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March 2007

March 27, 2007

Lightroom 1.0 ライバルとの距離

ベータテストから使ってきたAdobe Photoshop Lightroomがついに発売になった。RAW現像はSILKYPIXやApertureなど、他社が先行している分野。いくらグラフィック界の大御所Adobeといえどもアグラをかいてはいられない。すでにBeta3Beta4でアウトラインは紹介してきたので、今回はライバルとの機能差に注目しながらその行く末を考えてみたい。

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【版を管理できるスナップショット】
Lm02ぼくは根っからのSILKYPIXユーザーだが、今回Lightroomを購入しようと思った最大の理由がこいつ、スナップショット機能だ。1枚の画像に対して複数の版を保存でき、サイドパネルからワンクリックで切り替えられる。要は1画像複数仕上げが可能なのだ。類似機能をApertureが搭載していて、実はこの機能が使いたいがためにMacを買おうと本気で検討していた。しかし、Lightroomが同等機能を備えたので、当面はこいつを使ってみるつもりだ。

使い方はカンタン。適度に補正したところで、スナップショットの「+」マークをクリック。あとは名称を入力すればいい。ここでは1枚の画像からモノトーン、ポラロイド風、軟調を作ってみた(下の写真を参照)。SILKYPIXだと仕上げるたびに現像する必要があり、しかも元の設定に戻すのはずいぶんと手間がかかる。ワンクリックで版を切り替えられるのは大きなメリットだ。また、ヒストリーパネルでは作業の履歴がすべて記録され、こちらもワンクリックでその作業時点に戻すことができる。フォトショップではおなじみの機能だが、こうした履歴機能は安心感につながるので歓迎だ。臆せずゴリゴリと補正できるのがいい。

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ただし、ひとつ不便な点も露呈した。Lightroomは項目ごとにリセットできないのだ。現像画面の右下に「初期化」ボタンがあるのだが、これをクリックするとすべての項目がリセットされてしまう。たとえば、コントラストだけデフォルトにしたい、色調だけ初期状態に戻したいという場合、Lightroomでは項目内のスライダーをひとつずつデフォルトに戻していくことになる。この点SILKYPIXは項目ごとのプルダウンメニューに「デフォルト」が用意され、ピンポイントかつワンクリックで初期化が可能。さほど手間のかかる機能ではないので、アップデートなどで対応してほしいところだ。

【貧弱なプリセット機能がプロ向けの証!?】
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AdobeはLightroomの位置づけを、プロフォトグラファー向けとことさら強調している。フォトショップシリーズ内の写真家向けソフトということなのだが、そのせいかプリセットがひどく貧弱だ。モノトーン系が4つ、コントラストが4つ、カラーバランスにいたってはポジプリント調がひとつという寂しさ。とはいえ、アンティークグレースケール(中央画像)とポジプリント調(右画像)はなかなかインパクトのある風合いで、ワンクリックでここまで持ち上げてくれるのは爽快だ。

片やSILKYPIXは、項目ごとに選びきれないほどのプリセットを備えている。バージョン3.0では統合プリセット機能「Taste」も搭載し、この傾向はますます強まってきた。どちらが使いやすいかといえば、やはりプリセットが多いにこしたことはない。いろいろな風合いを気軽に試せるし、ハイアマチュアにとっては色作りの指標にもなる。Adobeの言い分としては「プロフォトグラファーなんだから色合いは自分で作りますよね?」ということかもしれないが、少なからぬ写真家たちがフィルムテイストな仕上がりを落とし所にしている現状を考えると、メジャーなフィルム調のプリセットぐらいは揃っていてもいいだろう。正直なところぼくのようなアマチュアは、Lightroomを前に悩んでしまうことも少なくない。プラグイン形式でいいからプリセットを増やせないものだろうか。

【モノトーンなのに色の魔術師】
Lightroomは色の魔術師である。これはBeta3の頃から繰り返しいってきたことだが、製品版を使ってよりその思いを強くした。カラースライダーが充実しているのはいうまでもないが、実はモノトーンも積極的な色作りが行える。といってもグレースケールミックスのことではない。明暗別色補正がたまらなくおもしろいのだ。

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この機能はハイライトとシャドウで個別に、色相や彩度を調整するというもの。言葉ではうまく伝わらないので、中央の作例を見てほしい。これはプリセットでアンティークグレースケールを選んだあと、ハイライトの彩度を下げたものだ。これだけならナンてことはないが、さらにシャドウの色相を青に変えてみた。つまり、ハイライトは暖色、シャドウは寒色というイレギュラーなモノトーン写真が作り出せる。この自由度はLightroomならではのアドバンテージだ(この機能をクローズアップした記事を掲載しました。こちらも合わせてご覧ください)。

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色の魔術師とはいえ、自由は使いこなせなければ意味がない。その点は十分に配慮されており、「どこを」「どうしたいか」といった直感的操作を実現している。この直感的操作という言葉はPC用語としてあまりに陳腐だが、常套句としてではなく、真の意味で直感的だ。カラー管理とトーンカーブのパネルに小さなポッチがあり、これをクリックするとマウスポインタの形状が変わる(左画像)。そして調整したい場所をクリック。そのままホールドしてマウスを上下すると、移動量にともなってカラーやコントラストが変化するというものだ。ここでは紫の花を選び、色相、輝度、彩度を上げてみた。通常ならば調整したい色をユーザーが把握し、自らスライドバーを動かす必要がある。しかしLightroomは単純に場所を指定すればいい。また、右パネルのヒストグラムとトーンカーブを直接マウス操作で調節できるようになり、ダイレクト操作という観点では他の追随を許さない。かいつまんで言うと、マウスでつまんで動かす。それだけでいい。

