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July 2006

July 22, 2006

ハイビジョン狂想曲

ソニーが新しいハイビジョンビデオカメラ「HDR-UX1」と「HDR-SR1」を発表した。「HDR-UX1」は記録媒体に8センチDVDを、「HDR-SR1」は30GB HDDを採用している。そしてどちらもAVCHDに対応したフルHD仕様のビデオカメラだ。ソニーはすでにHDV規格に対応した「HDR-HC3」を発売しており、これでコンシューマ向けのフルHDビデオカメラが3機種になった。DVテープ、DVD、HDDと、すべての記録媒体がそろったわけだ。そこで気になるのは、いったいどれを選べばいいのか、ということ。フルHDビデオカメラの棲み分けを考えつつ、ハイビジョンの動向を考察してみたい。

【AVCHDという新たなハイビジョン】
「HDR-UX1」「HDR-SR1」、そして「HDR-HC3」。これらのちがいはフルHD規格にある。前者のふたつはAVCHDをサポートし、後者はHDV規格に対応する。では、AVCHDとHDVのちがいは何か? ともに1080/60iをサポートしている点は共通だが、映像フォーマットが異なる。AVCHDは最近流行りのH.264/MPEG-4 AVCを採用。HDVはMPEG-2を採用している。H.264/MPEG-4 AVCはMPEG-2の約2倍程度の高圧縮率を誇り、よりコンパクトにハイビジョン映像を記録できるのが特徴だ。

AVCHDか、HDVか。それが問題だ。

選択の切り口はいくつかある。まずは記録媒体の扱いやすさ。DVテープ、8センチDVD、そしてHDD。もっとも取り扱いが便利なのは8センチDVDだ。収納の場所をとらず、メディアにランダムアクセスできるので巻き戻し/早送りという概念がない。では画質という切り口はどうだろう。AVCHD、HDVともに1080/60iに対応しているため、大画面テレビに映し出してしまうと一般ユーザーにはそのちがいはほとんどわからない。この点はほぼ互角と考えて良さそうだ。再生環境という観点はどうか。一見すると8センチDVDを採用した「HDR-UX1」が有利に思えるが、AVCHDで記録したDVDは既存のDVDプレイヤー/レコーダでは再生できない。本年11月11日に発売予定の「PLAYSTATION 3」では再生可能との話だが、PS3をプレイヤーとして購入するのは高額だけに勇気がいる。基本的にどの製品もビデオカメラ自身をプレイヤーとして利用せざるを得ない状況だ。

唯一、決定的なちがいを見出せる切り口がある。それはPC連携だ。

【PC連携で選ぶと不幸になる!?】
miniDVテープを使った「HDR-HC3」は、パソコンに映像を取り込む際キャプチャ作業が欠かせない。テープのロード速度以上のスピードで映像を取り込むことはできないのだ。方や「HDR-UX1」と「HDR-SR1」はDVDならびにHDDからパソコンに対してデータ転送すればよい。キャプチャとデータ転送。このちがいは大きい。

ただし、その後の処理を考えたとたん、PC連携という切り口での製品選びは一気に色褪せて見える。そう、パソコン上のハイビジョン映像をどうするか、という問題だ。SD画質にダウンコンバートして従来型DVDに保存、というのは論外だろう。当然、次世代DVD――現時点ではBlu-ray Disk ドライブ――を使ってHD画質のまま保存したいと考えるはずだ。BDにはBD-AVBD-MVという映像向けの規格がある。BD-AVは従来型DVDのVR形式に相当し、ビデオテープ感覚で記録できる反面、メニューは作成できない。一方、BD-MVはDVDビデオのようにメニュー作成が可能。市販BD-ROMタイトルなどで採用されている。ただし、現在店頭に並ぶBDドライブのパッケージではBD-MVは作成不可。BD-AVに関しても付属ソフトのアップグレード待ちといったケースが見受けられる。取り込んだハイビジョン映像をファイルとしてBDに保存することは可能だが、映像タイトルとして利用することは難しい状況なのだ。

