Adobe Photoshop Lightroom Beta 4 日本語版
●Photoshop Lightroom 1.0のレビューを掲載しました。
「この間ブログにLightroomのこと書いてましたよね。今度Beta 4 日本語版の説明会があるんですけど、行きます?」知り合いの編集者からそんな電話がかかってきた。もちろん行きます行かせてよ。とまあそんなわけで、写真は門外漢にも関わらず、プロフェッショナルフォトグラファー向けソフトの説明会に参加してきた。Beta 4 日本語版の新機能を紹介しつつ、改めてLightroomの方向性や位置づけを考えてみたい。
Beta 4 日本語版ということで、当然ながらメニューや項目名は日本語表示になった。英語表記の方がかっこいい……なんてミーハーな気がしないでもないが、日本語メニューだと脳内変換不要で作業ができて気持ち的に楽だ。合わせてインターフェイスがモジュールごとに統一されている。左パネルがプリセット、右パネルは詳細設定。そして左上にナビゲータ(ミニプレビュー)を配置。これがライブラリー、現像、プリントといった各モジュールで統一され、効率よく作業が行える。また、読み込みや現像といった作業中は、左上(Adobe Lightroomのロゴがあるあたり)にプログレスバーを表示。インターフェイスはほぼこれで完成型だろう。
【マウスで直接グイッといじる】
現像モジュールの新機能から見ていこう。実際の現像で即戦力になりそうなのが、ヒストグラムとトーンカーブの直接編集だ。マウスで任意のポイントをつかみ、そのまま動かすと明るさやコントラストがリアルタイムで変化する。可動エリアがグレー表示され、調整内容を視覚的に把握できるのも特徴だ。
特にトーンカーブが使いやすい。一般的なトーンカーブはポイントをいくつも指定して複雑なカーブを作り上げていくが、Lightroomのトーンカーブはハイライト、ライト、ダーク、シャドウと4つのエリアに分かれ、明るい所と暗い所をダイレクトに調整できる。「ひとつめのポイントで全体を持ち上げて、暗部にもうひとつポイントを置いて黒を引き締め、白飛びの様子を見ながらさらにもうひとつ……」といった手間が省けるわけだ。また、SILKYPIX Developer Studio 3.0のトーンカーブとくらべ、効きがマイルドな点も好印象。たしかにポイントタイプのトーンカーブの方が明示的に調整できるが、個人的にこのトーンカーブはかなりフィーリングが合う。
ホワイトバランスはカラーピッカーによるニュートラルカラーの設定ができるようになった。任意の場所にカラーピッカーを持っていくと、その場所のカラーに応じてナビゲータのホワイトバランスがリアルタイムに変わる。色合いを即座に確認できて使いやすい。Beta 3の現像モジュールはすべてスライドバーまかせだったが、Beta 4は要所要所でマウスを効果的に使って編集できる。この方向性は歓迎すべき変化だ。
【RawShooterの人気機能-バイブランス搭載】
2006年6月27日、アドビシステムはPixmantec社を買収した。PixmantecはRAW現像ソフト「RawShooter」で名を馳せた会社。アドビシステムRAW現像分野に本格参入と大きく報道されたのは記憶に新しい。そのRawShooterで人気を博していた機能が、Lightroom Beta 4に加わることになった。それバイブランスだ。
ありていにいうと、バイブランスは肌色補正機能だ。肌色を気持ちよく持ち上げてくれる。本来ならばピチピチお姉ちゃんのセクシーショットでその効果を試したいところが、そんな気のきいたサンプルは手元にない。愚息の寝顔で我慢してください。左がバイブランスで補正したもの、右が彩度を持ち上げたものだ。バイブランスの方がより自然に肌色感が持ち上がっている。
便宜上、肌色補正と表現したが、もう少し正確にいうと赤系を中心に彩度を持ち上げている。つまり、人物ショット以外にも、赤系、暖色系の写真なら気持ちのいい効果が狙えそうだ。夕焼けの写真で試したところ、彩度アップ(画像右)にくらべてバイブランス(画像左)の方がナチュラルな効果が得られた。ちなみに英語版のBeta 4ではnatural toneと表現しているとか。ナットクです。
【サイドカーごと写真バインダで出力】
ライブラリーモジュールの新機能ではバインダに注目したい。これはサイドカーごと写真を書き出す機能だ。この時点で多くの人が「ナニさサイドカーって?」と首をひねっただろう。LightroomはオリジナルRAWデータにサイドカーと名付けたメタデータを追加する仕様だ。このサイドカーには、現像作業のパラメータ、編集履歴(ヒストリー)、トリミング情報などが含まれる。オリジナルRAWデータに情報を追加するわけだが、これらの編集情報はテキスト形式で保存され、サイズは数KBに収まるとのこと。画像ファイルの容量アップは気にならないレベルだ。
