ディスプレイで見ている色をそのままプリントしたい。こんなに単純なことがどうしてもこうも難しいのだろう。カラーマネージメント、キャリブレーション、ICCプロファイルにカラースペース。わかるようなわからんような専門用語が飛び交い、暗中模索を繰り返し、ソフトやドライバの設定をアレコレ変更して、それでもプリントの色は見るも無惨……。そんなぼくとあなたのために、色合わせのセオリーを考察してみよう。
【色空間の方言を翻訳しなくては!】
カラーマネージメントの手順や基礎知識については、すでに様々なホームページやブログで取り上げられている。しかし、手順は特定ソフトにしか通用しないし、基礎知識といいながらけっこう難解な内容で、プロの現場を知らない人には理解しづらいのが現状だ。でもよくよく考えてほしい。見ている色をそのままプリントしたいという思いは、なにもプロフェッショナルユーザー固有のものではない。ごく普通のパソコンユーザーやデジカメユーザーだって、見たとおりにプリントしたいはず。そこで極力お金をかけず、必要最低限のステップで、なおかついろいろなソフトで応用が利くようなカラーマネージメントテクニックを考えてみたい。なお、これから展開する記事は「ディスプレイで表示している色とプリントした色を、できるだけ近づける」のが目的だ。きれいにプリントすることが目標ではない。その点は留意してほしい。
手順を解説する前に、ちょっくらカラーマネージメントについて勉強しておこう。カラーイメージング機器というものは、おしなべて独自のカラースペースをもっている。ディスプレイ、プリンタ、デジタルカメラ、スキャナ、そして印刷用紙や画像データに至るまで、すべて固有の色空間をもっている。たとえばあるデジタルカメラが「青みがかった赤」と認識している色を、とあるプリンタは「赤みの強い紫」ととらえている。色のとらえ方がカラーイメージング機器によって異なるわけだ。さらにプリンタはCMYKで色を管理し、ディスプレイやデジタルカメラ、画像データやレタッチソフトは、RGBで色を管理している。ひと口に日本語といってもさまざまな方言があるように、カラーイメージング機器も独自の方言(カラースペース)で色を管理しているのだ。
【色空間の標準語、Lab値で会話成立】
方言と方言では会話が成り立たない。両者の方言を翻訳するのが、カラーマッチングとかカラーマネージメントと呼ばれる作業だ。要は色合わせと思ってもらえばいい。前述の例でいうと、「青みがかった赤」と「赤みの強い紫」が同じ色なのだと通訳してやる。方言を翻訳するには、両者の言い分を標準語に変換してやればいい。じゃあ、色空間(カラースペース)の標準語とは何か? それhLab値で管理された共通のカラースペースだ。
Lab値とは、明度、色相、彩度という三要素を数値化したもの。うむ、なんだか難しそうだ。とらえ方としてはこんな風になる。普段ぼくらは住所や地名で場所を把握する。これは目の前の色を「青みがかった赤」と呼んでいる状態。しかし場所を管理する方法はもうひとつある。それは緯度経度を用いた座標だ。たとえば成田空港は、われわれ日本人にとって千葉の片田舎だ。でもアメリカ人にとってはTokyoの入口である。こうした言葉による表記は、言語のちがいや認識の相違が介在してしまう。しかし、「 35°45'50.34"N 140°23'4.72"E」と座標で表せば、世界共通で地球上の一点を確実に示すことができる。Lab値とはいわば色の座標。色の絶対値なのだ。各カラーイメージング機器の色空間をこのLab値に変換すれば、「青みがかった赤」と「赤みの強い紫」という把握のちがいに振り回されずにすむ。Lab値は色の方言を吸収する標準語というわけだ。
【ICCプロファイルは色の辞書】
ではカラーイメージング機器は、どうやって独自のカラースペースを色の座標「Lab値」に変換するのだろう。独自のカラースペースと、Lab値で管理された共通のカラースペース。このふたつを結びつけるのがICCプロファイルだ。カラーイメージングに興味のある人なら名称ぐらいは聞いたことがあるだろう。ICCプロファイルには「青みがかった赤はLab値でいうと○○○番ですよ」という情報が詰まっている。要は色をLab値に翻訳するための辞書のようなものだ。
