シネレンズを LUMIX G1 で試してみた
マイクロフォーサーズは2倍だからねえ……と二の足を踏んでいる人もいるにちがいない。G1にかぎらず一連のフォーサーズシリーズは、画角がレンズの焦点距離2倍相当になってしまう。広角レンズが標準レンズ、標準レンズは中望遠。たしかにこれはツライ。レンズのイメージサークルと撮像素子の大きさ、この点が気になっているなら、シネレンズという選択肢がある。いま流行りのCマウントレンズを、LUMIX DMC-G1で試してみた。
【大口径が安い……はすでに過去の話】
まず、シネレンズのお勉強からはじめましょうか。なにぶんムービーは付け焼き刃なんで、まちがいを見つけたらすみやかに届け出てくださいね(汗)。シネレンズとは、フィルムムービーカメラ用のレンズを指す。今回俎上にあげるのは、16mmシネカメラ用のレンズだ。スイスのBolex、アメリカのBell and Howellといった16mmシネカメラは、レンズ装着にCマウントを採用していた。これはある種の汎用スクリューマウントで、現在でも防犯カメラ用マウントとして生き残っているようだ。で、何故シネレンズなんぞをG1で遊ぶのかというと、スチルカメラと異なるカルチャーを楽しめるからだ。
これまでCマウントレンズは再利用の術がなく、G1登場以前は二束三文で売られていた。16mmシネカメラ自体が廃れ、かといってデジタルビデオカメラに装着できるわけでもなく、そりゃ二束三文で当然だ。ところがシネレンズは、F0.95とかF1.1とか、大口径レンズが各社から登場している。シネカメラは秒間24コマとか30コマで撮影する。これを暗所撮影でもキープしなくてはならない。大口径レンズのニーズはスチルの比ではなかったはずだ。この手の大口径シネレンズを安く手に入れようと思ったのだが、まあみな考えることは一緒のようだ。G1登場以降、大口径レンズは十万円クラスに高騰。すっかり乗り遅れてしまった(泣)。
とはいえ、F1.4クラスはまだ手頃な価格なので、とりあえずP. Angenieux Paris 15mm F1.3 R41を購入してみた。eBayにて送料込みで3万円。アンジェニューのF1.3が3万円というのはお買い得な感じだ。35mmフィルム用で有名なP. Angenieux Paris 35mm F2.5 R1は、エキザクタマウントの並品を4万円半ばで購入した。これがM42マウントだと6~7万、いや10万近い値段になってしまう。こう考えるとシネレンズ、ずいぶんとバリューだ。
【なさそうでなかったオフセットアダプタ】
G1が登場し、死蔵レンズだったCマウントレンズに光明が射した。そもそもCマウントレンズは、なぜ死蔵レンズだったのか? それは極短フランジバックのせいだ。Cマウントのフランジバックは約17.5mm。ライカMマウントの27.8mmよりも1センチも短い。これじゃあ再利用なんて無理だ。そこでマイクロフォーサーズの登場である。マイクロフォーサーズのフランジバックは約20mm。ん、待てよ、まだCマウントの方が短いじゃないか!?
そう、G1登場でCマウントレンズに光明などといったが、実はマイクロフォーサーズよりもCマウントの方がまだ短いのだ。しかし、マイクロフォーサーズ機はミラーレス。ボディ内側にオフセットすればナンとかなるんじゃねえの? そんな力業でマウントアダプタが誕生した。マウントアダプタをよく見ると、ねじ切りの面がずいぶん奥まっているのがわかるだろう。フランジバックが短く、しかもミラーレス。このマイクロフォーサーズ機の特徴を存分にいかしたマウントアダプタだ。これまで色々なマウントアダプタを使ってきたが、オフセット型ははじめて。そのうち一眼レフ向けアダプタも、ミラーアップ専用なんてモンが出てきたりして。
現在購入可能なCマウント-M4/3マウントアダプタは、日本製、ドイツ製、中国製、台湾製などがある。最近は日本国内でも、海外製Cマウントアダプタを扱うウェブショップが出てきたようだ。ぼくが手に入れたのは台湾製。eBay即決で購入した。P. Angenieux Paris 15mm F1.3 R41を付けると、レンズ指標が横にきてしまうのがちと悲しい。このレンズとの組み合わせでは無限遠が出ているものの、別のレンズ(また今度紹介しますね)では無限遠が出なかった。まだ立ち上がったばかりのカテゴリなので、正直、発展途上な印象だ。
【イメージサークルを超えて撮る】
さて、普段ならここで作例をご覧いただくのだが、Cマウントレンズはひと筋縄にいかない。イメージサークルの問題が立ちはだかる。冒頭でレンズのイメージサークルと撮像素子の大きさが……と記したが、その問題に触れておこう。
左写真が撮って出しの状態だ。P. Angenieux Paris 15mm F1.3 R41は準標準レンズという位置づけで、G1との組み合わせだとがっつりケラレる。標準や望遠ならケラレないようだが、広角寄りのCマウントレンズはイメージサークルが小さく、どうしてもケラレが発生する。マイクロフォーサーズおよびフォーサーズのイメージセンサーは18×13.5mm。16mmフィルムは横幅こそ16mmだが、撮影エリアはさらにひとまわり小さく、およそ10.2×7.4mmだという。拡張規格だともう少し大きく、Super 16mmで12.5×7.4mm、Ultra 16mmだと11.6×7.4mm程度になる。ただ、いずれにしてもマイクロフォーサーズの撮像素子よりも小さいことに変わりはない。