写真バインダで出力すると、編集情報付きRAWデータをやり取りできる。将来的にLightroomがRAW現像ソフトのディフェクトスタンダードになった際、プロフェッショナルな現場ではかなり重宝するのではないか。個人ユーザーの場合も、撮影旅行中はノートパソコンで編集、帰宅後は書斎のデスクトップ機でじっくりと……といった場面で役立ちそうだ。ただ現実問題として、Lightroomを個人で2ライセンスも購入できる人は限られているだろうから、やはりプロユース向けのデータ受け渡し手段ととらえるべきだろう。
ライブラリーモジュールに関連して、もうひとつ新機能を紹介しておこう。ライブラリーの動作を軽くするため、Beta 4では埋め込みプレビューと標準プレビューの作成が選択できるようになった。早速埋め込みプレビューで使ってみたのだが、それでも重いものは重い……。百枚単位の写真はハンドリングできるものの、千枚単位は非現実的な重さだ。プロジェクト単位はOK。でもフォトマネージメントはちょっと……といったところか。いっそLightroomと連動する高速ビューワをリリースしてくれればいいのに、なんて思ったりもする。
【ちょっと便利な他ソフト連携機能】
デジタルカメラ分野のプチブームといえばGPS。ソニーがデジタルカメラ向けに売り出したGPSレシーバ「GPS-CS1K」は、いまだ品薄状態がつづいている。Google Earth上にGPS情報付き写真を表示するといった応用的な使い方も一部では流行っているようだ。写真とGPSは今後急速に密接になっていくだろう。Lightroomもそうした動向をとらえ、ExifデータのGPS観測位置をクリックすると該当箇所をGoogle Mapsで表示してくれる。GPS付きデジタルカメラはリコーぐらいしか発売していないが、GPSケータイの写真でとりあえずはこの機能を使ってみるといいだろう。撮った場所をあとから視覚的に確認するというアプローチは、これまでにない体験だ。
スライドショーモジュールではiTunesとの連携が可能だ。音楽ファイルのあるフォルダを指定すると、BGMを流しながらスライドショーが再生できる。早速試してみたのだが、筆者の環境ではうまく再生できなかった。また、操作性という点ではフォルダを直接指定する必要があり、ちょっと面倒な印象を受けた。iTunesのライブラリー情報を取得してプルダウンメニューなどから選べると便利なのだが。プロジェクタを使って展示会で発表、なんて妄想ふくらむ機能だけに、使い勝手の洗練を期待したい。
【すべてをこの一本で――がコンセプト】
Lightroomの特徴は、写真整理から現像、そして見せるという最終的な落とし込みまで網羅している点だ。その見せる機能に新しくWebモジュールが加わった。サムネイルと拡大表示というおなじみのHTMLページ、さらにはFlashを使った動的なスライドショーページがほぼ自動で作れる。もちろんFTPサーバーを設定しておけばそのままアップロードも可能だ。現実的な話をしてしまえば、かっこいい写真サイトを作るならデジタルステージ「ID for WeblLiFE」にかなうものはないし、ウェブ上の写真公開はブログやフォトログに移行している。それゆえにどの程度のニーズがあるかは疑問だが、ホームページ作成ソフトの使い方をおぼえなくてもウェブ上で写真公開できるのはたしかにメリットだ。
なお、LightroomはRAWデータだけでなく、TIFF、JPEG、PSDファイルの現像も可能だ。しかし正確には、レタッチ処理であって現像ではない。レタッチ処理を現像パラメータに落とし込んでの編集にすぎないのだ。この点はSLIKYPIX 3.0のSILKYPIX RAW Bridgeと根本的に異なる。SILKYPIX RAW BridgeはJPEG/TIFFのイメージを16ビット拡張してRAW化。その上で現像処理を行う。たしかにJPEGを扱えるという点では同じだが、仕上がりは別物と考えた方がいいだろう。
LightroomがApertureの対抗馬として開発されたのはよく知られるているところだ。ワールドワイドで展開し、Win/Mac両対応のLightroomはたしかにもっともディフェクトスタンダードに近いRAW現像ソフトといえる。ただし日本国内に関してはSILKYPIX Developer Studio 3.0という優秀なRAW現像ソフトがあり、プロフォトグラファーからアマチュアまで、多くのユーザーから支持を集めている。整然としたインターフェイス、スライドバー主体の統一感のある操作性、そして「整理、現像、披露」というオールインワン仕様。たしかにLightroomの方が洗練されているが、こと現像の自由度という点でSILKYPIXの方が先を行く。SILKYPIXとLightroom、どちらが日本のディフェクトスタンダードに君臨するのだろう。一太郎 vs ワードの構図、それを思い浮かべてしまったのは筆者だけだろうか。