【フィルムスキャン派嬉し悲しの現実】
Lm20_1LightroomはRAW現像ソフトだが、JPEGやTIFFが読み込め、RAWデータと同様の補正操作が行える。この点実にボーダーレスだが、SILKYPIXのRAW BridgeのようにRAW化してくれるわけではない。単なるレタッチ処理をLightroomのインターフェイスで行うだけだ。とはいえオリジナルデータをイジらない非破壊編集の上、ゴミ取り機能がある。そう、以前「お手軽フィルムスキャンの法則」で紹介したゴミ取り後まわしができるわけだ。このゴミ取り機能はなかなか使い勝手がよく、ゴミをワンクリック→そのまま代わりに貼り付けたいエリアまでホールドして→マウスボタンを放すというカンタン操作。フォトショップのゴミ取りと逆操作になるということで物議を醸した機能だが、日常生活と照らし合わせたとき、こちらの方が理にかなっている。ゴミ取りとはまず、ゴミを取るのだ。真っ先に貼り付け画像(エリア)を選ぶというアプローチは、デジタル的発想にすぎない。

Lm22しかし、フィルムスキャン派にとって物足りない部分もある。それはシャープ機能だ。見ての通りシャープは単一機能のみで、ノイズ除去は輝度とカラーの二系統だけ。デジタルカメラ画像ならこれでもいいが、往々にしてシャープネスが甘くなるスキャン画像の場合、これでは心許ない。現像時にアンシャープマスクがかけられるわけでもないし、この点はSILKYPIXの完勝だ。まあ「フォトショップで調整してください」ということなのかもしれないが、1ソフト完結を売りにしたアプリケーションだけに惜しまれる部分ではある。

【追いつくためのバージョン1.0】
日頃SILKYPIXを使っているためそれとの対比に終始したが、布石としてのバージョン1.0という印象は拭いきれない。たしかに色彩コントロールの自由度は圧倒的であり、直感的操作、スナップショット、類似画像をひとまとめにするスタック機能など、機能面は充実している。その一方で貧弱なプリセット、申し訳程度のシャープおよびノイズリダクションなど、ウィークポイントも浮き彫りになった。こうしたメリット・デメリットを相殺すると、既存ソフトに追いつくためのバージョン1.0と思えてならない。

そもそもLightroomはAdobeがRawshooterを買収し、Apertureキラーとして開発を進めたものだ。クリエイティブオフィスともいうべき同社他製品とインターフェイスは統一されておらず、直感的操作にこだわりを見せる反面、カラープリセット不足や全面フチなし印刷未対応とビギナーに不親切だったり、どうにもぎこちなさが目立つ。どうやらこのソフトは、ハイアマチュアホームユーザー向けでも、グラフィッククリエイター向けでもなく、当初からAdobeが喧伝しているとおり、プロフォトグラファーだけをターゲットにしたソフトかもしれない。個人的な結論をいうのであれば、SILKYPIXとの併用はできる、が、乗り換えはできない。ゴミ取り機能を搭載しているから、おそらくフィルムスキャンした画像はLightroomを使うだろう。色彩コントロールがすぐれているので、特定色をピンポイントで操作したいときもLightroomを使う。ただ、デジタル画像を写真っぽく仕上げたいとき、ぼくは悩む。ベルビア、コダック、アグファ。記憶色重視や肌色補正などなど。落とし所はいろいろある。しかし、こうした色調をそのたびに作り上げていくのはけっこうな手間だ。直感的操作と最小ステップは、似て非なるもの。使い慣れているということもあるが、現時点ではSILKYPIXの方が短時間で、そしていろいろなパターンで現像を楽しめる

商業写真のワークフローにおいて、Lightroomはきわめて有効なソフトだ。しかし写真を純粋に楽しむ大半のアマチュア写真家にとって、Lightroomが必ずしもベストとは言い切れない。操作性は数あるRAW現像ソフトなかでダントツにいい。プロフォトグラファーが必ずしもパソコンに精通しているわけではない、という認識にたっての設計だろう。つまりこれは、PCスキルを問わず使いやすいソフトだ。それだけに惜しい。

多くは望まない。プリセットを増やしてくれるだけでいい。

※Lightroom関連の記事はこちらのまとめてあります。

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March 22, 2007

PX-G930 & MP960 スペック崇拝の人々へ

原稿でダメ出しをくらった。お題目は単体ハイエンドプリンタ。いまやメインストリームは複合機だが、画質を求めるなら単体ハイエンドプリンタだね、というコンテンツだ。エプソン「PX-G930」を借り受け、手持ちのキヤノン「MP960」と比較してみたところ、PX-G930はかなりイケてるプリンタだった。そこで思いの丈をブチまけてみたのだが、「ハイスペックプリンタが高画質なのはアタリマエ、原稿のテンションが高いからリライトしてね」という指示だった。

一応これでも、90年代後半から数多くのカラーイメージング機器をテストしてきた。テンションが高くなったのは、それなりに理由があってのこと。ハイエンドプリンタはスペックがいいから高画質、という編集者の画一的な見方に疑問を感じる。仕事のグチになって恐縮だが、今回はスペックと画質の関係を考えてみたい。

【スペックから読み解く画質の優劣】
まずはスペックを比較してみよう。PX-G930とMP960の特徴は以下のようになる。

PX-G930
・セミプロ仕様のA4単体プリンタ
・Adobe RGB対応
・8色インク(内ひとつはグロス系インク)
・発色特性のよい顔料インク
・インクドットは最小1.5pl

MP960
・キヤノン複合機の最高峰モデル
・プリント機能は同社A4単体ハイエンド機と同等と思われる
・7色インク
・1plの微少インクドット

PX-G930はA3クラスの性能をA4プリンタで実現しているのが特徴。一方MP960は、複合機でありながら単体プリンタクラスの画質を備えているのが強みといえる。キヤノンのアドバンテージは1plという極小インクドット。粒状感はほぼ皆無で、なめらかな仕上がりだ。エプソンは発色のよい顔料インクと光沢感を向上するグロスオプティマイザが強み。もちろんAdobe RGB対応という点はデジイチユーザーにとって大きな魅力となる。

