Horizon Perfekt パッケージングの美学
DVカメラはあこぎな商品だった。製品自体がわるいのではない。売り方がいけない。必須アイテムのバッテリーキットをオプション扱いにして、見せかけの本体価格を下げる。むろんバッテリーキットがないと使いモノにならない(ACアダプタで運動会を撮るんですか!?)。ユーザーはDVカメラ本体とバッテリーキットを同時に買い、釈然としない気持ちを抱えたまま家路に着く。ついこの間まで、そんな売り方がまかり通っていた。ロシア製のパノラマカメラ「Horizon Perfekt」は、その対極にある気持ちいい全部盛りだ。
【撮影シーンを想定したパッケージング】
必要最低限のものがそろっている――これはカスタムベースにうってつけだ。必要なものがすべてそろっている――一般ユーザーにとってこれは安心感につながるだろう。さらに上をいくパッケージングとして、フル装備という状態がある。しかし、こいつは実に微妙だ。過剰装備だと割高感が増すし、過剰な割に肝心なアイテムが抜けていれば不満もつのる。同梱アイテム数を競うと、こうしたフル装備の罠に陥りがちだ。
その点Horizon Perfektは、パノラマカメラという自らの特殊性を踏まえ、実際の撮影シーンを想定した機能性およびパッケージングになっている。まず、実用的な太めのストラップ、そしてボトムグリップが付属。このボトムグリップは手持ち撮影で欠かせないアイテムだ。というのも、Horizonは広角28mmレンズが120度旋回して撮影する。両サイドからカメラをホールドすると、指が写りこんでしまうのだ。そのため左手はこのボトムグリップでしっかりと固定し、シャッターボタンは右手で背面からカメラをつかむように押す。さらに旋回レンズという特殊形状のため、市販のフィルターは装着不可。その点を考慮して専用フィルター(UV、ND、モノクロG)が標準で付属する。ボトムグリップのエンドキャップが外れるので、普段はここにしまっておくとなくさずに済むだろう。
本体上部には水準器が埋め込んである。パノラマカメラは水平をしっかり出さないと上下に水平線が湾曲してしまう(作例参照)。そのため水準器を標準搭載しているのだ。しかもこいつがスグレモノで、ファインダー内部からも水準器の像が確認できる。アングルを探りながら同時に水平も出せるわけだ。ただし、しょせん(!?)はロシア製なので水準器の精度はそこそこと考えた方がいい。一応調整できる仕組みなので、手持ちの水準器と併用して、必要に応じて微調整するといったところか。
【考え抜かれたアクセサリー類】
Horizon Perfektにはしっかりとした作りのレザー風ケースが付属する。最近はデジタルカメラにも申し訳程度のケースが付属するが、それとは一線を画し、こいつでHorizonを持ち出してくれという意志がビンビン伝わってくる造りだ。まずストラップ部分に3つのフィルムホルダーがある。ケースの上蓋にはボトムグリップの収納バンド(!?)があり、必須アイテムをちゃんと携帯できる仕様になっているのだ。取扱説明書は欧米版とは別に、日中韓のアジア言語で書かれたものも付属する。撮影スタイルはむろん、フィルム装着、フィルターの着脱など、Horizonは特殊なことばかり。自国語で取り扱い方法をちゃんと確認できるのはありがたい。また、パノラマ写真集も付属しており、これを見ることで効果的なパノラマ撮影のヒントも湧いてくるだろう。
【カスタムとフルパッケージの共通項】
Horizon Perfektは使う身に立った発想でパッケージングされている。最近のパッケージプロダクツは「アレはできるけどコレはできません」「コレをやりたいならアレを選んでください」的なものばかり。あえて長所短所を組み合わせることで、ラインナップを水増ししている。むろんメーカーの言い分としては、「豊富なラインナップで多彩なニーズに対応」ということなのだろう。ただ問題なのは、その多彩なニーズを利用シーンからちゃんと割り出しているか、ということだ。あなたはそれを持って街に出たことがありますか!?
カスタム、改造とは、不足を補うものではない。あるプロダクツを手にしたとき、「コレをアアしたらおもしろいんじゃないか」「ここまでできるならアンナこともできるんじゃないの!?」と想像力を掻き立てられることがある。その瞬間、はじめてカスタムの世界が拓かれるのだ。GR DIGITALやポラロイドSX-70を手にとると、こうした興奮が湧き起こった。それとまったく同じ意味において、Horizon Perfektを買ったときも気持ちが高ぶった。使っている自分の姿が即座に想像でき、いまの自分を想像上の自分と早く近づけたいという想いが湧き起こる。こうした感情を掻き立てるプロダクツこそが、逸品の名に値するのだろう。
最後にHorizonの作例をひとつ。パノラマなんて広角で撮って上下を裁ち落とせばいいじゃない!? そう思っている人にぜひ見てほしい。同じ広角28mmのGR DIGITALと比較してみた。そこにはパノラマ風と別格の世界がある。広角とパノラマは別物だ。改めてそう実感した。
●そのほかの作例はこちらにあります。