RAW現像ソフト対決
ウィンドウズなら「SILKYPIX Developer Studio2.0」、マックなら「Aperture」。RAW現像ソフトの定番といえばそんなところだろう。しかし、アドビが「Lightroom」のパブリックベータ3を発表したことにより、そんな図式が揺らぎはじめた。RAW現像ソフトは単にRAWデータをJPEG変換するソフトではない。写真を思い通りに仕上げるツールだ。当然ながら、どのソフトを使うかで仕上がりが異なってくる。そこで今回は、「SILKYPIX Developer Studio2.0」「Lightroom Public Beta3」、そしてキヤノン製デジタルカメラ専用RAW現像ソフト「Digital Photo Professional 2.1」の3本で、RAW現像ソフトの特徴と傾向を考察してみたい。
【読み込むだけで仕上がりがちがう!】
まず大前提としたいのは、RAW現像ソフトは用途に応じて使い分けるべき、という考え方だ。その根拠となるが上の写真である。左から「DPP2.1」「SILKYPIX2.0」、そして「Lightroom」で現像したものだ。各ソフトにRAWデータを読み込み、無加工のまま、いわゆるデフォルト設定でJPEG出力している。サムネイルの状態でもそのちがいは一目瞭然。「DPP2.1」は素の状態に近く、「SILKYPIX2.0」はかなり鮮やかだ。特に花の青は目を見張るものがある。「Lightroom」は両者の中間といった絵づくりで、露出を適正レベルに補正した印象だ。このように、RAW現像ソフトは読み込んだだけで絵にちがいがあらわれる。つまり、スタート時点で画像コンディションが異なるわけだ。もちろんソフトごとの機能性や操作性も重要だが、スタート時点の画像コンディションを理解しておくと、完成画像の雰囲気に合わせてソフトを使い分けられる。最短ステップで目的を達成できるわけだ。以下、各ソフトごとに特徴と傾向を見ていこう。
【素材重視ならDPP2.1】
「DPP2.1」はRAW画像調整とRGB画像調整をタブで切り替えられる。RAW画像調整(写真左)はEOS DIGITAL本体で変更可能な項目と同じものが並び、要はカメラ設定を変えるときと同じフィーリングで画像補整が可能。これは利用者をEOS DIGITALユーザーに特定できる強みだ。一方、RGB画像調整(写真中央)はフォトレタッチソフトでおなじみのトーンカーブや明るさ、コントラスト、彩度といった概念で画像補整が行える。他ソフトと比較すると調整の自由度は限られるが、クイックチェックツール(写真右)を搭載している点が特筆に値するだろう。スペースキーを押すと次々に画像を表示。テンキーの1~3でラベルをつけることができる。そして最大のポイントは、動作がきわめて軽いことだ。本ソフトは初期状態でプレビュー時のノイズリダクションがオフになっているため、とにかく動きが軽快だ。これは他ソフトにない利点である。
「DPP2.1」は撮影画像にざっと目を通し、素材の持ち味を重視した現像に適している。明るさとコントラスト、そしてホワイトバランスについては他ソフトと同程度に調整できるのだが、カラーコントロールは大雑把と言わざるを得ない。特定カラーを持ち上げたいというような補正は正直不得意だ。こうした特徴を踏まえて補正してみたのが左の写真である。露出を上げ、ピクチャースタイルで「忠実設定」を選んでいる。素材感を活かしてやわらかいタッチに仕上げたいとき、「DPP2.1」は実に使いやすい。
【SILKYPIXは本気で作り込める!】
「SILKYPIX2.0」はおおよそ思いつく操作は何でもできる。多機能性という点ではダントツだ。カラーコントロール、ノイズリダクション、ホワイトバランスにコントラスト、あらゆる項目について詳細設定が可能。特にノイズリダクションの項目は多岐にわたり(写真左)、シャープネスとのバランスを取りながら微細な調整が行える。コントラストでは黒付きの量を調整でき、明暗を極端に強めたダイナミックな仕上げも可能だ。では上級者向けの操作が難しいソフトなのかというと、そういうわけではない。写真右のように各項目に豊富なプリセットが用意されていて、上から順にプリセットを選んでいくだけで色彩豊かな写真に仕上げられる。このように多機能かつ操作性にすぐれたソフトだが、処理に関してはかなり重い。このソフトを使いたいためにメインメモリを512MBから1GBに増設し、どうにかまともに動くようになった。こうしたことを加味すると、本気でRAW現像に挑みたい人向けのソフトといえるだろう。
「SILKYPIX2.0」は本来相反する方向性を同時に満たしている。プロユーザーのニーズに応える詳細設定、そして初級中級者が手軽にRAW現像を楽しめる豊富なプリセット。そしてどちらを使った場合も、写真の仕上がりは非常の色濃くビビッドである。左の写真はこうした特徴を活かして補正したものだ。トーンカーブで極端なS字を描き、その上でグリーンとレッドを中心に色の明度を落としてみた。補正の域を抜けた明らかな加工だが、本ソフトを使うとここまで作り込める。「DPP2.1」と好対照なRAW現像ソフトだ。
【色の魔術師Lightroom】
多くのRAW現像ソフトは、そのカテゴリ名通りRAW現像に特化したものがほとんどだ。そうしたなか、「Lightroom」はワークフローを意識したソリューションになっている。写真の選出と補正(加工)にとどまらず、見せるという領域もフォローしている点が特徴だ。写真左を見てもらうとわかるように、画面右上にLibrary、Develop、Slideshow、Printといった具合に一連の作業項目が並び、これにそって作業を進めていく。プロユーザーにとって完成型とは紙に印刷した時点。そのことを踏まえた作りになっている。機能面では柔軟なカラーコントロール機能が突出している。写真右のように色相、彩度、輝度についてカラー系統ごとにスライドバーが用意されており、色彩の微調整はもちろん、特定色を残してモノクロ化といった荒芸も難なくこなす。色彩を思い通りにコントロールしたいなら、このソフトにかなうものはない。なお、「Lightroom」については別エントリーで詳細レビューしているので、そちらも参照してほしい。
【使い分け、その一例として】
最後に個人的な使い分けのスタイルを紹介しておこう。まず撮影したRAWデータは「DPP2.1」に読み込み、クイックチェックツールでOKカットを選ぶ。この際、カラーバランスや構図は二の次。ジャスピンの写真を選ぶための作業だ。しょせんカメラはシロートなので、こうした作業が必要になってしまう(汗)。その後、RAW画像調整でコンディションを整え、そのまま使えそうな写真はJPEGに現像する。補正レベルで完了できそうなカットは「DPP2.0」で作業を完結するのが通常のスタイルだ。ただし、OKカットでありながら、極端に色彩を強めたり大胆にトリミングしたい場合、つまり加工に着手するときは「SILKYPIX2.0」を使用。それでも思うような結果が得られない場合は「Lightroom」の出番となる。「SILKYPIX2.0」と「Lightroom」の使い分けはやや曖昧だが、ビビッドに仕上げたいときは「SILKYPIX2.0」、アートに仕上げたい場合は「Lightroom」を起動することが多い。
RAW現像ソフトは非破壊編集ソフトである。元のRAWデータに一切の変更を加えない。つまり、ソフトを使い分けても元データは常にオリジナルの状態をキープしている。同じ画像を複数のソフトで編集して、そのちがいを見比べてみるのもおもしろいだろう。
※人気blogランキングに参加しています。記事が参考になったら是非クリックを。
■人気blogランキング投票■
Comments