実際にプリントしたものを見比べると、PX-G930はわずかにインクの粒状感が気になる。しかし、発色の落ち着き方が実に気持ちいい。「顔料インクだから発色がいい」という表現は、どことなく鮮やかな色合いを想起させる。しかし単に鮮やかということではなく、深みのある発色だ。片やMP960はやや黄色に偏る。これはここ最近のキヤノンの傾向。必ずしも日本人好みとは思えないが、ワールドワイドで展開するためのカラーバランスなのかもしれない。

【ぬり絵的高画質の向こうにあるものは!?】
ここまでの比較では、両者それぞれの良さがあるという結論だ。キヤノンの1plはやはり強烈で、粒状感ほぼ皆無のなめらかさは特筆モノ。とはいえエプソンの深みのある色合いも気持ちいい。ハイエンド製品はさすが、そんなありきたりな感想に落ち着いた。しかし、下の画像をプリントしたとき、ぼくは冷静さを失った。PX-G930とMP960の決定的なちがいが浮き彫りになったからだ。

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EOS 20D + EF24-70mm F2.8L USM

EOS 20Dを使ってAdobe RGBモードで撮影し、その後SILKYPIX 3.0で加工している。画面ではわかりづらいかもしれないが、カメラ底部の影が黒つぶれし、コンディションはあまりよくない画像だ。これをPX-G930とMP960でプリントしてみた。各々プリンタドライバの補正機能をONにし、プリント用紙は富士フイルム「写真仕上げPro」を使った。メーカー専用紙を使わなかった理由は、ある種の公平性を期すためだ。用紙に記されている推奨用紙設定に準じ、PX-G930は「写真用紙」で、MP960は「プロフォトペーパー」に設定して印刷している。なお、掲載にあたってGT-X900でスキャンを行った。解像度は600dpi。その後傾き修正とゴミ取りを施してリサイズしている。

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がキヤノン「MP960」、がエプソン「PX-G930」だ。比較前に注釈しておきたいことがある。MP960の色味がオリジナル画像と異なっているが、これはモノトーンライクなプリントをスキャンしたためだ。実物のプリントサンプルでは、MP960がオリジナルに忠実で、かすかに緑がかった色合いを再現。むしろPX-G930の方がセピアトーンに転んでいる。そうした画像をスキャンしたことで、さらに色調が逆転してしまった。しかし、今回問題にしたいのはこうした色調の話ではない。注目してほしいのはカメラ底部画像の右上だ。

MP960のプリントはハデにトーンジャンプしている。オリジナル画像の階調性が破綻しているのでこれは画像に忠実ということなのだが、その上コントラストをいくぶん高めているらしく、このようなハデなトーンジャンプが発生した。なお、誤解のないように付記しておくと、これはけっしてMP960の性能がわるいというサンプルケースではない。MP960はオリジナル画像を比較的ストレートに、その上で見栄えよくするため若干コントラストを上げる特性があるようだ。一般にデジタルカメラは、白飛びや黒つぶれを回避するためにコントラストを抑えめにして記録する。そうしたやや眠たい画像をコントラストアップで整えていくれるわけだ。

さて、PX-G930のプリントを見てみよう。カメラ底部にかすかに黒つぶれが認められるが、オリジナル以下に抑えられている。粘りのある描画とでもいおうか、まるでネガフィルムのような表現力だ。この仕上がりを見て、ぼくは俄然PX-G930が気に入った。手持ちの画像を次々にプリントアウトしてみた。

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これらのサンプルは、フィルムスキャンした画像をSILKYPIX 3.0でLOMO風に加工したものだ。クロス現像とまではいわないが、かなりギトッとした色合いにしてある。それをPX-G930でプリントし、スキャンしている。まあいろいろと作業工程がややこしいが(笑)、こってりとした色合い、ただハデなのではなく、世界が目の前にあるような濃密さは伝わってくると思う。

色の深みと粘り――その結果PX-G930というプリンタは、写真っぽい高画質ではなく、写真そのものの濃厚さを目指しているのではないか。インクジェットプリンタは、どれだけインク数を増やしても、インクドットを微細化しても、どこか塗り絵的な世界観から抜け出せなかった。その点PX-G930でプリントしたものは、手にした瞬間「ああ、これが写真だよなあ」と実感できた。「わあキレイ、写真みたい!」ではない。単純に「これは写真だ」と認められるクオリティ。実際の紙焼き写真と比べたりしなくても、またスペックや技術的ウンチクをまったく知らない人たちでも、それは実感できるはず。だからこそぼくは、テンションの高い原稿を書いた。わざと書いたのではない。いい製品に触れたから、勝手にテンションが上がったのだ。

【スペックよりも自分の目と感動が指標】
ボツになった原稿はこんな文章で締めくくった。

「インク数とか解像度とか、はたまたインクドット○plとか、そんな数字で画質は計れない。プリントしたものを手にしたとき、「写真」と思えるか否か。画質は感動指数、なんてキャッチコピーが浮かぶほどにPX-G930のプリントは美しい」

ここまでブログ記事を読んでくれた人ならば、言わんとすることはわかってもらえるだろう。しかし、編集者からの赤入れはこんな具合だ。

「低価格プリンタの救済的結論としてならいざしらず、PX-G930はハイエンド機。あなたが否定したインク数やスペックにこそメリットがあるんじゃないですか!?」

彼の赤入れを全面否定するつもりはない。PX-G930はA4プリンタとして最高峰の性能を備えている。ハイスペックだからこそ高画質なのだ。しかしこれは結果論であって、ハイスペックは高画質のお墨付きになりえない。たとえばレックスマークというプリンタメーカーがある。かつてプリンタが解像度競争をしていた当時、この会社もエプソンやキヤノンと同程度の解像度を誇るプリンタをリリースしていた。しかし悲しいかな、画質はあまりにお粗末……。高画質とはハイスペックの結果論であり、けっしてハイスペック自体が高画質を証明するわけではない。これをはき違えた人々を、スペック信者、スペック偏重主義と呼ぶ。

