GT-X900 お手軽フィルムスキャンの法則
「最近デジタルで撮ってませんね」仲良くしている編集者がチクリという。たしかにこの一ヶ月、ExaktaとSX-70でしか撮っていない。しかしことさらフィルムがいいと強調するつもりはないし、別段デジタルに飽きたわけでもない。楽してフィルムスキャンするコツがわかってきたので、銀塩とデジタルをボーダーレスに楽しめるようになっただけだ。
【ゴミ取りしないフィルムスキャンテク】
フィルムスキャンが面倒なのはゴミ取りのせいだ。無菌室でないかぎり、必ずチリやホコリが付着する。これは避けようがない。当然ゴミ取り機能をONにしてスキャンするわけだが、ダストリダクションをかけすぎると細部がひどくにじむ。画像全体としてもシャープネスが甘くなる。面倒な上に低画質。それならデジタルカメラでいいじゃないか。誰だってそう思う。いまさらフィルムに走ることはない。トイカメラに興味があってもデジタル化が面倒で踏み切れない人は少なくないはずだ。
そこで発想の転換。ゴミを取ろうするから画質が落ち、手間がかかる。ならばゴミ取りしなければいい。ウェブ素材やA4プリント程度なら、ゴミ取りに神経をすり減らすことはない。そんなお手軽フィルムスキャンテクを紹介しよう。
【物理的にゴミを取り除く】まずスキャナのガラス面をていねいにブロアで吹く。フィルムも吹く。できればフィルムを扱う際は写真用白手袋をはめる。ここが唯一手間をかけるポイント。ゴミをデジタル領域で取り除くのではなく、物理的に排除しておく。取り除くべきゴミがなければデジタル処理は俄然ラクになる。
スキャン時のダストリダクションは「中レベル」程度でいいだろう。くれぐれもここでダストリダクションをOFFにしないように。シャープネスをキープしたい気持ちはわかるが、ダストリダクションOFFだと微細なチリが無数にスキャンされてしまう。スキャン解像度の目安はデジタル一眼レフと同程度でいい。35ミリフィルムなら2400dpi、中判フィルムやポラロイドフィルムは800dpiぐらいで十分だ。これで画像解像度は800万画素機と同程度になる。ウェブ素材はもちろん、A4フチなし印刷だって精細だ。なお、画像形式はあえてJPEGにする。えっ、TIFFじゃないの!? いいんですJPEGで。たしかにJPEGは再保存のたびに劣化するが、要は再保存の回数を減らせば問題なし。1~2回の再保存なら見てわかるほどの劣化はない。もちろんここ一発の入魂画像はTIFFで保存しておこう。
【ゴミ取りしないでSILKYPIX3.0へ】
通常ならばこのままフォトレタッチソフトでゴミ取り作業に突入する。しかし、お手軽フィルムスキャンの場合はSILKYPIX Developer Studio 3.0の出番だ。SILKYPIX3.0はRAW Bridgeという機能があって、JPEG/TIFF画像をRAW化して現像処理できる(JPEG Photographyの場合はJPEGのみ対応)。一般的なレタッチソフトより劣化が少なく、しかも非破壊編集だ。オリジナル画像はデータ的にいじらないので、補正作業を何度でも試行錯誤できる。ピクセル等倍で見るとチリやホコリが気になるが、かまわず補正作業に取りかかろう。ひと通り作業を終えたら、OKカットのファイル名をメモしておく。
【数枚の写真をサクッとゴミ取り】
レタッチソフトを起動して、チョイスした写真を読み込む。仮に36枚撮りフィルムでもOKカットは数枚というのが現実。数枚の写真ならゴミ取り作業もさほど手間じゃない。しかし、念入りなゴミ取りはナンセンス。ピクセル等倍でのチェックなんて以ての外だ。拡大率50~70%で十分。要は出力サイズ(ウェブ素材ならリサイズ後の解像度、プリントなら印刷サイズ)で目立つゴミがなければOK。そういう割り切りが大切だ。しかし、ゴミ取り作業自体は100~300%に拡大すること。ここで表示倍率が低いままだと、ゴミ取り痕が目立ってしまう。見るのはざっくり、取るのはキッチリ。これが上手な手の抜き方だ。
ゴミ取り作業を終えたら再びSILKYPIX3.0に戻り、OKカットを現像する。オリジナルデータ上でゴミ取りしているので、きれいな状態で現像できるわけだ。結局JPEGを2度再保存することになるが、個人的には気になるほどの劣化ではない。スキャン→補正→ゴミ取り→現像。この順番で作業を進めるのがコツだ。
【手抜きスキャンでカメラの自由を】
フィルムをスキャンすると、ついすべてのスキャン画像をゴミ取りしたくなる。しかも高倍率表示でミクロン単位のチリまでも。しかしこれはあまりに神経質。ゴミ取り作業は必要なレベルに抑えるのがポイントだ。そしてもうひとつ、非破壊編集タイプの画像編集ソフトはぜひともそろえておきたい。オリジナル画像をいじらないので、ゴミ取り作業を補正の後回しにできるからだ。一般にゴミ取りは補正前の下ごしらえと考えがちだが、非破壊編集ソフトがあれば後処理として作業できる。必要最低限の枚数だけゴミ取りすればいい。SILKYPIX以外では、Adobe Photoshop LightroomがJPEG/TIFFの非破壊編集に対応。Lightroomはゴミ取り機能も搭載しているので、これ1本でスキャン後の全行程がまかなえる。
とまあ長々とフィルムスキャンについて書いてみたが、別にスキャナメーカーからお金をもらっているわけでも無類のスキャンマニアということでもない。カメラの自由を獲り戻したいだけだ。パソコンが日用品レベルに普及した今、写真もデジタルで管理したいのは当然のこと。フィルムで撮りっぱなしというわけにはいかない。しかし、「だからデジタルカメラ」という縛りがどうにも窮屈なのだ。古いカメラやレンズには、見た目がおもしろいもの、抜群に写りのいいもの、はたまたトイカメラみたいに手軽にアーティスティックに撮れるものなど実にバリエーションが豊富。そんな楽しさ満載のカメラやレンズが、一部の高級品をのぞけば普及価格帯コンデジと同じぐらいの値段で買える。フィルムメーカーが着々と生産中止アイテムを増やしている今だからこそ、駆け込みでフィルムカメラを楽しんでおきたい。特にデジタルからカメラに目覚めた人は、今後5年がラストチャンスと思った方がいい。
デジタル化とは効率化に他ならない。そして写真は詰まるところ、趣味の世界だ。あなたは効率的に写真が撮りたいのか? 趣味の写真だからこそ、デジタルもフィルムも両方欲張ってみてはどうだろう。
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