各カラーイメージング機器がそれぞれICCプロファイルを持っていれば、Lab値で管理された共通のカラースペースを通じて、正確に色の受け渡しが行える。先の例でいうとこんな具体になる。デジタルカメラの「青みがかった赤」という情報をデジタルカメラ用ICCプロファイルでLab値に変換。そしてそのLab値をプリンタ用のICCプロファイルと参照することで、デジタルカメラの「青みがかった赤」がプリンタの「赤みの強い紫」と同じ色なのだと判明する。これがカラーマッチングおよびカラーマネージメントという作業だ。
【カラーマッチングはどこでやる!?】
色の方言を翻訳して会話を成立させる――それがカラーマッチング。ここまでは理解できただろうか。「見ている色をそのままプリント」するには、画像データ、画像編集ソフト、ディスプレイ、プリンタの色空間を、それぞれマッチングさせることになる。そのマッチング作業はどうやるのかというと、実はOS標準のカラーマネージメント機能が使えるのだ。ウィンドウズなら「ICM」、MacOSでは「ColorSync」がカラーマネージメントを担っている。また、Adobe PhotoshoやLightroomなどはソフト側で独自のカラーマネージメント機能を備えている。そう、色合わせの場はひとつではなく、複数存在する。大切なのは、どのカラーマネージメント機能で印刷するか、ユーザーが明示的に選ばなくてはならない。OS標準のカラーマネージメント機能を使うか、それともソフト側の機能にするか。色の方言の翻訳は一度でいい。一度でいいが、必ず翻訳しなくてはならない。これが「見ている色をそのままプリント」するための最重要ポイントだ。
カラーマネージメント機能を選ぶ――たったこれだけのことを言うために長々と書いてきたが、どん引きせずについてこれてるだろうか。これ以降は具体的な手順を紹介したい。といってもただステップを解説するのではなく、各設定が色合わせのどの行程に相当するのか、それを考えながらプリントを進めていくとしよう。
■■Photoshop Elements 5.0の場合■■
カラーマネージメント機能を利用したプリントの流れは、ざっくりいうと以下のようになる。(1)画像データのカラースペースを指定し、(2)使用するカラーマネージメント機能を選び、(3)そのカラーマネージメント機能を画像データのカラースペースと合わせ、(4)印刷用紙の種類を正しく設定。もうなんていうか、選んでばっか。まずは画像データのカラースペース選びからだ。
【画像データにもICCプロファイルがある】
デジタル一眼レフやハイエンドコンパクト機では、画像フォーマットでカラープロファイルが選択できる。sRGBとかAdobe RGBというのがそれ。Adobe RGBの方が広い色空間を扱えるので、より微細な色調まで再現。「見た目通りにプリントしたい」と思っている人は色にこだわりがあるだろうから、カメラが対応しているならAdobe RGBで撮影しておきたい。んで、このカラープロファイルというのは、実のところ画像データのICCプロファイルなのだ。カラーマネージメントを用いたプリントを行うには、まずスタート地点として画像データのICCプロファイルを正しく(というよりも明示的に)設定しておく必要がある。
一般にデジタルカメラ側で指定したカラープロファイル(画像データ用ICCプロファイル)が画像データに埋め込まれるのだが、ぼくが使っているキヤノン製デジタルカメラは埋め込まない仕様になっている。そこで画像をPhotoshop Elements 5.0に読み込むと、こんな画面があらわれる。
カラープロファイルが見当たらねえんだけど、どれにする? と聞いてくるわけだ。ここではカメラ側で設定したカラープロファイルを選ぶ。sRGBで撮ったならsRGBを、Adobe RGBで撮ったならAdobe RGBを選択。ちなみに、「カラーマネージメントなし」を選ぶと、カラーマネージメント印刷にノッケからつまずいてしまう。さらにAdobe RGBで撮ったのにsRGBを選ぶと色調クオリティが落ちる。撮影時のカラープロファイルを選ぶのがポイントだ。
ちなみに、リコー「GR DIGITAL」とソニー「α100」で撮ったJPEG画像はそのまま読み込むことができた。これは画像データにカラープロファイルが埋め込まれているということになる。で、問題は、そのカラープロファイルは何か、ということ。もちろんカメラ側で設定したカラープロファイルなのだが、メニューバーの〈イメージ〉→〈カラープロファイルを変換〉で確認しておくといいだろう。グレーアウトしているのが画像に埋め込まれているカラープロファイルだ。
【ICMを使うならプリンタ側で管理】
