ニコン系シャープさ、この言葉を聞いたのは10年ほど前のことだ。クールピクス950をテストしたとき、そのシャープさに驚いた。ニッコールってすごいレンズなんだな、と。いっしょにテストしていたカメラマンが「キリッとシャープだけど、やわらかさがある。こういうのをニコン系シャープさって言うんだ」と教えてくれた。そのニコン系シャープさをキヤノンで試してみた。
手に入れたのはAi Nikkor 50mm F1.4S。無骨な面構えなのでオールドレンズだと思っていたが、何のことはない、こいつAi-sの現行レンズなんですね(笑)。最少絞り(このレンズの場合はF16の刻印)がオレンジ色の場合、Ai-sに分類されるらしい。ニコンFマウントは昔から互換性が保たれているものの、世代によって細かい仕様のちがいがあるそうだ。このあたり、一度しっかり勉強しなくては。
現行レンズとはいえ、そのルックスはオールドテイスト満点。カニ爪の迫力も相まって、ニコンF用のレンズフードがサマになる。EOS 20Dとのバランスもわるくないだろう。まあ、キヤノンでニコンというアイロニックな点が何ですが……。ちなみにキヤノンとニコンは、ピントリング、絞りリング、レンズキャップの着脱に至るまで、すべての回転が逆になる。いろいろな意味で両社はライバルだ。
早速、画質を見ていこう。今回はEOS-1D Mark IIIでRAW撮影し、Lightroomに読み込んでそのまま現像している。ほとんど無補正なので、JPEG撮って出しよりはおだやかに仕上がっているはずだ。
EOS-1D Mark III + Ai Nikkor 50mm F1.4S
このレンズ、かすかにクセ玉の匂いがする。おもしろいのは開放F1.4~F2.8のあたり。開放ではほどよく滲み、そのわりに合焦部はキリッと引き締まる。ややハイキーで撮ると、ボケ味が階調たっぷりでとても立体的だ。ただし、同じ開放撮りでもアンダーではつまらない表情に……。ボケ味がベッタリとして平坦に見えてしまうのだ。やや大袈裟な言い回しになるが、初期玉Summilux-M 35mmF1.4のにじみと、Planarのハイライトの粘り、これを掛け合わせたような妙味がある。なお、開放撮りではほどよく周辺光量が落ちる。現行レンズなのにオールドっぽくて個人的には好みだ。
一方、F5.6あたりまで絞るとフツーによく写る。開放寄りの表情が独特なだけに、絞り込むとつまらなく思えてしまう。よく写るのにつまらない……。贅沢な話だ。今回購入した個体は1万円ジャスト。コストパフォーマンスはわるくない。
写りはとても気に入ったのだが、ひとつ問題が発生。EOS 20Dにマウントアダプタ経由で装着すると、開放F1.4~F2.8あたりで絞りリングが引っかかって動かない。力を入れて回せば動くのだが、あきらかに内部で干渉している様子。EOS-1D Mark IIIではちゃんと動くが、それでもかすかに動きが重く感じられる。ウェブ検索してみると、50mm F1.4で干渉するという情報はなく、これはレンズの個体差なのか? それともノンブランドの安いアダプタを使った報いか……。誰かニコンに詳しいヒト、教えてください。
●追記
これまでノンブランド品を使っていたのですが、RayqualのNF-EOSマウントアダプタに交換。絞りリングの引っかかりはウソのように消えました。改めてアダプタの品質が大切だと痛感しきりです。
●追々記
Mattさんから情報をいただき、ノンブランド品の引っかかりの原因がわかりました。言葉で説明すると少々わかりづらいのですが、ボディ側のレンズロックの突起が、アダプタの可動金具をごくわずかに押し上げ、そこに絞りリングが干渉していました。要はマウント内部の干渉ではなく、外部。ノンマークの部位だけに、思わずうなりを上げました(笑)。マウントアダプタ、奥深い世界です。