Elmar 5cmF3.5 格安標準レンズの罠
昨年暮れから、50mmのライカレンズを物色している。お金があるなら迷わずノクティルクスを買うのだが、そんなおこづかいがあるはずもなく、固定鏡胴のズミクロンあたりをヤフオクやらレモン社でチマチマと探していた。が、ここにきて怒濤の金融不況。決まっていた仕事がバタバタと立ち消え、ライター人生風前の灯火なのであります。こりゃイカン、と急遽矛先を変更。リーズナブルに遊べそうなエルマー5cmF3.5を買ってみた。というか、仕事ないなら自制しなさいオレ。
【タカがフィルター、されどフィルター】
Elmar 5cmF3.5は、バルナックライカ時代のLマウントレンズだ。1925年から1961年にかけて生産され、ライカを代表する名レンズといえる。今回手に入れたのは、通称赤エルマーと呼ばれるもの。通常のエルマーより若干割高で、約3万円で手に入れた。外観の特長は赤い被写界深度目盛。これが赤エルマーの由縁だ。コーティング済みの比較的新しいタイプだから、Leica M8でカラー撮影する際も安心感がある。ただまあ、歴史が古くバリエーションが膨大なレンズだけに、ぶっちゃけ目盛板を組み替えた可能性も否定できない。エルマーコレクターなら描写などから真贋を見抜けるのかもしれないけど、正直おまじないみたいなものか。
エルマー5cmF3.5に決めた最大の理由はコイツ↑。このレンズ、沈胴式なのだ。個体によって沈胴時の長さが異なるようだが、幸い手に入れたエルマーはLeica M8で沈胴させることができた。ホント男の子はこういうギミックに弱いよね(汗)。伸長時は鏡胴を回転させるとロックできる。不意に沈胴する心配はない。
とまあ、ここまではメカ好き野郎の魂を心地よく癒やしてくれるのだが、M8で使うには乗り越えるべきハードルがある。そう、UV/IRカットフィルターの装着だ。レンズ前面をよくみてほしい。このレンズは36mm径なのだが、ネジ切りがない。これがひとつめの関門。さらの文字盤をみると、絞り値が刻まれ絞りレバーが前面にある。このレンズ、絞りリングはなく、前面の絞りレバーで絞り値を変えるのだ。これがふたつめの関門となる。
一応、レンズ内周に19mm径のネジ切りがあり、ここにフィルターが装着できる。問題は、19mm径のUV/IRカットフィルターが入手困難という点。ライカ純正がないのは当然として、B+W製もドイツ本国のショップに特注をかけないと手に入らないようだ。まあ海外通販すればよいだけかもしれないが、そもそもUV/IRカットフィルターは高価。できれば手持ちのフィルターを使いまわしたい。そんなわけで、右写真のようなステップアップリングを手に入れた。これはカブセ36mm(A36)をねじ切り39mm(E39)に変換するリング。これを使えば手持ちのUV/IRカットフィルターが装着できる。型番はSOOGZといい、悲しいかな、タカがリングが5000円以上もする。これまでいくつものステップアップリングを購入してきたが、こんなに高いリングははじめてだ。ていうか、こんなもん買うなら、19mmのUV/IRカットフィルターを特注した方がよかったのでは!? 冷静な判断が望まれます。
とりあえず、手持ちのUV/IRカットフィルターとフードを付けてみる。沈胴レンズの繊細な佇まいが、野太いフードで台無しだ(泣)。しかも、レンズ前面にフィルターが付いているから、この状態では絞り変更できない。絞りを変えるたびにSOOGZごと取り外すことになる。一応、開放からけっこうシャープに撮れるレンズなので、常時開放、フィルター付けっぱなしで撮れるのが不幸中の幸いか。
上の写真はCooke & Perkins製のエルマー用フードを付けた姿。36mm径カブセ式なので、当然SOOGZは付かない。でもどう考えても、こっちの方がかっこいい。しかもこいつ、底部の切り欠きが絞りレバーにハマり、フード先端をまわすだけで絞り変更できるのだ。いわば絞り連動フード。ああ、ますます19mm UV/IRカットフィルターを買うべきだった。ていうか、あれこれ買ったアクセサリー代を加算すると、ナンのことはない、固定鏡胴のSummicron50mmF2が買える金額に……。痛い、痛いなあ。
ちなみに、絞り連動フードはライカ純正の方がポピュラーだ。その昔、エルマーは引き伸ばし用レンズとしても使われていたようで、その際、VALOOという型番のフードを付けていた。このフードは通常撮影時でも利用可能。ただ、ずんぐりしたフードなので、見た目の好き嫌いは分かれるかも。VALOOの中古価格は1~2万。MJカメラでリプロダクト品も販売されている。
【開放から使える万能レンズ】
さて、肝心の描写はどうだろう。オールドレンズなので過剰な期待は禁物だが、そうはいっても数々の歴史的な名作を残してきたレンズでもある。とりあえずはズラッと作例を並べてみよう。例によってRAWモードで撮影し、Lightroomで軽く整えたものを掲載している。
掲載した写真は、開放F3.5からF5.6で撮影。ほとんど開放F3.5で撮ったものだ。開放でも滲みは少なく、至極順当な画が撮れる。これだけのシャープネスなら、常時開放でいいかなという感じ。もちろんF5.6以上に絞れば、キリッと引き締まった表現になる。逆光性能はお世辞にもよいとはいえず、気を抜いて光を見ないとフレアが出る。シャドウは浮き気味でコントラストも低い。ただ、シャドウをしっかり拾ってくれるので、個人的には補正しやいデータだと思う。発色はオールドレンズらしく淡泊な印象だ。
つらつらと書いてみたけれど、要は「優秀だけどパンチのある表現ではない」といったところか。突出した個性はない代わりに、光さえ読めば安定した描写が楽しめる。ある種の万能レンズだ。個性派レンズではないので、正直、レンズグルメには物足りないかもしれない。ただ、個人的には目的を達してくれそうでワクワクしている。その目的とは、赤外線撮影だ。
見えますか、Rマーク。被写界深度目盛に赤外指標が刻まれている。実はライカ純正レンズ、赤外指標のあるレンズは限られているのだ。所詮目安とはいえ、ないよりあった方が格段に操作はやりやすい。加えて開放からシャープに撮れるから、赤外線フィルターを付けたときにシャッタースピードが稼げる。おそらく1/30~1/50秒でいけるだろう。これなら手持ちでナンとか撮れそう。まだ日射しが低いから、赤外撮影はしばしお預け。ああ、新緑の季節が待ち遠しい。
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