なお、「HDR-UX1」と「HDR-SR1」は「Picture Motion Browser」というソフトウェアが付属し、このソフトを使うとパソコンでAVCHD映像の編集/再生が可能だ。また従来型12センチDVDにHD画質のまま記録して再生することもできる。ただこれも、将来にわたって記録を残すという観点からすると、どこまで永続的な手段なのか疑問を禁じ得ない。

【誕生の瞬間を成人した我が子に見せられるのか?】
次世代DVDというハイビジョン映像の受け皿待ち。すべてはこれに尽きる。次世代DVDの普及にともなって、たしかにこうした諸問題は解消していくだろう。しかし受け皿が整っていないまま、ソニーはビデオカメラのハイビジョン化をぐいぐいと進めていく。それがわるいとはいわない。ユーザーはハイビジョンビデオカメラを使っていまこの瞬間に、かけがえのない思い出を録りつづけている。それを数十年後に観るために。ソニーだけでなくハイビジョンに関わるすべてのメーカーは、そのことを気にとめてくれているだろうか。市場独占、ラインナップの充実ばかりに気を取られていないだろうか。現状のあまりにチグハグなハイビジョン分野を観ていると、つい不安にかられてしまう。

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July 21, 2006

Adobe Lightroom Beta 3

Photoshop Lightroom 1.0のレビューを掲載しました。

AdobeのRAW現像ソフト「Lightroom Public Beta 3」のウィンドウズ版が公開になった。

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以前からマッキントッシュ用のベータ版は公開されていたが、ウィンドウズ版はベータ3がお初。かねてから使ってみたいと思っていたソフトなので、早速レビューしてみよう。なお、本ソフトはあくまでもベータ版だ。正式版と仕様が異なる可能性がある。その点はご了承のほどを。

【Library-ファイル管理画面】
「Lightroom」は作業内容に応じて画面を切り替えていく。Library、Develop、Slideshow、Printといった作業に分かれており、画面右上のメニューをクリックしていくとファイルの読み込みから印刷に至るまで、効率よく作業が行える。まずはLibraryから見ていこう。

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左がフォルダ単位で画像を読み込んだところだ。読み込んだデータは「shoots」に登録されていく。フォルダ名をクリックするとメインペインにサムネイルを表示。「Digital Photo Professional 2」のようにエクスプローラ風のツリーでファイルを選ぶのではなく、いちいちフォルダを登録しなくてはならない。その一方で、キーワードによるフィルタリング、特定の画像を登録しておくコレクションといった機能があり、ファイル管理専用画面を設けるだけあって機能的には格上だ。また、特定フォルダをウォッチして画像を自動登録する機能も搭載。ただしこの機能を使うには、使用開始時にそのフォルダが空になっている必要がある。このソフトを使う人ならすでに大量のRAWデータを所有しているはず。改めてフォルダを新規作成し、そこにすべてのRAWデータをコピーするのはちと面倒か。

右の画面はサムネイルをダブルクリックしたところだ。プレビュー画面をクリックするとすばやくズーミングして、ピクセル等倍で画像をチェックできる。この動作はなかなか俊敏だ。加えて「Quick Develop」では、露出、ホワイトバランス、トリミングといった簡易編集が可能。補正用のプリセットも用意され、画像の調子を整える程度ならこの画面で作業を完結できる。

【Develop-編集画面】
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「Develop」はいわゆる編集画面だ。左ペインから解説すると、ここではプリセットが選択できる。このプリセットはかなりの個性派で、たとえば「Direct Positive」を選ぶと一気に色ノリとコントラストがよくなる。左の画面と本記事冒頭の画面をくらべてみてほしい。元画像もそこそこの色ノリだが、それがさらに一段色濃くなっているのがわかるだろう。右の画面は「Antique Grayscale」を選んだものだ。いわゆるセピア色とも異なり、哀愁感漂いまくりの色調がおもしろい。なお、「History」をクリックすると作業履歴が表示され、任意に作業までアンドゥーできる。

