東独の怪獣FLEKTOGONの実力
いま思えば、ひたすらAF畑を歩いてきた。はじめて買ったデジタルカメラはエプソン「CP-100」。30万画素時代の弁当箱みたいに大きなカメラだった。その次はソニーの「FDマビカ」だったと思う。CCDは80万画素。記録媒体はフロッピーディスクで、旅先でたくさん撮れるとふんで購入した。その後はキヤノン「IXY DIGITAL 200」、パナソニック「LUMIX DMC-F1」を経て、ようやくデジタル一眼レフ「EOS 20D」に至る。銀塩時代に至っては、ディスカウントストアで買ったコンパクト機かレンズ付きフィルム。AF云々どころか、基本的にシャッター押すだけのカメラばかりを渡り歩いてきた。こうした軟弱なカメラ歴ゆえに、先日のエントリーでロシアレンズINDUSTAR-61L/Z-MC 50mm/f2.8を購入したとお伝えしたが、これはもうかなりの大冒険。フォーカスをマニュアルで合わせるなんて自分にできるのだろうか、と戦々恐々とした思いでのチャレンジだった。しかし、いざ使ってみると何てコトはない。最近ではフォーカスエリアを選択するよりも、フォーカスリングをまわした方が手っ取り早いと感じるほどだ。手持ちのキヤノン製AFレンズはすべてUSM対応なのだが、このところ積極的にAFモードのままフォーカスリングをまわしてピントの微調整を楽しんでいる。AF/MFの切り替え不要なUSMはエライ!なんていまさら痛感する今日この頃だ。すっかり前置きが長くなった。2本目のMFレンズ、Carl Zeiss Jena DDR MC FLEKTOGON 35mm/f2.4を買ってしまった……。
MC FLEKTOGON 35mm/f2.4は旧東ドイツのCarl Zeiss Jena製だ。どうやら東独レンズの定番らしく、2~3万円とちょいと値がはる。今回はカメラのマツバラ光機にて税込み2.5万で購入。レンズにキズや曇りはなく、まずまずのコンディションだ。ただ、付属していた後玉のキャップがホコリまみれでこれには閉口。後玉はレンズの命。ここにホコリまみれのキャップを付けてくるという神経は良心に欠ける。梱包前にホコリをさっと拭き取るぐらいの手間はかけてもいいはずだ。なお、梱包自体はしっかりしていてレンズへの愛情は感じられた。それゆえにホコリ付きキャップは残念だ。
MC FLEKTOGON 35mm/f2.4の構造はいたってオーソドックスだ。上からフォーカスリング、被写界深度目盛、絞りリングとなっている。絞りはf2.4~22で、カチカチと音を立てて段階的にまわる。INDUSTAR-61L/Z-MC 50mm/f2.8は無段階絞りだったが、MC FLEKTOGON 35mm/f2.4は所定の絞り値で止る仕組みだ。このレンズは描写力もさることながら、最短20センチまで寄れるのが大きな特徴だ。中央の写真を見てほしい。赤いラインを0.2メートルの目盛が切っているのがわかるだろう。EOS 20Dに装着した場合、レンズの先5~6センチまで寄れる。つまり、マクロもイケる準標準レンズというわけだ。なお、側面にはオート絞りとマニュアル絞りの切り替えスイッチがある(写真右、参照)。マウントアダプタ経由で装着する場合はここをマニュアル絞り(M)に設定して撮影するのだが、どのみちオート絞りは無効化されているのでどちらでも撮れてしまう。カメラ側のセッティングはマニュアルモードと絞り優先AEモードが使える。このあたりの使い勝手はINDUSTAR-61L/Z-MC 50mm/f2.8と同様だ。
絞りの状態は上の写真のようになる。左から開放f2.8、f3.5、f5.6、f22だ。INDUSTAR-61L/Z-MC 50mm/f2.8のヘキサグラムを見た後なので、この絞りの型はとてもまっとうに思える(笑)。今回手に入れた個体の絞りリングは、f2.8からf11まで固く、f11からf22はスカスカした感触だった。ちなみにフォーカスリングは全域にわたってしっとりと指に吸い付くようなまわり方。キヤノンのAFレンズと比較するとかなり硬めだ。
EOS 20Dに装着するとこんな具合になる。オレンジ色の目盛がクラシックな雰囲気を醸し、ボディとレンズのサイズバランスも昭和期のカメラを彷彿させる。EOS 20Dは一眼レフとしては小ぶりなので、お散歩仕様にちょうどいい大きさだ。ちなみにEOS 20Dに装着した際は35mm換算で56mmとなる。画角という点でもスナップ向きだ。
