Lightroom でナンチャッテHDR
HDR(high dynamic range)という手法がある。露出の異なる複数の画像を合成し、本来のダイナミックレンジを超えたシュールな写真を作り上げようという手法だ。作例はflickrを参照してもらうといいだろう。もともとはシャドウを持ち上げながら同時にハイライトの白飛びを回避し、すみずみまでクッキリと見せるための補正テクニック。ぶっちゃけた言い方をすると、覆い焼きだ。ただ現在では、よりアバンギャルドに明暗差をコントロールしてひとつの表現手段として定着しつつある。とまあそんなHDRを、Lightroomで試してみることにした。
本来HDR処理を行うには複数の露出で撮影した写真が必要だ。たとえば-1、±0、+1EVといった具合に写真を撮影し、それぞれ適正露出で写っているエリアを合成していく。RAWで撮影して露出ちがいに現像すればいい、と思いがちだが、これがうまくいかない。デジタルカメラはネガにくらべてラチチュードが低いので、特にハイライトが飛びやすい。やはり撮影時に露出補正して撮っておくのがベターだ。
でもまあ、そんなのは面倒な話であって、1枚の写真からチャチャッとできないもんですかねえ。できるんですよLightroomなら。本格HDRはムリだけど、ナンチャッテHDRならイケます。前置きが長くなったけど、ざっくりと手順を紹介しよう。
【補助光効果と白とび軽減を使いこなそう】
ナンチャッテHDRのファーストステップは補助光効果を用いる。この補助光効果というのは、わかりやすくいうとシャドウ部を持ち上げてくれる機能だ。HDR処理したいと思う画像は、逆光などで影がつぶれてしまったものが多い。デジタルカメラは白飛びに弱いわりにシャドウは粘りがあり、補助光効果のスライドバーを右に動かしていくと、黒つぶれしていたところから像が見えてくるのだ。
左がオリジナル画像で右が補助光効果でシャドウ部を持ち上げたものだ。オリジナルは逆光によって影がつぶれているが、シャドウ部を持ち上げることで生い茂る葉の様子、街灯の根本などが見えるようになった。ただし、影が明るくなった反面、ハイライト部もつられて持ち上がってしまった。これを抑え込むのがセカンドステップだ。
今度は白とび軽減のスライドバーを右に動かしていく。これは文字通り、ハイライト部分を中心に輝度を抑え、階調をよみがえらす機能だ。完全に白飛びしたエリアでも外周部からうっすらと階調が戻ってくる(正確には階調らしきものを追加しているわけだけど)。
左は補助光効果を操作した後の画像。右はその後白とび軽減を操作したものだ。飽和気味だった雲に階調がよみがえり、だいぶ完成に近づいてきた。そう、ナンチャッテHDRはこれで終わりじゃない。なぜなら、シャドウを持ち上げ、ハイライトを抑えるということは、明暗差すなわちコントラストが低くなっている。要は写真にメリハリがなくなってしまったわけだ。これじゃあせっかくのHDRも台無し。そこでダメ押しの一手を紹介しよう。
【明瞭度でメリハリをつける】
Lightroomには明瞭度という項目がある。これが実に便利な機能だ。ここまでの作業の結果、HDR的な写真になったものの、反面コントラストが落ちてしまった。かといってコントラストそのものを上げてしまうと、シャドウがつぶれハイライトは飛び、元の木阿弥だ。そこで明瞭度の出番。これは輪郭部を中心にほんのりとコントラストを高めてくれる。画像全体の輝度は変わらないため、アクセント的にメリハリとつけたいときに便利だ。
左はナンチャッテHDR後の画像。右は明瞭度を上げたものだ。サムネイルだとわかりづいらいが、輪郭のエッジがたち、立体感が増している。オリジナル画像は単なるハイコントラスト画像だったが、処理後は立体感を保ちつつ、明部から暗部まで見渡せるようになった。スライドバーだけでここまでできるのが、ナンチャッテHDRのスゴイところです(自画自賛)。
もう一例。左がオリジナル。右が処理後の写真だ。手前の配管を明るく持ち上げ、夕日は逆に輝度を落として印象的に仕上げている。こうした作業はトーンカーブでも行えるが、やはりスライドバーの方が面倒がない。
この写真はモノトーン化してからグレイスケールミキサーで鉄塔の脚を明るく持ち上げ、逆に空は思いっきり暗くしてみた。大胆にレタッチすることで、グレイスケールミキサーでもHDR的アプローチが可能だ。
HDRとはとどのつまり、明暗コントロールだ。補助光効果、白とび軽減、そしてグレースケールミキサー。この3つを駆使すると、かなり自由に明暗を操れる。こう書くと大仰だが、HDRは覆い焼きの応用であり、グレイスケールミキサーは懐かしのモノクロフィルターワークだ。写真技術的に目新しいわけではないが、デジタルだとこうした処理が簡単に行える。撮って出しの素朴さも捨てがたいが、デジタルの弱点――ラチチュードを補うには、こうしたデジタル的アプローチが必要なのかもしれない。