Leica M8 は開放撮りが楽しい
ふと我にかえると、手元にライカ用レンズが5本もある……。年末に書いたムックのギャラがすべてレンズに化けた。春先の特集のギャラも消えた。これもみな、M8が楽しすぎるせいだ。写りがいいとか撮りやすいとかそういう次元を超え、明らかに一眼レフと異なるカルチャー、これにやられてしまった。ちょっと大げさにいうと、撮影スタイルが変わってしまった。何がどう変わったのか、そのあたりを自己分析してみたい。
【いまごろ目覚める開放撮り】
これまでのぼくの撮り方は、街角スナップはF5.6あたりまで絞り、ランドスケープはF7.1~F11で撮影するというもの。基本的に絞ってナンボのスタイルだ。というのも、メイン機はファインダーの見づらいEOS 20D。これとオールドレンズを組み合わせるものだから、ジャスピンを狙おうと思うとどうしても絞り込んでしまう。しかしそんなぼくが、M8で撮った一枚の写真で開放撮りに目覚めてしまった。
Leica M8 + Summicron-M 35mm/f2 RF
これはメガネ付き8枚玉購入直後の試写。開放のにじみ具合を見ようと、テスト的に開放F2で撮影したものだ。中近距離でベンチにピントを合わせたところ、その後ろの樹がとても立体的にボケた。普段ならF5.6まで絞るシチュエーションなので、この浅い被写界深度は衝撃的だった。
Leica M8 + Opton Sonnar 50mm/f1.5
これはマウントアダプタを使ってオプトンゾナーで撮ったもの。M8に装着すると中望遠相当になるレンズだ。被写体との距離はけっこう離れていて、普段ならF5.6どころかF8あたりまで絞るシーン。それをあえて開放F1.5で撮ったところ、手前の桜だけが見事に浮き上がった。ボケ味ウンヌンというよりも、まるで3D立体視しているような見え方だ。この時点で完全に開放撮りの虜になってしまった。
これまで開放撮りといえば、ピンのきた一点だけが結像し、それ以外が濃霧に沈んでいくような写真だと思っていた。しかしM8が見せる開放撮りは、全面アウトフォーカスの世界に、厚紙に印刷した主役を貼り付けたような感じ。二次元と三次元の中間、2.5Dとでもいえばいいのだろうか。切り立つような立体感がおもしろい。
【中近距離の開放にM8の醍醐味を見た】
これに味をしめ、EOS 20Dとオールドレンズの組み合わせでもマネしてみた。ええ、惨敗です(笑)。ぜんぜんピンがこない。そこで改めて思ったのは、M8というカメラ、しいてはレンジファインダーカメラというものが、あの開放撮りを可能にしているのだな、と。なぜM8だと開放で撮れて、なぜEOS 20Dだとダメなのか。このあたりを箇条書きにしてみよう。
●ファインダーのクオリティ
M8のファインダーは二重像合致式。これは想像以上にピント合わせがやりやすく、眼鏡使用のぼくでも気負わずにジャスピンが狙える。
●最短撮影距離が長い
ライカ用レンズの最短撮影距離は75~100cm程度。一眼レフの場合は寄れないレンズでも30~50cmまで寄れるので、M8は接写の苦手なカメラということになる。しかし、開放撮りではこれが功を奏す。最短撮影距離が長いということは、開放時でもそれなりに被写界深度が稼げる。このマージンはありがたい。
●M8のシャープネス
M8はローパスフィルターを省略してまでシャープネスにこだわったカメラだ。このシャープさ、3D立体視的な写り方と無縁ではないはず。
●ライカレンズの開放性能
一般にライカレンズは、開放から“使える”ものが多い。ボケ足は暴れるものの、結像部のシャーネスは良好。これも開放撮りしたくなる大きな魅力だ。
あとこれは個人的なことだが、M8だとなぜか両目を開けて撮れる。ハイ、これまでは左目閉じて撮ってました(笑)。両目を開けて撮ると、ピントが合ったとき、その一点がスッと立体的に浮き上がる。M8で撮るようになってから俄然持ち帰り率が高いのは、この両目を開けて撮っているせいかもしれない。EOS 20Dでも試してみたが、目の負担が大きくて断念。勉強不足でナンですが、きっとファインダー性能と関係があるような……。
Leica M8 + Summilux-M 35mm/f1.4
中近距離の開放撮りは、別に一眼レフでもできる。ただ、M8だとよりやりやすいということか。少なくともぼくはこうした撮り方と無縁だったので、M8に教えられた気分。まだまだ勉強することがたくさんあるようだ。
Comments
僕もAngenieux 35/2.5/エキザクタマウントを日本のオークションで、
ポチッと行ってしまいました...(笑)
澤村さんは既に宮崎サンに改造に出したのですか?