デジタル畑はスペック信仰者が多い。パソコン、デジタルカメラ、デジタル家電など、どの分野も依然スペックをありがたがる風潮が抜けきらない。デジタルは所詮、効率性を求めたアナログの置換だ。デジタルがドットという概念を捨てない限り、どれだけ解像度を高めても真円すら描けない。色調にいたってはRGB各色256段階でしかあらわせない。デジタルとは詰まるところ、そういう世界だ。数々の制約を抱えながら、メーカーは技術力を高めてきた。特にこの10年、カラーイメージング機器の進歩は飛躍的だ。しかし、こうした技術的進歩はアプローチのひとつでしかない。スペックが美醜を決めるのではない。我々の目が、我々の感性が美しさを決めるのだ。

ぼくにとってPX-G930とは、ハイスペックだから高画質なのではない。プリントしたものを手にしたとき、「写真だ!」と感じられたから高画質なのだ。写真高画質という言葉はもはや陳腐だが、そのレベルは多くのプリンタがクリアしている。その上でPX-G930は写真表現の領域に踏み込んだ気がした。基準や感じ方は人それぞれだろう。ただ、デジタル畑十数年のライターとして、その感動を読者に伝えたかった。

残念ながらその機会は失われてしまったけど、ここにひっそりと記しておくことで、こんな駄文も誰かの役に立つかもしれない。いまさらスペック偏重主義を嘆くのもずいぶんと青臭い話だが、ぼくが言いたいことはひとつ。ハイクオリティを装ったものと、真のクオリティを宿しているもののちがい、それを見抜くことが大切だ。

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March 19, 2007

GT-X900 お手軽フィルムスキャンの法則

「最近デジタルで撮ってませんね」仲良くしている編集者がチクリという。たしかにこの一ヶ月、ExaktaSX-70でしか撮っていない。しかしことさらフィルムがいいと強調するつもりはないし、別段デジタルに飽きたわけでもない。楽してフィルムスキャンするコツがわかってきたので、銀塩とデジタルをボーダーレスに楽しめるようになっただけだ。

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【ゴミ取りしないフィルムスキャンテク】
フィルムスキャンが面倒なのはゴミ取りのせいだ。無菌室でないかぎり、必ずチリやホコリが付着する。これは避けようがない。当然ゴミ取り機能をONにしてスキャンするわけだが、ダストリダクションをかけすぎると細部がひどくにじむ。画像全体としてもシャープネスが甘くなる。面倒な上に低画質。それならデジタルカメラでいいじゃないか。誰だってそう思う。いまさらフィルムに走ることはない。トイカメラに興味があってもデジタル化が面倒で踏み切れない人は少なくないはずだ。

そこで発想の転換。ゴミを取ろうするから画質が落ち、手間がかかる。ならばゴミ取りしなければいい。ウェブ素材やA4プリント程度なら、ゴミ取りに神経をすり減らすことはない。そんなお手軽フィルムスキャンテクを紹介しよう。

【物理的にゴミを取り除く】
Picture0022_2まずスキャナのガラス面をていねいにブロアで吹く。フィルムも吹く。できればフィルムを扱う際は写真用白手袋をはめる。ここが唯一手間をかけるポイント。ゴミをデジタル領域で取り除くのではなく、物理的に排除しておく。取り除くべきゴミがなければデジタル処理は俄然ラクになる。

スキャン時のダストリダクションは「中レベル」程度でいいだろう。くれぐれもここでダストリダクションをOFFにしないように。シャープネスをキープしたい気持ちはわかるが、ダストリダクションOFFだと微細なチリが無数にスキャンされてしまう。スキャン解像度の目安はデジタル一眼レフと同程度でいい。35ミリフィルムなら2400dpi、中判フィルムやポラロイドフィルムは800dpiぐらいで十分だ。これで画像解像度は800万画素機と同程度になる。ウェブ素材はもちろん、A4フチなし印刷だって精細だ。なお、画像形式はあえてJPEGにする。えっ、TIFFじゃないの!? いいんですJPEGで。たしかにJPEGは再保存のたびに劣化するが、要は再保存の回数を減らせば問題なし。1~2回の再保存なら見てわかるほどの劣化はない。もちろんここ一発の入魂画像はTIFFで保存しておこう。

【ゴミ取りしないでSILKYPIX3.0へ】
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通常ならばこのままフォトレタッチソフトでゴミ取り作業に突入する。しかし、お手軽フィルムスキャンの場合はSILKYPIX Developer Studio 3.0の出番だ。SILKYPIX3.0はRAW Bridgeという機能があって、JPEG/TIFF画像をRAW化して現像処理できる(JPEG Photographyの場合はJPEGのみ対応)。一般的なレタッチソフトより劣化が少なく、しかも非破壊編集だ。オリジナル画像はデータ的にいじらないので、補正作業を何度でも試行錯誤できる。ピクセル等倍で見るとチリやホコリが気になるが、かまわず補正作業に取りかかろう。ひと通り作業を終えたら、OKカットのファイル名をメモしておく。

