Leica M8 はデジイチユーザーにどう映る!?
改造ビオゴンを手に入れてから二ヶ月、意を決してライカM8を購入した。R-D1sか、M8か。この選択にずいぶんと悩んだが、最終的な決め手はコストパフォーマンスだ。むろん、M8のコストパフォーマンスがよいという話ではなくて、R-D1sを手に入れるとますますM8がほしくなり、きっと二台とも買うハメになるだろう。ならばいっそ、最初からM8を買った方が、最終的には安く上がる。まあ、高い買い物にありがちな、自分をナットクさせるための屁理屈ですが(笑)。
そんなわけでM8のレビューでも書いてみようと思うのだが、ことライカに関しては先達のすぐれたブログ記事がある。いまさらぼくがM8のよしあしを語るまでもないだろう。ただ、彼らは筋金入りのカメラファンということもあり、意外と初歩的な部分が省かれていたりする。その初歩的な部分とは、レンジファインダーと一眼レフのちがいだ。現在は一眼レフ全盛。片やライカM8はレンジファインダーカメラだ。フィルム時代からカメラに精通していても、レンジファインダーは未体験という人だって少なくない。なにしろ、かくいうぼくがそうなのだ。そこで本記事は、デジイチユーザーにとってのデジタルレンジファインダーカメラという視点で、ライカM8を見ていきたいと思う。
【快適なマニュアル操作がM8の魅力】
はじめにぼくのスタンスを明記しておこう。普段はEOS DIGITALとオールドレンズの組み合わせで撮影。よってMFには抵抗感がない。ライカ歴はライカフレックスSLを所有し、ライカRレンズはElmarit-R 28mm/f2.8 type I、 Elmarit-R 35mm/f2.8 type I、Summicron-R 50mm/f2 type Iなど、主にオールドテイストのものを好んで使っている。レンジファインダー機はこのM8がお初。もちろんM型ライカに触れるのもM8がはじめてだ。
試写して早々に実感したのは、ピント合わせのやりやすさだ。マウントアダプタ経由のオールドレンズは実絞りでの撮影となり、いちいち絞り開放に戻さないとファインダーが暗くなってしまう。それに対し、レンジファインダー機は絞りの状態に依存することなく、いつでもファインダーが明るい。二重像でのピント合わせもピントの山がつかみやすくてよい。当然といえば当然だが、MFカメラはMFがやりやすい。AF機のMFとはわけがちがう。
ボディの向かって右側にレバーがある。恥ずかしながら、こいつはセルフタイマーなのだと買ってしばらく勘違いしていた。正しくはフレームセレクター。これを動かすと、画角の異なるフレームを選択できる。フレームは、24/35mm、50/75mm、28/90mmの3種類があり、レンズを装着するとレンズに適したフレームが自動表示される仕組みになっている。さらにこのフレームセレクターを操作すると、別のフレームに切り替えられるのだ。たとえば50mmレンズを装着してファインダーを覗き、フレームセレクターを操作。「この風景は28mmの方がハマるな。よし、レンズ交換だ!」という具合になる。ホント、カメラってミニマムボディにいろいろな機能が詰まっているからおもしろい。
ライカM8は露出計を内蔵し、絞り優先AEで撮影できる。シャッタースピードダイヤルを「A」に合わせると絞り優先AEだ。ただ困ったことに、露出補正のボタンがない。露出補正は液晶メニューで操作しなければならないのだ。この点に不満を抱くM8ユーザーは少なくないし、デジイチユーザーにとってもネックになりがち。個人的にライカレンズはアンダー目にして撮るのが好きなので、購入前にこの点はずいぶんと頭を悩ませた。
しかし、いざ実機を触ってみると、それが杞憂なのだと知る。ナンのことはない、マニュアルモードが使いやすいのだ。マニュアルモードでも露出計が動作し、ファインダー下部に適正露出、アンダー目、オーバー目を赤ランプで表示してくれる。たとえばアンダー目に撮りたいのであれば、いったん適正露出にシャッタースピードを合わせ、そこから1~2段、スピードを速めてやればいい。液晶メニューで露出補正するよりも、こちらの方が格段にスピーディ。なにしろカメラから顔を離さずに操作できるのがいい。
M型ライカはスナップカメラだ。先入観でいわせてもらうと、速写性とは無縁のカメラだと思う。ところが、M8にかぎっていえば思いのほか速写性能がいい。モードダイヤルを「C」にセットしておくと、最大10枚の連続撮影が可能。さすがに“連写”というほどではないが、動く被写体だって追いかけられる。通常撮影のレスポンスに関しては、データ書き込みに時間を要する印象を受けた。ぼくはRAW撮りオンリーなのだが、一度シャッターを切ると赤い書き込みランプがけっこう長い時間点滅している。はじめトランセンドの2GBを使っていて、あまりの遅さに辟易。サンディスクのExtreme III 2GBに交換して、ずいぶんとレスポンスがよくなった。むろん、バッファメモリの容量内であれば、書き込みランプが点滅していても連続してシャッターが切れる。デジイチと同フィーリングのレスポンスとまではいかないが、コンデジのようにモタついてじりじりすることはないはずだ。
【ジャギーはいかんだろジャギーは!】
M8の画質はどうだろう。実はこの点について、購入前に頭を抱えてしまった。というのも、某ウェブ媒体で見たフルサイズの作例があまりにひどい画質だったからだ。階調はべったりとつぶれ、斜め線ではジャギーが発生。M8ユーザーのブログを拝見しても、ときどきジャギーや過度のJPEG圧縮にともなうブロックノイズが見受けられる。M8はローパスフィルターを省いてまでシャープネスにこだわったカメラ。シャープすぎてジャギーが出るのか!? でも、いまどきジャギるデジタルカメラなんて早々お目にかかれない。そのわりに大半のM8ユーザーは、とても満足げに写真を楽しんでいる様子。このギャップ、どう考えればよいのか!?