画像にカラープロファイルを埋め込んだら、お待ちどおさま、やっとプリント作業に突入だ。プリント画面を出して「カラーマネジメント」の項目に注目。「ソースカラースペース」が画像に埋め込んだカラープロファイル、つまり画像データのICCプロファイルになっている。ここではsRGBを埋め込んだ写真を使うことにした。んで、まずはウィンドウズ標準のカラーマネージメント機能「ICM」で印刷してみたいと思う。この場合、「プリンタプロファイル」で「プリンタ側でカラーマネージメント」を選ぼう。「いやいや、プリンタのドライバ補正じゃなくてウィンドウズのICMを使いたいんだよ!」というツッコミはごもっとも。ここがカラーマネージメント印刷の不親切なところなんです。
先の画面で〈プリント〉ボタンをクリックすると、プリンタドライバ画面があらわれる。「用紙の種類」を正しく設定して、「印刷品質」を「ユーザー設定」にしよう。「設定」ボタンをクリックすると以下のような画面があらわれる。
今回は印刷用紙にプロフェッショナルフォトペーパーを用いているので、最高品位で印刷したい。「品位」のスライドバーを「1」に設定しよう。ちなみに、前画面の「印刷品質」で「きれい」を選んだ場合は「2」になっている。おそらく印刷スピードを優先しての措置だろう。でもまあせっかくのカラーマネージメント印刷なので、ここでは最高品位を選んでみた。まあ、この設定方法はいろいろなサイトで見かけるのだが、ぶっちゃけカラーマネージメントとは無関係だ。単に印刷精度の設定である。つまり、プロフォトペーパーを選んで「きれい」モードでプリントしたってかまわない。あくまでも高品位に仕上げるためのオプション的設定だ。
ふたつ前の画面写真にて「色/濃度」を「マニュアル調整」を選び、「設定」ボタンをクリックしたのがこの画面だ。ここがICMでプリントするための山場である。「色補正」に「ICM(Windowsの色補正機能)」という項目がある。こいつを選択しよう。これでICMを使ったカラーマネージメント印刷が行える。この画面でわかりづらいのは補正という言葉を用いているところだ。補正という言葉を見ると、「補正って色を変えちゃうんでしょ!? そうじゃなくて見た色をそのままプリントしたいのにぃ」と思ってしまう。補正=カラーマネージメントと解釈すればずいぶんわかりやすくなる。この画面も「ICMで色合わせ」って記しておけばいいのに。
「入力プロファイル」という項目では画像データのカラープロファイルを指定する。今回はsRGBを埋め込んだ画像をプリントするので、初期設定のまま「標準」を選んでおこう。ウィンドウズはsRGBが標準カラースペースになっており、この「標準」という名称は理にかなっている。もちろんウィンドウズのカラースペースがsRGBと知っていればだが……。なお、「明るさ」の項目が「明るく」になっているが、これはhueyでモニターキャリブレーションした人向けの設定。モニターキャリブレーションしていない環境では、初期設定の「通常」でOK。これらの設定で、ディスプレイに表示した画像とプリントがほぼイコールの色合いになる。
【Photoshop Elementsのカラマネ機能を使う】
Photoshop Elements 5.0はアプリケーション側でカラーマネージメント機能を搭載している。これを使った場合もICMと同品位のカラーマネージメント印刷が可能だ。アプリケーション側で設定する利点はマッチング方法を選べるところ。このマッチング方法については後述するとして、早速Photoshop Elements 5.0のカラーマネージメント機能の使い方を紹介しよう。
画像データにカラープロファイルを埋め込んだあと、前述の手順と同じようにプリント画面を出す。そして「プリンタプロファイル」で印刷用紙のICCプロファイルを選ぼう。これでPhotoshop Elementsのカラーマネージメント機能が有効になる……ってなんじゃいそりゃ!? ハイここ激しくツッコんでほしいところです。いやあ、わかりづらいよねえコレ。
このプリンタプロファイルという項目は、カラーマネージメント機能をプリンタ側(ICMかプリンタ独自のドライバ補正)にするかPhotoshop Elements独自のものを使うかを指定するのだが、と同時に、独自カラマネ機能を選んだ際の印刷用紙のICCプロファイル設定項目になっている。つまり、ICMか独自カラマネ機能か→独自機能なら用紙のICCプロファイルを選べ、というわけ。どう考えたってわかってる人向けのメニューじゃん。アレですかねえ、シロートはカラーマネージメント印刷に手ぇ出すなってことでしょうか。どのカラーマネージメント機能を使うかという選択と、用紙のICCプロファイルを選ぶという作業は別モノだと思うんですが。