そこでケラレのないエリアをトリミングしたのが、中央と右の写真だ。ケラレの対角を目安にトリミングしているので、16mmシネカメラで撮影する領域はこれよりもさらにひとまわり小さい。こうやってトリミングしてみて、ひとつ気になったことがある。Cマウントレンズ本来の画角はどの程度だろう。16mmシネカメラのレンズ構成は、おおむね以下のようになっている。
10mmレンズ:広角
16mmレンズ:準標準
25mmレンズ:標準
50mmレンズ:中望遠
75mmレンズ:望遠
レンズの焦点距離ごとの位置づけはこれでわかったが、肝心の画角はどの程度なのか。上記の位置づけはあくまでも16mmフィルム撮影時のもの。スチルカメラファンにはいまひとつピンとこない。ネットを徘徊してみたところ、35mmフィルム換算する場合はレンズの焦点距離を3倍すればよいようだ。
10mmレンズ:35mmフィルム換算30mm相当
16mmレンズ:35mmフィルム換算48mm相当
25mmレンズ:35mmフィルム換算75mm相当
50mmレンズ:35mmフィルム換算150mm相当
75mmレンズ:35mmフィルム換算225mm相当
P. Angenieux Paris 15mm F1.3 R41の場合は、35mmフィルム換算で45mm相当になる。つまり、シネレンズとしては準標準クラスだが、35mm用レンズとしては標準レンズ相当の画角だ。よって本来の撮影エリアは、上のトリミング例よりもずいぶん狭くなるわけだ、レンズ設計者にしてみれば、写るはずのない周縁エリアまで白日の下にさらされ、「こりゃたまらん」という気分かもしれない。
ちなみに、G1で実際に写る画角は、おおむね焦点距離の2倍程度という感じだ。P. Angenieux Paris 15mm F1.3 R41の場合は30mmレンズと同程度の画角だろう。実際に撮影していても、広角レンズで撮っているような気分だった。「ああ、寄りが足りねえ。一歩前へ!」という感じ。いろいろとややこしいことを書いてきたが、「G1にシネレンズを付けるとどれくらいの画角になるの?」と聞かれたら、「だいたい2倍すればいいんじゃない」と答えたい。厳密に調べたわけではないので、あくまでも目安だけど。
広角系のシネレンズは、G1に付けるとケラレてしまう。とはいえ、シネカメラとマイクロフォーサーズ機は、撮像素子の大きさが比較的近い。35mm用レンズはフルサイズ(35mmフィルムサイズ)で撮るのが理想であるように、シネレンズとG1はバランスのよい組み合わせだ。同様に、ハーフサイズカメラのペンF用レンズとの組み合わせも理にかなっているといえる。むろん、35mm用レンズや中判用レンズより解像感は劣るだろう。ただ、カメラの思想として美しい組み合わせではないだろうか。
【シネレンズメーカーの真の実力を知る】
そんなこんなでやっと作例です。例によってRAW撮影してLightroomで整えたものを掲載している。ケラレの対角を1:1でトリミング。周縁部は劣化しているが、まあそれも味ということで。ちなみに、Filckrにオリジナルサイズでアップしてあります。ピクセル等倍で見たい方はそちらをどうぞ。
LUMIX DMC-G1 + P. Angenieux Paris 15mm F1.3 R41
浅いボケ味、低コントラスト、淡くて黄色っぽい発色。見事にアンジェニューですね。合焦部の繊細な切れ味も秀逸。アンジェニューはピントの山がつかみづらいレンズだけど、G1ならファインダー上でMFアシストが使える。ええ、アンジェニューなのにジャスピンがバシバシ狙えます。かなり楽しいかも。ひとつ特筆すべきは、開放時のぐるぐるボケがない。35mm用アンジェニューといえばあのぐるぐるボケが名物だけど、シネ用アンジェニューはほとんど気にならない。そもそもアンジェニューはシネレンズメーカーとして有名なので、この写りが本来のクオリティということか。何事も試してみないとわからんもんです。
デジタル一眼レフを使っていると、レンズのイメージサークルを超えて撮ることはない。APS-C機のイメージセンサーは35mmフィルムより小さいし、中判レンズを付けようものならレンズ中央部分しか使わない。シネレンズの場合は、メーカーが品質保証できるイメージサークルどころか、周縁部の本来なら撮影に使わないエリアまで撮ることができる。むろんそれは、劣化領域が付加されるだけなのだが……。しかし最近は、ローファイな描写も味わいとして楽しむ風潮がある。ここがシネレンズのポイントだ。なにしろシネレンズは、アンジェニュー、ケルン、コダック、ツァイスなど、名レンズメーカーが名を連ねる。どれも時代を席巻したメーカーであり、中央部の描写は折り紙つき。つまり、G1にシネレンズを付けて撮ると、1枚の写真にハイファイとローファイが同居するわけだ。トリミングしておいしいところだけ切り出すのもよいが、丸ごと画として楽しんでみてもおもしろいだろう。