【数枚の写真をサクッとゴミ取り】
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レタッチソフトを起動して、チョイスした写真を読み込む。仮に36枚撮りフィルムでもOKカットは数枚というのが現実。数枚の写真ならゴミ取り作業もさほど手間じゃない。しかし、念入りなゴミ取りはナンセンス。ピクセル等倍でのチェックなんて以ての外だ。拡大率50~70%で十分。要は出力サイズ(ウェブ素材ならリサイズ後の解像度、プリントなら印刷サイズ)で目立つゴミがなければOK。そういう割り切りが大切だ。しかし、ゴミ取り作業自体は100~300%に拡大すること。ここで表示倍率が低いままだと、ゴミ取り痕が目立ってしまう。見るのはざっくり、取るのはキッチリ。これが上手な手の抜き方だ。

ゴミ取り作業を終えたら再びSILKYPIX3.0に戻り、OKカットを現像する。オリジナルデータ上でゴミ取りしているので、きれいな状態で現像できるわけだ。結局JPEGを2度再保存することになるが、個人的には気になるほどの劣化ではない。スキャン→補正→ゴミ取り→現像。この順番で作業を進めるのがコツだ。

【手抜きスキャンでカメラの自由を】
フィルムをスキャンすると、ついすべてのスキャン画像をゴミ取りしたくなる。しかも高倍率表示でミクロン単位のチリまでも。しかしこれはあまりに神経質。ゴミ取り作業は必要なレベルに抑えるのがポイントだ。そしてもうひとつ、非破壊編集タイプの画像編集ソフトはぜひともそろえておきたい。オリジナル画像をいじらないので、ゴミ取り作業を補正の後回しにできるからだ。一般にゴミ取りは補正前の下ごしらえと考えがちだが、非破壊編集ソフトがあれば後処理として作業できる。必要最低限の枚数だけゴミ取りすればいい。SILKYPIX以外では、Adobe Photoshop LightroomがJPEG/TIFFの非破壊編集に対応。Lightroomはゴミ取り機能も搭載しているので、これ1本でスキャン後の全行程がまかなえる。

とまあ長々とフィルムスキャンについて書いてみたが、別にスキャナメーカーからお金をもらっているわけでも無類のスキャンマニアということでもない。カメラの自由を獲り戻したいだけだ。パソコンが日用品レベルに普及した今、写真もデジタルで管理したいのは当然のこと。フィルムで撮りっぱなしというわけにはいかない。しかし、「だからデジタルカメラ」という縛りがどうにも窮屈なのだ。古いカメラやレンズには、見た目がおもしろいもの、抜群に写りのいいもの、はたまたトイカメラみたいに手軽にアーティスティックに撮れるものなど実にバリエーションが豊富。そんな楽しさ満載のカメラやレンズが、一部の高級品をのぞけば普及価格帯コンデジと同じぐらいの値段で買える。フィルムメーカーが着々と生産中止アイテムを増やしている今だからこそ、駆け込みでフィルムカメラを楽しんでおきたい。特にデジタルからカメラに目覚めた人は、今後5年がラストチャンスと思った方がいい。

デジタル化とは効率化に他ならない。そして写真は詰まるところ、趣味の世界だ。あなたは効率的に写真が撮りたいのか? 趣味の写真だからこそ、デジタルもフィルムも両方欲張ってみてはどうだろう。

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March 09, 2007

Exakta VX1000 機械式ギミックの花園

一連のGR DIGITALカスタマイズでやってきたことは、端的にいってしまえばデジタルカメラのクラシックカメラ化だ。だったらいっそ、クラカメ買えばいいじゃん。そんなツッコミを入れられるまでもなく、前々からクラカメ購入をもくろんでいた。どのカメラを買うか。ファーストクラシックカメラはどれにするか。現代的デザインの彼岸にあるような、メカっぽさ全開、金属の塊、すみずみまで機械式の写真機。いろいろと悩んだ挙げ句、Ihagee Exakta VX1000を手に入れた。

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_mg_6030_1Exaktaというカメラは1950~1970年にかけて旧東ドイツで製造され、元祖一眼レフと称されることが多い。その独特の外観から甲冑カメラと呼ばれたりもするが、それはロゴを浮き彫りにしたり刻印したモデルのこと。ぼくが手に入れたExakta VX1000は最後期の1967年頃に作られたモデルで、デザイン自体は現代的、というかモダン(笑)だ。少なくとも博物館に陳列されるほどのクラシックカメラではない。まあ、世界強面カメラ選手権で上位入賞しそうな面構えだが、見た目もさることながら、ユニークな機構が盛りだくさんだ。特にデジタルからカメラをはじめたぼくにとって、目からウロコなギミックが目白押し。今回はそんなExaktaのギミックを紹介してみたい。

【赤く知らせる未巻き上げサイン】
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まず目を引くのがウエストレベルファインダーだ。下を向いて撮るという新鮮さに加え、ファインダーが広いので眼鏡使用のぼくにはとても使いやすい。ミラーに写った像をそのまま見るため左右反転してしまうのが難点だが、これは慣れが解消する部分。ただ、この左右反転というのはちょっとクセモノで、水平をとる際にどっちに傾ければいいのか迷ってしまう。そんなときは両手でしっかりホールドすると、案外すんなりと水平が出せるから不思議なものだ。どうしても使いづらいということであれば、このファインダーは交換式なのでアイレベルファインダーと取り替えればいい。

数枚撮影して妙な現象に気づく。ファインダーをのぞくと、左端に半透明の赤いかけらが見え隠れするだ。このカメラはずいぶんと安く手に入れたので、故障品をつかまされたか……と肩を落としたが、実はそうではなかった。この赤い奴、フィルムを巻き上げると消える。シャッターを切るとあらわれる。そう、フィルム巻き上げのサインなのだ。なんてユーザビリティーに富んだカメラなんだっ。