秋まではパリなので、僕はレンズの現物を見ることも侭ならないのですが、
もしも、改造されていたらまたレポートお願いします。
P.S
今は90mm/F1.8がヤバいです...(笑)
Posted by: 宮田@F1SCENE | May 18, 2008 08:26 AM
Angenieux、ご購入おめでとうございます(笑)。
宮崎光学さんでの改造はまさにいま悩んでいる最中です。デジタル一眼レフで使うこともありますし、かとって早くM8で撮ってみたいし。
いっそM8用に28mm買う? なんて危険な発想に心惹かれています。
Posted by: metalmickey | May 18, 2008 11:08 AM
両目を開けて撮りやすいかどうかは、ファインダー倍率と(SLR なら)レンズの焦点距離に関係すると思います。
たとえば、0.95 倍の PENTAX のファインダーだと、45mm あたりが、僕の場合、ちょうど両目を開けて同じくらいの大きさに見えます。
なぜ「僕の場合」というかというと、コンタクトで視力矯正しているので、右目と左目では見える大きさが違うため、どちらの目で見るかで少し変わるからです。
めがねの左右の度が違ってもちゃんと見えることから分かるとおり、左右で異なる大きさで“結像”していても脳が処理してくれるので、人間は1つのものとして見えます。
だから、訓練すれば、結構厳しい焦点距離のものでも両目で見ることができるようになります。
(立体視の要領です。)
僕も、PENTAX の x0.95 ファインダでは、35mm - 75mm くらいの範囲で両目開けて(両目で結像して)、合焦させることができるようになりました。
ただし、ファインダーから目を離した直後はかなりクラクラします。
レンジファインダーでもファインダーの倍率が小さいと、両目で開けて撮るのは、上記のようなコツが要ります。
SLR でも、中望遠の開放絞りでこんな風に 3D 的に浮き上がって写るレンズもたくさんあります。
僕の大好きな smc PENTAX FA77mmF1.8 Ltd なんかはその代表例だと思います。
「開放F値が小さく、合焦部分のコントラストが高いレンズ」なら、ほとんどがこのような写り方をします。
ズームレンズではなかなかそういう写り方をするレンズには出会ったことはありませんが、新し目の設計の短焦点ならそういうレンズが結構あります。フィルムカメラ用に作られたオールドレンズの短焦点は、デジタル SLR と組み合わせると少しその点もうひとつのものが結構ありますよね。
Posted by: hirobot | May 19, 2008 02:49 PM
> hirobotさん
両目撮影のアドバイスありがとうございます。やはり立体視の要領なんですね。なんとなくそんな気はしていたのですが、どうも確信が持てず、hirobotさんのアドバイスで自信を持って両目撮影に挑めそうです。
一眼レフでも3D的に撮れる旨、こちらも大変参考になります。実は幾度となく一眼レフでも開放撮りにチャレンジしてみたのですが、ぼくの眼力では太刀打ちできませんでした。M8だと難なくできるのに、どうもEOS 20Dだとダメっぷりを発揮してしまいます。こりゃ鍛錬しないといけませんね(笑)。
Posted by: metalmickey | May 19, 2008 07:59 PM
僕も 20D 使いましたが、あのファインダーはちょっと・・・と思います。いかがでしょうか?
MF レンズは使わず、AF を信じて目をつぶって撮れ、みたいなところありますよね。
ブローニー カメラなどで、ウエストレベルファインダーを目から離して両目で見ると、立体的に見えてとても気持ちいいですよね。
Posted by: hirobot | May 20, 2008 02:34 PM
20Dのファインダーはいかんですよ(笑)。ただ、あのファインダーにカラダを慣らしておくと、どんなカメラを使っても快適なんですね。あと、心持ち抜けの悪い写りが、オールドレンズと組み合わせたときいい味出してくれます。年内いっぱいは現役でがんばってもらう予定です。
Posted by: metalmickey | May 20, 2008 02:45 PM