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右ペインは本ソフトの真骨頂、これでもかと詳細にわたってコントロールできる編集機能が並んでいる。編集機能の多才さでは「SILKYPIX2.0」が有名だが、それに肉薄する詳細さだ。なかでも圧巻なのが「HSL Color Tuning」。Hue(色調)、Saturation(彩度)、Luminance(輝度)について、それぞれ6系統のカラー分割で自在にコントロールできるのだ。左画面はこの「HSL Color Tuning」で花の部分だけ色を抜いたもの。本来なら輪郭を選択してモノクロ化する作業だが、「Lightroom」ならスライドバーを調整するだけでこんな荒ワザができてしまう。いわば色彩の魔術師。プロ向けフォトレタッチソフト「Photoshop」を開発するソフトメーカーだけのことはある。

RAW現像ソフトらしさを感じさせるのは「Lens Corrections」だ。一般にレンズ補正と呼ばれる機能で、「Reduce Fringe」では色収差の補正が可能。「Lens Vignetting」では周辺部の光量落ちを補正できる。さてこの「Lens Vignetting」だが、使いようによってはレトロな演出としても利用できる。右画面を見てほしい。光量落ちのない写真の周辺部をあえて暗くしみた。クラシックカメラで撮ったような味わいが簡単に演出できるわけだ。前述の「Antique Grayscale」と組み合わせれば、最新レンズで撮った写真を手軽にレトロテイストに仕上げられるだろう。

【Slideshow & Print-見せるための機能】
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RAW現像ソフトとはその名の通り、RAWデータを現像することに特化している。そうしたなか、スライドショーと印刷機能を独立した項目として設けている点は特筆に値するだろう。スライドショー機能は見せ方を事細かに設定でき、さらにPDF形式で出力することも可能。印刷機能では、撮影日、露出、使用機材、タイトルといった情報を合わせてプリントすることができる。L版フチなし印刷、といった項目こそないが、それは「Lightroom」がコンシューマよりもプロシューマ(フォトグラファー)を意識したソフトだからだろう。ともあれ、現像後の活用部分までおさえたRAW現像ソフトはけっして多くない。こうした見せるための機能は貴重だ。

【インターフェイスと重さ】
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ここまで画面ダンプを掲載しながら解説してきたが、「なんかこう、プレビュー小さいんだけど」と思った人も少なくないだろう。実はライトアウトという機能があり、上下左右のペインはすべて隠すことができる。左画面は編集機能をすべて隠したところだ。これならデスクトップに大きく写真を表示できる。そしてマウスポインタを上下左右に持っていくと、編集機能のパレットがスッとあらわれる仕組みだ(右画面参照)。

RAW現像ソフトはいまや一二を争うほどのヘビーソフト。処理の重さはどうだろう。今回、ペンティアム4 2.8GHz、メモリ1GBを搭載したマシンで試用してみたのだが、それでもかなり重たい。サムネイルをスクロールするだけで引っかかり、色調のスライドバーをちょっと動かすだけで「Working……」とメッセージが表示される始末。メモリを1GBに増設して「SILKYPIX2.0」はかなり快適に動くようになったのだが、「Lightroom」はさらにマシンリソースを必要とするようだ。その反面、現像処理はバッググランド処理のおかげで快適だ。「SILKYPIX2.0」や「Digital Photo Professional 2」はプログレスバーが出てゆるゆると処理するが、「Lightroom」はエクスポートの実行=即完了。すぐに次の作業に取りかかれる。むろんバッググランドで処理しているだけなので、システムにそれ相応の負荷がかかる。とはいえ現像待ちで作業を中断せずにすむのは利点だ。なお、バックグラウンドで現像中にソフトを終了してしまうと、当然ながら現像処理が頓挫してしまう。この点は注意が必要だ。

【他ソフトとの比較-どう使い分ける!?】
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日頃、「SILKYPIX2.0」と「Digital Photo Professional 2」を使っている。撮ってきた写真は一度「DPP2」に読み込み、クイックチェックツールでざっと見渡す。めぼしい写真にチェックをつけ、そのまま編集作業に突入。露出やホワイトバランス、色調などを整えていく。「DPP2」は通常時のプレビューでノイズリダクションが無効化してあるので(有効にすることも可能)動作が軽い。写真の調子をざっくり整えたいときに便利なソフトだ。ただし、かなり派手に編集したつもりでも全体のトーンは控えめ。写真そのものの良さを引き出したいときに使うことにしている。一方、絵を作り込みたいときは「SILKYPIX2.0」を使う。このソフトは現像に関することなら何でもできる高性能ツール。写真を素材と割り切り、まったく別物に仕上げたいときに重宝する。自分のなかでは、「補正ならDPP2、加工はSILKYPIX」と使い分けている。

では、「Lightroom」の位置づけはどこか?

