Lightroom 2.0 beta エリア選択の目覚め
Apertureがバージョンアップして覆い焼き/焼き込みができると知り、「いいなあ、マック買おうかなあ」なんて思っていたら、Lightroom 2.0 betaがリリースされた。バージョン1.4の公開中止騒ぎがあったばかりだが(ええ、インストールしちゃいました。で、速攻1.3に戻しましたとも!)、性懲りもなくメインマシンにぶちこんで遊んでみた。だってLightroom 2.0 betaも覆い焼き/焼き込みができるというじゃない!? こりゃ試さずにいられんですよ。
【全面補正から部分補正へ】
なにゆえ覆い焼き/焼き込みに興奮しているのかというと、RAW現像ソフトが新たなフェーズに突入する兆しだからだ。覆い焼き/焼き込みは、画像の一部だけを明るくしたり暗くする機能。日頃からPhotoshopを使っている人にはどうということのない機能だ。しかし、RAW現像ソフトにとっては画期的な一歩といえる。前口上はこのくらいにして、その効果を見てみよう。
左は撮って出しのオリジナル画像。見事な逆光で樹は真っ黒につぶれている。かといって露出を上げると空が完全に白飛びしてしまうので、ちょいと慎重な補正が必要となる写真だ。
中央の写真はLightroom1.3で補正したもの。補助光効果でシャドウ部だけを持ち上げ、白飛び軽減でハイライトを気持ち抑えている。樹の様子は見えるようになったが、なんともつまらない写真だ。結局、トーンカーブを逆S字にしたようなものだから、コントラストが落ちてメリハリに欠く。隅々まで見えるので説明写真としては合格だが、写真表現としては面白味がない。そこで覆い焼きの出番というわけだ。
右はLightroom 2.0 betaで補正したもの。覆い焼きで手前に樹の一部を明るくし、空の一部は焼き込みで少しだけアンダーにしている。新緑の鮮やかさが目に眩しい。ピンポイントで露出補正できるので、インパクトのある写真に仕上がった。
とまあこんな具合に、覆い焼き/焼き込みは写真表現上強力なツールになる。ここで注目したいのは、全面補正から部分補正へのシフトだ。これまでのRAW現像ソフトは、あくまでも画像全体に対して補正を行っていた。ハイライトとシャドウを個別にコントロールすることはできるものの、ピンポイントで制御するには至らない。細部にわたる補正はJPEG/TIFFに書き出してからフォトレタッチソフトで行うしかなかった。しかしこれからは、輝度や色相に関わらず、特定エリアだけを選択して補正できる。要はレタッチ的アプローチを手に入れたというわけだ。
実はこの発想、Capture NXでは以前から採用されていたものだ。Capture NXはレタッチソフトの手法を大胆に取り入れたソフトで、当初から選択ツールを搭載している。ニコン専用という制約こそあれ、出し惜しみなしのお買い得ソフトだ。覆い焼き/焼き込み自体、取り立てて斬新ということではないが、Lightroom単体でよりこだわり抜いた写真現像が楽しめるようになる。
【マスクでピンポイント非破壊編集を実現】
では覆い焼き/焼き込みの具体的操作を見ていこう。冒頭から「覆い焼き/焼き込み」と書いているが、正確にはマスク作成ブラシツールというかなり高性能なもの。なにしろ選択エリアに対して、露出補正だけでなく彩度や明瞭度も調整できるのだ。
現像画面の右ペインに、上のような画面が加わった。ブラシのサイズやタッチを調整しつつ、ぬりぬりした部分の露出を変えるというものだ。レタッチソフトではごく普通の機能だが、RAW現像だとちょいと事情が異なる。RAW現像ソフトは非破壊編集が大原則なので、補正後、再編集できないと困るのだ。
左はぬりぬりしている様子。円形のブラシツールがあらわれ、こいつで画面上をざっくりと塗っていく。ここではペイントタイプに「露出」を選んでいるので、塗ったところがみるみるうちに明るくなっていった。めざとい人は奇妙な黒丸に気付いたことだろう。こいつは選択エリアのマーカーだ。右の画面写真は、このマーカーをマウスでポイントした様子。選択した部分を半透明表示してくれる。選択エリアを新規作成するたびに、この黒丸マーカーが増えていく。
再び右ペインを見てみよう。項目名がMaskになっている。つまり、Lightroom 2.0 betaの覆い焼き/焼き込みは、ブラシツールを用いたマスク作成機能というわけだ。その下にはExposure(露出)、Brightness(輝度)、Saturation(彩度)、Clarity(明瞭度)、Tint(色合い)といった項目が並ぶ。覆い焼き/焼き込み(露出制御)だけでなく、マスクしたエリアに対して色彩コントロールも行えるのだ。これまでは赤の色調を補正すると、ポストも夕焼けも彼女の唇も、まるっとまとめて色合いが変わってしまった。でも今後は、彼女の唇はエロチックに、ポストは気持ち朱色に、夕焼けは切ない紫寄りに、といった個別制御が行える。もちろんマスク処理だから、画像を直接編集するわけではない。前述のマーカーを選択すれば何度でも再編集できる。マーカーを削除すればマスク自体を消去でき、RAW現像の特権――非破壊編集をキープしつつ、ピンポイント編集を実現している。
かねてから覆い焼きを写真加工に取り入れたかったのだが、「レタッチと現像は別物」「レタッチに手を出してはならぬ」と妙なプライド(笑)があり、これまで補助光効果と白飛び軽減でしのいできた。いや単に、Photoshopを起動するのが面倒なだけだったりもするのだが……。でも今後は気軽に覆い焼きができるので、表現の幅が広がりそうだ。願わくば、ダスト付加もできるようになると、フィルムの粒状感が再現できて便利だなあ、なんて。
左から、撮って出し、Lightroom 1.3、Lightroom 2.0 Beta。エリア選択というアプローチが加わったことで、さらにRAW現像が楽しくなりそうだ。
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