M8はきわめて高価なカメラだ。新品で実売60万弱。中古で40万半ばから50万弱。いずれにしても、デジタル一眼レフのプロ向け機を買ってお釣りがくる値段だ。これだけ高い買い物をして、それをけなすのは“気持ちの上で”難しい。デジタル版M型ライカという点に満足を見いだし、画質に目をつむってしまっているのではないか、という懸念がよぎる。その一方で、RAWならいけるという予感もあった。あの荒れた画質はJPEG圧縮の問題であって、RAWから現像すれば良好な画像が得られるのではないか。根本的に低画質なのか、それともJPEG圧縮の問題か。答えは作例を見ていただければ自ずとわかるだろう。以下の作例はRAWデータをLightroomに読み込み、そのまま現像したものだ。レンズはG Biogon T* 28mm/f2.8を使用。UV/IRフィルターを装着し、6ビットコード検出はオフにしている。
一見してわかるのは、きわめてシャープな画像だということ。シャープネスを優先するためにローパスフィルターを搭載していないというが、その効果を実感できる。ただし、ローパスフィルターがないとモアレが発生しやすい。M8はソフトウェア処理でモアレ除去を行っているものの、やはり条件によって“それなりの高確率”で発生する。一方、雲の表情に注目すると、すぐれた立体感が目を見張る。日頃からEOS-1D Mark IIIを使っているが、ここまでの階調性はお目にかかったことがない。特にシャドウ部の粘りは特筆モノであり、“ライカらしさ”といっていいだろう。なお、周辺部がシアンドリフトを起こしているが、これは6ビットコード検出がオフになっているためだ。個人的には、屋外撮影だとほどよい青かぶりに感じられるため、しばらくはこのまま使ってみようと思っている。
このように、RAW現像したM8の画質は申し分ない。ただ、JPEG撮って出しはお世辞にも高画質といえず、圧縮がかなりキツイのではないかと推測できる。事実、試写したJPEG撮って出しはウェブで見た画像とそっくりの傾向で、圧縮荒れとジャギーがひどかった。
左がJPEG Fine(最高画質)の撮って出し、右はRAWデータをLightroomに読み込み、無補正で現像したものだ。それぞれ等倍表示している。ジャギーの有無が明確にわかるだろう。というわけで、M8はRAW専用で使うことにした。ただし、ここでひとつ問題が……。M8はSDHC未対応。一応4GBメディアには対応しているようだが、安全性と高速性のバランスを重視するなら、高速タイプの2GBが現実的なチョイスとなる。2GBだとRAW撮りは190枚弱。メディア1枚では半日もたないのだ。いくらライカといえどもデジタルカメラである以上、目の前の技術が使えないのはツライ。アップグレードでサファイアガラスの液晶モニタを提供するくらいなら、SDHC対応を先行してほしい。
【ドレスアップの楽園】
M型ライカといえば、やはりドレスアップについて触れなくては。ぼくはGR DIGITALのドレスアップが大好きなのだが、そのお手本にしているのがM型ライカのスタイルだ。で、本家M型ライカを手に入れたわけだから、ノーマルのまま使うはずがない。そうはいってもボディ購入ですっかり散財してしまったので、ちょろっと小物アクセサリーを付けてみた。
ONE-OFFのソフトレリーズボタンと関東カメラサービスのアクセサリーシューカバーだ。ふたつ合わせても三千円ちょっと。安いわりにスタイルが引き締まり、とてもお得感のあるドレスアップだと思う。
レンズフードはMSオプティカルR&DのM46システムスリットフードを付けてみた。これはGR DIGITALカスタム用に購入したものだが、そもそもは改造ビオゴンなど、L/Mマウントの広角レンズ向けのフードだ。よってこれが本来のあるべき姿となる。レンズのくびれから四方に広がる曲線、そして繊細な印象がステキ(笑)。ライカは純正アクセサリーだけでもたくさんあって、いろいろ遊べそうな予感。とりあえずは純正ライカレンズを買わないと。メガネ付きSummaron 35mm/f3.5か、初期型Summilux 35mm/f1.4か、はたまた固定鏡胴のSummicron 50mm/f2か。夜な夜なヤフオク巡回が止まりません。
●M8の写真は以下に順次アップしていきます。
metalmickey's montage : Leica M8
Comments
はじめまして。M8購入おめでとうございます。
以前から拝見しておりました。
M8を同料理されて行くのか大変興味があります。
自分はM8とR-d1sしか選択肢がない上に
どっちもどっちな感じでDigitalRangeの
購入を躊躇していますので、参考にさせていただきます。
Posted by: chariot | March 17, 2008 12:18 PM
chariotさん、こんばんは。
M8を料理するというよりは、M8に料理されそうです(笑)。ただ、個人的にはとても満足度の高いカメラだと感じています。所有感だけでなく、ライカでしかなし得ない画作りというのがたしかに感じられました。