最後に画質について。クラシックレンズとはいえ、単焦点レンズなのでシャープネスはきわめて高い。色ノリもしっかりしていて、RAWで撮影しても最小限の補正ですみそうだ。参考までにRAWで撮影したサンプルを掲載しておく。現像はDigital Photo Professional 2を使用。ピクチャースタイルは[スタンダード]を選び、その他は項目は一切いじっていない。本来EOS 20Dで[スタンダード]を選んだ場合はコントラストと[色の濃さ]をプラス1するのだが、今回はあえて撮影時のままにしている。それでもここまで写るというMC FLEKTOGON 35mm/f2.4の実力をご堪能あれ。
タングステン灯下での撮影のため暖色寄りだが、それを差し引いても申し分ない色ノリだ。絞りはf5.6、シャッター速度は1/10。合焦している部分はキリリと引き締まり、ボケ味はあくまでもナチュラル。
絞り開放、最短距離にて撮影。アンティーク処理を施したシルバーの質感がよく再現されている。無補正でもこれだけのコントラスト。一段持ち上げるだけで俄然立体感が高まる。
その他の作例はこちらに掲載してあります。
●追記
このたびマウントアダプタとオールドレンズの総合入門書「オールドレンズ パラダイス」を執筆しました。基本操作をステップバイステップで解説し、Flektogonに代表されるイエナ製レンズ、Y/CマウントやライカRマウント、電子マウントアダプタなどを取り上げています。以下の書籍解説記事も合わせてご覧ください。
追補
MC FLEKTOGON 35mm/f2.4の画質研究記事を掲載しました。あわせてご覧ください。
Comments
はじめまして、M42マウントレンズでいろいろネットで調べてみると、このFlektogon 35mm F2.4に興味を持ちました。
ブログなどで、作例をみると、こってりした色彩で、料理などをおいしく見せるのにいいようですね。解像感も優秀みたいですね。
うちのPENTAX K100Dにつけてみたいです。
Posted by: みつる | March 02, 2007 07:28 PM
> みつるさん
Flektogon 35/2.4はお気に入りのひとつです。
引いてよし寄ってよし。スナップに使いやすいです。
描写は繊細で発色はコッテリ。おもしろいレンズです。
Posted by: metalmickey | March 02, 2007 08:34 PM
某ネットオークションで、このFlektogon f2.4狙っていたのですが、競り負けて落札ならずでした。3万円オーバーで、まだ上がりそうだったので、断念しました(笑)
また出るのを狙ってみます。
Posted by: みつる | March 03, 2007 11:44 PM
Flektogon 35mm/f2.4はこのところ高騰気味のようですね。
自分が買ったときもネット通販しているショップを
いろいろとチェックしてやっと安い個体を見つけました。
ただ、安ければそのぶん程度が下がってくるので、
相場相応の価格で購入した方がグレードのいい
レンズと巡り会える可能性が高いです。
最近はレンズ探しも楽しみのうちと
割り切るようになりました(笑)。
Posted by: metalmickey | March 04, 2007 12:33 AM
東独製のCarl Zeiss Jena Flectogon 35mm/F2.4 の描写は多くの方々が記述されているので割愛するが、ペンタックスのM42レンズと比べ、プラスチック製の絞りリング、がさついたヘリコイドの回転等、チープな感じがあるのは残念。ペンタックスとはヘリコイドの回転方向が逆なのも戸惑うところか。また、個体により、絞りの基準線(赤線)がカメラの中央に来ないものがあったり、フィルター径が49mmであるにもかかわらず、ピッチの差の為か日本製のフィルターがねじ込めないものがある。このへんが、西独製のZeiss(ヤシコン、コシナ)やライカとの大きな違いとも言える。
Posted by: Masayoshi Ohtani | October 08, 2010 05:27 PM
Masayoshi Ohtaniさん
貴重なご意見いただき、ありがとうございます。大変勉強になります。今後ともよろしくお願いいたします。
Posted by: metalmickey | October 08, 2010 05:34 PM