先にあげた画面は、「Direct Positive」を選んだ後に「Tone Curve-Lightroom Default」をクリックしたものだ。わずか2クリックでここまで鮮やかに持ち上げることができる。プリセットの素性の良さを感じさせる好例だ。さすがはデジタルイメージソフトの雄、アドビが放つRAW現像ソフトだけのことはある。その他のプリセットも実用的かつ個性的で、プリセットを選んでから微調整を加えていくとアーティスティックな表情に仕上げられるのがおもしろい。何でもできるという点は「SILKYPIX」に似ているが、「Lightroom」はより少ないステップでアートな写真が作れる。「SILKYPIX」は万能ツール、「Lightroom」はプロフェッショナルツール。そんな棲み分けが可能かもしれない。

最後に「Lightroom」で仕上げた写真をひとつ。タイトルは「戒厳令の夜」なんてね(笑)。

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EOS 20D + EF-S 10-22mm F3.5-4.5 USM

●追補
Lightroom Beta 4 日本語版の記事を追加しました。
こちらも合わせてご覧ください。

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July 19, 2006

INDUSTAR61で星を撮る

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なぜはじめてのロシアレンズがINDUSTAR61-L/Z-MC 50mm/f2.8なのか。安いというのはもちろんだが、実はもうひとつ理由がある。いくら安いレンズとはいえ、買って即防湿庫行きではもったいない。どうせなら自分のレンズラインナップのなかで役割を与えてやりたい。そう考えたとき、INDUSTAR61-L/Z-MC 50mm/f2.8がいちばん明確に用途を特定できそうな気がしたからだ。

その用途とは、夜景

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まずはこの写真を見てほしい。左から、開放f2.8、f4、f5.6、f8となっている。絞り込むほどに、絞りがダビデの星形(六芒星、ヘキサグラム)になっていく。そして、この奇妙な絞りのおかげで、ボケがそのままダビデの星形になるのだ。論より証拠、星形のボケを見てもらおう。

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左はf8で近所のマンションを通常撮影したものだ。8400円のくせにf8まで絞ればそこそこシャープじゃん、なんて感想はそこそこにして、同じ構図でピントをはずしてみる。隣の写真が開放f2.8の状態だ。絞りが真円なので、ボケもきれいな円形を描く(イメージセンサーのチリ、気になるなあ)。そしてf4、f8と絞り込むと、ボケが絞りの形どおりダビデの星形になる(それにしてもチリ、気になるぞ)。

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同様の撮影方法でもう一例。どうってことのない夜景が幻想的に写るのだからおもしろい。ちなみに、被写体にちゃんとピントを合わせた写真でもボケは星形になる。日中撮影でも星形になるのでご安心を(笑)。

ボケ味の美しさという観点からすると、この独特のボケはマイナス要因にしかならない。でもこのクセを積極的に使っていけば、それはそれでおもしろい写真が撮れそうだ。まあ単純な話、キラッと星が光るなんてチャーミング(笑)。よさげな写真が撮れたらまた掲載していきます。

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July 15, 2006

EOS 20Dでロシアレンズ

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最近、ロシアレンズが流行っているらしい。正確にいうと、M42マウントアダプタを介して、ロシアや東独製のレンズをデジタル一眼レフにつけるのが流行っているそうだ。ぶっちゃけカールツァイスのコピーレンズを安価に楽しめる。ただし、これらのレンズはみなMF(マニュアルフォーカス)なので、AF(オートフォーカス)しか知らない世代には敷居が高い。「M42マウント」「ロシアレンズ」で検索すればいろいろと情報が得られるのだが、そもそもが玄人向けのネタだけに初心者向けの超基本情報がすっぽり抜けている。もちろんロシアレンズの描写力は気になるけど、それ以前にMFレンズってどうやって使うの? ピント合うのかな、絞りとかシャッタースピードとかどうしたらいいんだろう……、と疑問噴出なのだ。

