにブツ撮り用には線が細すぎるため、シャープネスも要調整だ。
気に入っているとはいえ、けっこう手間のかかるレンズという点は否めない。枚数をこなすときは正直音を上げたくなる。ただ、こうやってオールドレンズを実戦投入して思うのは、つくずくレンズって絵筆なんだなあ、と。ほしい画が撮れるレンズは、周囲の評価がどうあれ、かけがえのない一本になる。劣化や個体差も含め、自分にとってのオンリーワンは本当に得難いものだ。レンズテイスティングは楽しい。でも、自分が求めている描写を見極め、それとマッチするレンズを探す旅はもっとスリリングだ。いや、もしかするとイバラの道か!?