このあたりの感触、自分のなかでもう少し整理して、上手にレポートできればと思っています。ぼくのレポートがどれほど参考になるかわかりませんが、ときどき覗きにきていただければ幸いです。
Posted by: metalmickey | March 17, 2008 10:30 PM
素晴らしい!ですね、遂にM8ですか!!私もとても欲しいの
ですが、先立つものが・・・最近のデジタル一眼も試したいし
お手軽な価格のレンズで楽しむとなるとやはり国産と云うことで
D700にしたしだいですハイ、でもやはり気になるので某
ショップでM8をいじくり廻してまえりましたwJPEGの出力
には驚きましたが、RAWで使うカメラなのだなと納得いたしました
参考になる記事ありがとうございます。
Posted by: axion | April 06, 2009 04:04 PM
M8を手に入れてようやく1年、やっとビビらず撮れるようになりました(笑)。最近は中古価格が下がり、30万円台で出ている個体もちらほら。もちろん、無理せずにパナソニックG1にアダプタ経由でライカレンズを付けることもできますし、いろいろと選択の幅が広がってきました。
南鳥島の写真、拝見しました。息を呑む写真ばかりですね。ぼくは近場のスナップがメインなものですから、こういうナイスビューを見るとクラクラします(笑)。お金を貯めて撮影旅行に出てみたいものです。
Posted by: metalmickey | April 06, 2009 04:28 PM
M8.2購入しました。M9は納期が?で、欲しくなった時が欲しい時。
手持ちの一眼セットを下取りに出しました。でも追金も多かった・・
もちろん家族には(価格)ナイショです。昔から使用のスーパーアンギュロン21mm/3,4を装着して勉強中といった所です。いろいろと教えて頂ければ幸いです。
Posted by: Jiro Take | July 07, 2010 10:24 AM
M8.2ご購入おめでとうございます。スーパーアンギュロン、うらやましいです。ぜひすてきなお写真を! ぼくは梅雨が明けたらM8で赤外撮影を楽しむ予定です。早く梅雨明けしないかなあ。
Posted by: metalmickey | July 07, 2010 11:12 AM
7月初旬からパリに家族旅行。記念写真はGXRで、自分の撮影はM8と使い分けるつもりが、GXR主体の撮影となったのは残念でした。只、日暮れが遅く(22:00前後)黄昏時に撮影時間を持てたのは幸せでした。1000カットほどを21mmと35mmメインに撮影したのは良かったのですが、問題は取り込むソフトです。M8付属のソフトは難解で私には荷の重い課題です。M8で素人にも分かり易く使いやすいソフトをご紹介頂ければ幸いですが・・・宜しくお願い致します。
Posted by: Jiro Take | July 23, 2010 03:19 PM
Jiroさん、こんばんは。パリ旅行ステキですね。M8用の画像編集ソフト、ぼくはLightroomを使っています。初心者にはちょっとハードルが高いかもしれませんが、仕上がりはよい雰囲気ですよ。M8付属のCapture Oneよりは操作がわかりやすいと思います。
Posted by: metalmickey | July 26, 2010 04:53 PM
こんにちは
ようやくデジタルライカを手に入れる踏ん切りが付きました。
とはいっても、M8。
いや、今だからM8でしょう。
この最初の記事が書かれてから既に5年経っています。現在では高性能の国産ミラーレスが多く出そろい、それらに適うのはライブビュー機能を搭載しているLeica Mくらいでしょうか。でもその値段はとても手が届くようなものではありません。
今、M8だとオークションで20万円前後で購入ができるようになりました。画質や機能云々の不満はありますが、やっとデジタルライカが手に届く時期になったのです。
改めて、「今だからM8!」記事をお願いします。M8の最高性能を出せるチューニング、現像ソフト、ベストマッチングなレンズ、フィルター、そしてドレスアップなど。期待しておりますm(_ _)m
Posted by: S. Sato | October 05, 2013 05:32 PM
M8購入、おめでとうございます。ぼくのまわりでも、M8ユーザーがかなり多いです。やはりここ1~2年で中古価格がかなり下がり、手を出しやすくなったのが大きな理由だと思います。
旧機種をマス媒体で取り上げるのはかなり難しいのですが、ぼくの知り合い関係はズマリット50mmF1.5あたりと組み合わせる方が多いです。ズマリットは安価なわりに描写がよく、加えてオールドレンズならではの収差も楽しめます。
個人的には赤外撮影のベースボディとして強くプッシュしたいです。赤外フィルターを付けるだけで、無改造で赤外撮影できますよ。
Posted by: metalmickey | October 05, 2013 07:48 PM