そんなわけで、初心者の初心者による初心者のためのM42マウントレンズ講座です。古くからのカメラユーザーにはどうってことない話ばかりですが、シロート視線でディープな世界を探索してみます。

【マウントアダプタ-EOS用M42は安い!】
ロシアレンズを現在のデジタル一眼レフにそのまま装着することはできない。M42マウントアダプタをカメラに装着してその上で取り付けることになる。M42マウントというのは旧東独製の「プラクチフレックス2」ではじめて採用されたマウント方式で、スクリュー式という手軽さがウケて一時期ディフェクトスタンダードになった。そのため中古市場ではM42マウントのMFレンズがゴロゴロしてるというわけだ。現在のカメラはメーカーごとにマウント方式が異なるので、まずはこいつをM42マウントに変換しなくてはならない。

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今回は近代インターナショナルM42-EOS用マウントアダプタを購入した。同社通販で5040円なり。一見するとプラスチックっぽいが、金属製でズシリと重い。レンズの後玉を守るキャップが付属しているので、レンズに装着したままの状態で収納可能。この他にはHANSAでもマウントアダプタをリリースしている。EOS用のM42マウントアダプタは基本的に5000円前後と安いが、フォーサーズ用だと18000円程度とけっこう高額だ。

【レンズ-やっぱロシアレンズでしょ】
さて、肝心のレンズは何を買えばいいだろう。いわゆるロシア製は5000~10000円でカールツァイスのコピーレンズが購入可能。中古ばかりか現在でも製造中の新品も手に入る。むろん、全部が全部コピーレンズではないが、Jupiter系はおおむねツァイスを模したレンズだといわれている。ただし、国産レンズのような品質を期待すると肩すかしを食らうだろう。おこづかいプライスでそこそこのレンズが買える、そう考えるべきだ。

東独製はカールツァイスイエナのフレクトゴンやディスタゴンに人気が集中しているらしい。戦後、カールツァイスが東西分裂した歴史の足跡だ。ディスタゴンは中古とはいえ10万近い値段。一方、フレクトゴンなら2~5万で購入可能。とはいえ遊びで買うには高価なので、そのレンズの魅力をわかった上で買うという感じか。安価なカールツァイスに心揺らぐものの、試しに買うには高すぎる。

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というわけで、今回はロシア製レンズのINDUSTAR61-L/Z-MC 50mm/f2.8を選んでみた。King-2というお店で8400円。小ぶりで手のひらに載るかわいらしいレンズだ。ジャンパーのポケットに突っこんで持ち歩く……なんてラフな使い方が似合うかもしれない。レンズはプラスチックケースに入っていて、底フタが後玉のキャップを兼ねている。もちろん前玉のキャップも付属。また、ロシア語の取扱説明書(!?)がついていて、すごくいけないモノを買ったような気がしてくる……。レンズにもロシア語の刻印が入っていて、これまたいい雰囲気だ(笑)。このレンズにした理由については、また後日別のエントリー作例なども交えつつ紹介したい。

【装着手順-アダプタはレンズに付ける】
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具体的な取り付け手順を見ていこう。まず、M42マウントアダプタをレンズに取り付ける。スクリュー式になっているので、クリクリとまわして取り付けよう。いきなりカメラボディ側に装着すると着脱しづらくなるので、レンズに付けるというのがポイントだ。次にマウントアダプタ付きのレンズをボディに装着する。これは普段通りまわしながらカチリッと取り付ければいい。マウントアダプタなんて生まれてはじめて触ったが、取り付け自体は呆気ないほど簡単だ。

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EOS 20Dに取り付けるとこんな具合になる。ボディに対してちょっと小ぶりでかわいらしい。一眼レフの威圧感が緩和され、ほどよくお散歩カメラ風。EOSはストレートにいまどき風のプロダクツデザインだけど、どことなくレトロ感が漂っておもしろい。こんなミスマッチを楽しめるのもロシアレンズのいいところだ。