【レンズ横のポッチはナンですか?】
_mg_6098_1次いでExaktaの特徴といえば、やはりレンズ横のポッチだろう。結論からいえば、こいつはレリーズボタン、シャッターだ。ボディ前面にレリーズボタンがあり、これをレンズのボタンが押し込む仕組みになっている。Exaktaは自動絞りに対応していて、シャッター半押しで絞りがキュッと絞り込まれる。これがちょっと新鮮な世界だった。いまどきの一眼レフは自動絞りなんてアタリマエだが、マウントアダプタ経由でクラシックレンズを使うと実絞りになってしまう。暗いファインダーに耐えてピントを合わせるか、シャッターを切る直前に絞り込まなくてはならない。でもExaktaなら、クラシックレンズを自動絞りで使える。まったくもって倒錯的な話だが、デジタル世代には新鮮な世界だ。

_mg_6104細かいところではレリーズロックがおもしろい。ボディのシャッターをロックするシンプルな機構だが、携行時の安心感につながるのはたしかだ。写真はレンズをはずした状態だが、もちろんレンズ装着したままでもロックできる。賢明な人はこの写真をみて、「おいおい、このカメラったらシャッター左側じゃん」と気づいたことだろう。そう、Exaktaはよく左利き用カメラなんて揶揄されることがある。たしかに左手でシャッターを切るという行為は、長いカメラ史において異端以外のなにものでもない。しかし、ウエストレベルファインダーと組み合わせると思いのほかスンナリ受け入れることができた。胸の前で何か大切なものを抱えるように、両側からしっかりとカメラを包み込む。そんなホールディングスタイルだと、左手シャッターもそれほど不自然ではない。後述するが、シャッタースピード、巻き上げ、レリーズと、Exaktaはすべて左手だけで操作できる。右手はしっかりとカメラを支えていればいい。これはこれで理にかなった世界観だ。

【まるでギロチン-フィルムカッター】
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裏ブタを開けると奇妙なものが目に飛び込んでくる。フィルム装填のハウジングにカッターが付いているのだ。これはフィルムカッターと呼ばれるもので、初期のExaktaから搭載されているもの。まだフィルムが高価だった当時、途中で別のフィルムに交換する際、これでフィルムをカットしたらしい。カットするときは前もってマガジン式スプールに交換しておく必要がある。コレクター魂がマガジン式スプールも集めよと命じるが、理性はそこまでしなくてもいいという。内なる開発部長は「スプールの前にアイレベルファインダーだね」なんてノンキなこというが、経理部長が大きく手を挙げて×をつくっている。社長のツルの一声「エキザクタといったらアンジェニューだろっ」は幻聴か……。

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ギミックはまだまだつづく。右ダイヤルはスローシャッターとセルフタイマーのダイヤルで、シャッタースピードダイヤルでBおよびTを選ぶと動作する。ゼンマイ式なので精度は推して知るべしといった状態だが、ゼンマイで時間制御という発想に不覚にも感心してしまった。機械式かくあるべし、である。その横にある小窓はフィルム巻き上げを確認するためのもの。フィルムを巻き上げると、フィルムマガジンの軸が内部のマークを動かして巻き上げ動作を確認できる。残念ながらぼくが手にした個体はうまく動いてくれないのだが……。

左側は巻き上げレバー、シャッタースピードダイヤル、巻き戻し用ボタンが並ぶ。フィルムカウンターはカウントダウン方式で、シャッターを切るごとにひとつずつ数字が減っていく。巻き上げたタイミングではなく、レリーズタイミングにカウントダウンするのが特長的だ。底面はいかにも頑丈そうな三本足が付いている。まるで高級オーディオのインシュレータのようだ。

【40年前の機械がとらえる光】
_mg_6139Exakta VX1000が作られたのはいまから40年ほど前のこと。そんなに古い機械でちゃんと写るのか? いやこれが、けっこういい感じに写る。付属していたレンズはCarl Zeiss Jena Tessar 50mm/f2.8Flektogonほどではないにせよ、とても評判のよいレンズだ。今回手に入れた個体はヘリコイドが軽く、チリ、ホコリもそれなりに混入していた。コンディションはよくないが、それでも気持ちよく写る。試写したものを載せておくのでご参考まで。なお、フィルムはFUJICOLOR SUPER400FTを使用し、スキャンしたものをSILKYPIXでレタッチしている。

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色味はかなりいじっているが、レタッチするにあたっておもしろいことがあった。デジタル画像はかなりゴリゴリとイジり倒すのに、フィルムスキャンした画像はやさしめに仕上げようとする自分がいた。モノトーンライクなカラー写真という基本姿勢こそ変わらないが、主にコントラスト調整で普段とちがった心の動きがある。コントラストを上げるのではなく、下げる。シャープネスはかけない。解像感やメリハリよりも、空気感重視といったところか。まだ試写段階なので何ともいえないが、Exaktaの写真と向かい合うとき、普段とちがう気持ちになっているのはたしかだ。

【仕組みを肌で感じる機械仕掛け】
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フィルム一眼レフで撮ったのははじめての経験だ。しかもよりによって、Exaktaというクセのあるカメラ……。すぐにちゃんと撮れたわけじゃない。コマが重なってしまったり、あやまって巻き戻しボタンを押してフィルムが感光してしまったり、巻き上げに失敗して1本オシャカにしたことも白状しておこう。

でも最近は、たとえば巻き上げ失敗は指先が感じる。そんなときはカラシャッターを切ってから、直前の構図でもう一枚撮っておく。左右逆転したファインダーも頭を切り換え、ファインダーの中が現実なのだと考えるようになった。ゼンマイ式のスローシャッターは正直アテにならないが、ネガフィルムなら何かは写っているはず。そんな風に割り切って撮る自分がいる。こうした心の動きを整理してみると、仕組みを知っている安心感が割り切りにつながっているようだ。デジタルカメラだとこうはいかない。動作不良は即電子的故障であり、修理しないと使えない。気持ちがささくれ立つ。不満と不安が募る。しかし機械式カメラの場合、多少の動作不良は個体のクセと解釈して運用で乗り切れる。わかりやすくいえば、「こいつを使いこなせるのはオレだけ」という自負心が、撮る楽しみを盛り上げてくれる。