愚痴はこれくらいにして、用紙のICCプロファイルですね。要はこれ、用紙の種類を指定するだけのこと。プリンタドライバでよくやってる作業と同じことだ。ただし、このメニューをプルダウンさせると記号めいたリストがズラリと並ぶ。どれがどの用紙なのかわかりづらい。キヤノン純正紙のICCプロファイルと実際の用紙名は以下のような関係だ。
PR:プロフェッショナルフォトペーパー
SP:スーパーフォトペーパー
MP:マットフォトペーパー
(※末尾の数字は印刷品質を示し、数字が若いほど高品位)
画面では「PR1」を選んでいるが、これはプロフェッショナルフォトペーパーに最高品質でプリントします、という意味。末尾の数字は印刷品位のスライドバーの数値と合致している。ここで「PR1」を選んだ場合はプリンタドライバで品質を「1」に、「PR2」を選んだ場合は「2」に明示的に設定しておこう。なお、マッチング方法は「相対的な色域を維持」を選んでおくのが一般的。これについては後述します(ってそればっかじゃん)。
仕上げはプリンタドライバ側の設定だ。「印刷品質」は「ユーザー設定」を選び、スライドバーを「1」に(「PR1」を選んだからね)。「色/濃度」は「マニュアル調整」を選び、このマニュアル色調整画面を呼び出す。で、ここが重要! 「色補正」で「なし」を選ぼう。「なし」を選ぶということは、プリンタドライバ独自の補正機能(ドライバ補正)を使わず、しかもウィンドウズ標準のICMも使いませんよ、という意味だ。なにしろPhotoshop Elementsのカラマネ機能を使うのだから、他のカラーマネージメント機能を使う必要はない。これでICM同様、ディスプレイ上の画像とほぼイコールの状態でプリントされるようになる。
【知覚的か、それとも相対的か】
さて、先延ばしにしてきたマッチング方法についてだ。ここでは通常、「相対的」か「知覚的」を選ぶことになる。相対的というのはわかりやすくいうと、色情報を数値的にみて、近似値同士をマッチングさせる方法。知覚的とは人が見たときの雰囲気を重視した色合わせということになる。一般的には「相対的」の方が理想的に色合わせ(カラーマッチング)してくれるようで、ICMでプリントする際も自動的に「相対的」が選ばれていた。
しかし、こうした言葉による説明はわかりづらい。ぜひ一度、Photoshop Elements側のカラマネ機能を選び、相対的と知覚的で同じ画像をプリントしてほしい。二枚のプリントを見比べて、より画面表示に近い方、もしくは近いと感じられた方が相応しいプリントだ。
今回、いくつかのサンプルでテストしてみたところ、相対的は濃いめに(もしくは暗めに)プリントされ、知覚的は軽い雰囲気でプリントされる傾向があった。これは個人的な印象だが、ぼくの環境では「知覚的」の方が気持ちいい。これはおそらく、デジタル一眼レフで撮影した画像をプリントしていることと関係しているようだ。知覚的でプリントすると、グラデーションがきれいに出るという。デジイチで撮った画像はボケ味を活かした写真が多く、画面の多くの面積がグラデーションで占められる。そのため「知覚的」の方が好ましく思えたのだろう。このマッチング方法は、微細ではあるものの、写真の重さ軽さを左右する印象を受けた。ここイチバンのカットは両方でプリントして、いい方をチョイスしたい。
毎度ながら長い解説になってしまったが、お金をかけずにナンとかカラーマネージメント印刷にたどりつけた気がする。先般、「Adobe RGBでプリントしたい!」という記事を掲載したが、ぼくの勉強不足やテスト不足があり、誤解を与えるような内容になってしまった(※削除しました)。ひとつだけ言い訳させてもらうと、見た目の色にこだわるあまり設定をイジくりすぎたようだ。というのも、今回の手順を踏まえても、MP960ではどうしても黄色くなる。それが気になって仕方ない。ここから先はプリンタを買い直すか、プリントキャリブレーション商品に手を出すことになるのだろう。とりあえず手持ちの環境でできることは、こんな感じではないだろうか。また日を改めて、Lightroomやhueyを用いた環境についても追いかけてみたい。