【レンズの使い方-絞りリングがアナログチック】
INDUSTAR61-L/Z-MC 50mm/f2.8はマニュアルレンズだ。カメラボディと電子的な情報は一切やり取りしない。絞りもフォーカスも自分で決める。なにやらすごく難しそうだが、一度触ってしまえばどうってことはない。なにしろ昔はみ~んなマニュアルカメラだったんだから。昭和の大人にできて平成の大人にできないわけがない。

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上から順に、絞りリング、フォーカスリング、被写界深度目盛となっている。フォーカスリングについては説明不要だろう。これをまわしてピントを合わせることになる。AF世代にとってめずらしいのは絞りリングだ。こいつをまわすと絞りが物理的に開閉する。レンズをのぞきながら動かすとその様子がよくわかるだろう。さらにおもしろいのはプリセット絞りという機能だ。絞りリングを押し込んだ状態でまわし、任意の絞り値で手を放す。すると、任意の絞り値以上、絞り込めなくなる。プリセットという名の通り、事前に絞り値を設定できるわけだ。このプリセット絞りの有効性については撮影方法で解説する。

最下段の被写界深度目盛は、特定絞り値においてピントの合う範囲を示してくれる。いま、絞りf8、距離2メートルにセットしてある。被写界深度目盛に注目してみよう。赤い線の両脇に、4、8、16と目盛がふってある。これはそれぞれ絞り値を示していて、フォーカスリングの距離と呼応している。勘のいい人はもうお気づきだろう。絞りf8、距離2メートルの例だと、被写界深度目盛は約1.75メートルから2.5メートルの範囲を示している。この範囲内はピントが合いますよ、ということだ。別にファインダーをのぞけばわかることだけど、普及価格帯デジイチのファインダーはあまり視認性がよくない。被写界深度目盛という過去の遺物的な機能も案外重宝しそうだ。

【撮影方法-合焦後に絞り込め!】
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EOS 20DでINDUSTAR61-L/Z-MC 50mm/f2.8を使う場合、マニュアルモード絞り優先AEで撮影できる。絞り優先AEならシャッタースピードを選ぶ必要がないので初心者にはオススメだ。でも、電子的接点のないマニュアルレンズでなぜ電子的な絞り優先AEが使えるのか。これはすごく気になる。実はこっそり電子情報をやり取りしてんじゃねえの!? なんてゲスの勘ぐりもしたくなるが、論理的に考えれば簡単な仕組みだ。MFレンズの絞りリングをまわすと、物理的に羽根が絞り込まれていく。その光量をカメラボディが計測し、適切なシャッタースピードに設定してくれるというわけだ。ちなみにAFカメラはカメラボディ側で絞り値を指定しておくと、シャッターを切ったときだけ羽根が絞り込まれる。一眼レフカメラはレンズからの情報をそのままファインダーに写すので、羽根を絞るとファインダー像が暗くなって視認性が極端に落ちてしまう。こうした使い勝手の悪さを解消するために現在のAFカメラはシャッターを切るときだけ絞り込むように設計されているのだ。なお、被写界深度は羽根を絞り込んだ状態でないと確認できないが、AFカメラはプレビューボタンがあり、これを押すと一時的に絞り羽根が絞り込まれる。ファインダーは暗くなるが、どの範囲にピントが合っているかはざっくりと確認できるだろう。

じゃあMFレンズはファインダー暗いんだ……。そんなのやだ!