デジタル機器の使いこなしは取扱説明書に記載された操作方法だ。一定手順を踏むことで、誰もが同じ結果を得ることができる。それは平等というデジタルの特権かもしれない。その点機械式カメラは不平等だ。個体差の大きいクラシックカメラともなれば、クセをつかまずに良好な結果は得られない。そんな不平等で偏屈な世界だが、ひとつだけステキな恩恵がある。

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カメラを愛でる。そんな気持ちになれるのは、機械式ならではの特権だ。

●Exakta VX1000で撮った作例はこちら

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March 04, 2007

GR DIGITAL カスタム再始動

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GR DIGITAL カスタムブック 出版!
2009年6月8日、GRDカスタマイズを一冊にまとめた「GR DIGITAL カスタムブック」を出版します。これまでブログ、雑誌、ウェブ媒体で紹介したカスタムに加え、新作スタイルを多数収録。詳しくは以下の解説記事をご覧ください。よろしくお願いいたします。

●metalmickey's blog「GR DIGITAL カスタムブック を出版します!」

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クルマにしてもバイクにしても、カスタムの終わりは唐突にやってくる。頭のなかに描いた理想型に近づけるため、湯水のごとく金をつぎ込み、熱病のようにパーツを漁る。そして理想が具現化した瞬間、カスタム病はウソのように醒める。そう、カスタムは完成したら終わり。だからぼくのGR-Dカスタマイズも、あれで終わった。フォクトレンダーの28mm View Finder Mと、MS OPTICAL R&Dのスリットフード。これで熱は醒めた。あとはこいつを持ち出して撮るだけ。本当にそのつもりだった……。

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【中古アイテムは出会い】
ただ、ひとつだけ気になるアイテムがあった。ターレットファインダー、こいつをGR DIGITALにつけたらどんな姿になるだろう。市場によく出回っているものは、ロシア製のオフセットしたタイプ。でもぼくがうっすらと思い描いていたのは、ツァイスイコン製のオフセットしていないタイプだ。こいつはメッタにお目にかかれない。ヤフオクを検索しようがネットショップを巡回しようが、実際に店頭に出向いても巡り会えない。思えばこれまで、GR DIGITALのカスタムパーツはすべて新品購入だった。しかしツァイスのターレットファインダーはクラシックアイテムだ。中古品。新品購入できない。運がよければいつか出会える。縁がなければいつまでたっても入手できない。そういう類のもの。縁がないんだな、とあきらめていた。

銀座松屋の中古カメラ市に繰り出したときだ。忘れかけていたブツが目の前にあった。しかしその価格は4万円超……。ますます縁がないんだなとうなだれ、 レモン社に足を運ぶ。海外製クラシックレンズコーナーを冷やかし、国産昭和期のレンズを眺め、ライカの委託品コーナーへ。そこで見つけてしまった。ツァイスのターレットファインダー。しかも手持ちの金で買える値段。迷わない。中古アイテムは出会い。熱病のようなあの興奮がよみがえる。

【完全非実用カスタムパーツ】
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ツァイス製ターレットファインダーは、25/35/50/85/135mmのファインダーがひとつにまとまっている。ちなみにGR DIGITALは28mm。ワイコンをつけた状態だと21mm。よって、このファインダーはまったくもって実用的ではない。一応25mmにセットしておけば、21mmと28mmの中間になる。大雑把な構図は把握できるのだが、肝心の見え具合はというと、悲しくなるくらい小さな像だ。純正オプションのファインダーや28mm View Finder Mの方が断然使い勝手がいい。最近、当ブログを読んでアイテム購入に走る人がいるのだが、くれぐれも言っておきたい。こいつだけはマネしちゃいけない。なにせ高い上に非実用的。こんなもんを買うなんて、酔狂の為せるワザだ。

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とはいっても非実用的というのは、あくまでもGR DIGITALとの組み合わせでの話。ターレットファインダーとしては抜群に明るい視野だし、パララックス補正機能まで搭載している。背面にダイヤルがあり、1/1.5/2/3/∞という目盛りが刻まれている。被写体との距離にこの目盛りを合わせると、ファインダー本体が傾いてパララックスを補正してくれるのだ。ちなみに、ダイヤルを上側にまわすと無段階で調整可能。底部から棒が出っ張って本体を傾けるだけなのだが、古いカメラ機器はどうしてこうもギミック満載なんだろう。ここ最近、デジタルよりもメカニカルにやられっぱなしだ(笑)。

【GR DIGITAL 春のカスタムコレクション】
さて、実際に装着した姿はどうだろう。なにしろ実用性を無視して外観最優先で購入したアイテムだ。見栄えがよくなくてはお話にならない。早速、スリットフードと組み合わせてみた。

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う~ん、どうなんだろう。ビミョ~な姿だ。スリットフードの良さは繊細なところ。ターレットファインダーは持ち味は銃器を彷彿させるスパルタンな容姿。ミスマッチがあえて新鮮、といえなくもないが、どうもベターなカスタムとはいえないようだ。

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じゃあレンズフードにもっとインパクトのあるものをもってくればいいんだよな。というわけで、パンチングメタルフードと組み合わせてみた。スパルタンの二乗。抜群のルックスになる予定だったが、これもいまひとつだ。大柄なターレットファインダーに対してレンズフードの径が小さすぎる。こいつはいただけない。

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デカけりゃいいだろと開き直り、純正オプションの角形フードを引っ張り出してきた。どうにも不評な純正角形フードだが、意外や意外、ターレットファインダーとの相性はわるくない。ただやはり、なんていうか……ベストじゃない。ベターにも届かない。方向性はこっちの方だと思うのだが……。

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ちなみに、28mm View Finder Mとパンチングメタルフードは好相性だ。個人的にはスリットフードとの組み合わせが好みだが、これはこれでわるくない。このフードは径が小さいので、フォクトレンダーの28/35mm mini Finderなんかと組み合わせるとかっこいいかも。

そんなわけで、いったん終わりを告げたGR DIGITALカスタマイズだが、ターレットファインダーに似合うフードを探し、新たな旅に出かけます。ぼくはどこに行くんだろう。どこかに着けるのだろうか。続報はまたいずれ。

●過去のカスタム例はカテゴリー「★GR DIGITAL」を参照してください。

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March 02, 2007

HOLGA 中判カルチャーショック!

森谷修「銘機浪漫」を読んだ。ハッセルブラッドの熱い想いが綴られている。そんなに楽しいカメラならオレも……と思うのだが、ハッセルブラッドはそうそう買える値段じゃない。使う資格があるのかすらわからない。とはいえ、一度は中判カメラを使ってみたいなあと思い、HOLGA120CFNを手に入れた。

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【フィルム巻き上げから頓挫!?】
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はボディもプラスチックならレンズもプラスチック。全身全霊プラスチックのトイカメラだ。そのくせフィルムはブローニ判。カラーフラッシュまで搭載してなかなかどうして侮れない。しかし、そうはいっても手軽さが持ち味のトイカメラだ。特に気負うことなく中判フィルムを装着。いざ撮ろうとフィルムを巻き上げたとき、異変に気づく。

どこまでも巻き上がっちゃうんですが!?

これまで銀塩カメラといえば35ミリフィルムしか使ったことがない。当然この手のカメラは巻き上げレバーがあり、ひとコマずつフィルムを巻き上げてくれる。ところがこのHOLGAって奴は、そんな気の利いた機能はない。調べてみるとHOLGA固有の問題ではなく、中判フィルムとはそもそもがそういうものらしい。世の中のHOLGAユーザーのみなさんは、中判フィルム独自のお作法でつまずかなかったのだろうか。いや、きっと面食らったにちがいない。いまさらではあるが、HOLGAの(中判カメラの)フィルムのお作法をまとめてみたい。

【長さは自分で決める-それがルール】
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HOLGAはブローニ120フィルムを使用し、6×6判6×4.5判で撮影できる。12枚撮り用と16枚撮り用の2種類のフレームが付属。12枚用が6×6判フレーム、16枚撮り用が6×4.5判フレームとなる。ここでポイントとなるのが、ひとつの120フィルムで複数画角を選べるという点だ。35ミリフィルムは通常24ミリ×36ミリに固定されているが(一部にハーフサイズで撮れるカメラもある)、中判フィルムは6×4.5/6/7/9判といった複数の規格がある。HOLGAはそうした規格から6×4.5判と6×6判を選択できるのだ。

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ウンチクはさておき、フィルムを装填して巻き上げる。まあここまでは誰だってできる。適度に巻き上げると「START」なんて文字が見えてくるので、このあたりで裏ブタを閉じておく。いや、それが正しいのかわからないが、「このあたりで閉めんとマズイだろ!?」という気持ちになってくる。裏ブタには赤外線フィルタ付きの窓がある。今回は6×6判フレーム(12枚撮り)を装着しているので、矢印を12に合わせておく。そのままさらにフィルムを巻き上げる。グリグリと巻き上げる。途中、横線やら●やら○が見えてくるが、ひるんで巻き上げる手を止めてはいけない。窓に「」という数字が見えたらストップ。これでやっと撮影できる。シャッターをきったら今度は「」まで巻き、あとは以下同順というわけだ。

なるほど目視巻き上げか、とナットクしつつ、素朴なギモンがわく。6×4.5判のときはどうすんの? 裏ブタの窓を16にセットすればいいのはわかる。ただそのとき、枚数表示はどうなるのか。気になる。どうにも気になる。じゃあフィルムがもったいないけど、開けてみましょうか。

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ああなるほど、画角ごとに数字が打ってあんのね。のぞき窓の位置で横幅を使い分けるってことか。いやあ、勉強になる(笑)。ってことは、中判フィルムの画角とのぞき窓の位置は業界標準化されているわけだ。中判フィルムの標準化規格なんて、HOLGAを買わなければ一生知らずに終わっただろうな……。

【これぞメーカーエゴイズムの彼岸】
_mg_5982古くから写真をやっている人にとって、こんな話は語るまでもないことなのだろう。しかし、あえて中判フィルムを取り上げたのは、この仕組みがとても理にかなっているからだ。ブローニ判という1本のフィルムを、のぞき窓の位置で複数の画角に使い分ける。アナクロだが、合理的。先人の知恵とはまさにこのことだ。写真は画角で見え方が変わる。縦位置、横位置、そしてスクエアフォーマット。どの画角もそれぞれの魅力がある。フィルムというひとつの記録媒体を、複数の規格で共有。この発想がすばらしい。

翻って現在、規格は常に排他的だ。ユーザーを囲い込むため、独自規格が規格競争を巻き起こす。ビデオテープのVHS対Beta、記録型DVDの-R陣営と+R陣営、次世代ディスクのHD DVD対Blu-ray、圧縮オーディオのAAC対WMA、パソコン用OSのWindows対Mac OS。カメラはメーカーごとにマウントが異なり、デジタルカメラの記録素子はフルサイズとAPS-Cが拮抗する。こうした規格競争は、どんなユーザーベネフィッツがあるのだろう。メーカーエゴイズムに振り回され、映像を観る楽しみ、音楽を聴く楽しみ、そして写真を撮る楽しみが削がれていく。

寡占独占よりも、共有を目指してほしい。

●HOLGA120CFNの作例はこちらにあります。

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