誰だってそう思う。そこでプリセット絞りの出番だ。試しにf8まで絞り込んでファインダーをのぞいてみる。暗くてピント合わせどころの騒ぎじゃない。当然、絞り開放の状態でピントを合わせ、その後お目当ての絞り値まで絞り込んで撮影することになる。その際、ファインダーから顔をあげて絞りリングを見ながら作業したら、再度カメラを構えたときにピントが微妙にズレてしまう。プリセット絞りで前もって絞り値を設定しておけば、カメラを構えたまま開放からお目当ての絞り値までクイッと絞り込めるわけだ。そう、MFレンズを使うときは、(1)フォーカスリングでピントを合わせ、(2)絞りリングで絞り込み、(3)シャッターを切る、という撮影手順になる。

【EOS 20Dで実践-F0.0がポイント】
最後にEOS 20Dの具体的な撮影手順を紹介しておこう。今回はINDUSTAR61-L/Z-MC 50mm/f2.8を装着しているが、その他のレンズでもおおむねこんな感じで撮れると思う。

カメラの電源を入れ、モードダイヤルをAv(絞り優先AE)に設定。モノクロ液晶に注目すると、絞り値がF0.0になっている。これでOKだ。次に絞りリングを開放にして、ファインダーをのぞきながらフォーカスリングでピントを合わせていく。これがMFレンズ最大の難関だが、実のところ、風景撮影なら∞固定で撮れる。マクロのときはMに合わせ、そのまま身体を前後に動かしてピントを探ればいい。f5.6ぐらいまで絞り込めばざっくりとしたピント合わせでもそれなりにピンがくるし、開放でなければさほどナーバスになる必要はなさそうだ。MFだからといってさほど恐れることはない。ピントが合ったら絞りリングをまわしてお目当ての絞り値まで絞り込む。このとき前述のプリセット絞りを使うと便利。スナップならf3.5~5.6、風景撮影ならf8~11ぐらいだろうか。この状態でシャッターを半押しすると、絞り値に応じて適切なシャッタースピードが選ばれる。そのままシャッターを押せば撮れるという寸法だ。ただし、INDUSTAR61-L/Z-MC 50mm/f2.8は中間絞りにクセがあるので、ちょいと注意が必要となる。この点については後日あらためてレポートしたい。

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まだ使い込んだとは到底いえないが、それでもはじめてロシアレンズ-MFレンズを使ってみて、ひとつ実感したことがある。それはピント合わせのフィーリングだ。AFレンズで撮る際、ピントは平面の点で考える。つまり、ファインダーの中央、上下左右、どこのフォーカスエリアを使うか、という考え方だ。ピントとは平面上の点。これまでそう考えていた。ところがMFレンズでピント合わせをすると、奥から手前で、手前から奥へ、ピントの合う場所が前後で移動する。ピントとは自分と被写体との距離、つまりは奥行きの面。そんなごくごく当たり前のことに今さら気がついた。カメラの構造を肌で知る。ロシアレンズ遊びにはそんな効用があるのかもしれない。

●追記
INDUSTAR61-L/Z-MC 50mm/f2.8で撮影したサンプルはこちらをご覧ください。

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July 11, 2006

禁断のアレ

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朝、目をさますと枕元にこんなものが……。
これを見てピンときたあなたはかなりのカメラ通。
M42マウントアダプタとロシア製レンズです。
写真をやらない人にはナンのコッチャでしょうが、
最近ちょっとしたブームのようなので手を出してみました。

使い勝手やサンプルはまた改めて。

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July 10, 2006

便乗値上げ

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昨日は日曜日だというのに製品テスト。
何の気なしにカメラを持って出かけると、
編集者が「デジイチあるんだったらコレ撮って」と。
ライター業について10年あまり、初のカメラ仕事です(笑)。

そのときの写真はまたいづれ。

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July 08, 2006

伊香保温泉(2)

何気ないスナップって難しい。
なんてことを思いつつ、伊香保温泉第2弾です。

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EOS 20D + EF24-70mm F2.8L USM

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EOS 20D + EF24-70mm F2.8L USM

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EOS 20D + EF24-70mm F2.8L USM

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EOS 20D + EF24-70mm F2.8L USM

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July 03, 2006

伊香保温泉

週末、伊香保温泉に行ってきた。といっても、遠い親戚の結婚式。ひなびた温泉街を撮るチャンスとばかりに機材を担いで行くも、撮影する時間なんてないわけで、ろくな写真が撮れません。

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EOS 20D + EF24-70mm F2.8L USM

なんかもうすごく凡庸。モノクロ=ひなびてる、という発想からして終わってるかもしれない……。

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EOS 20D + EF24-70mm F2.8L USM

絵はがきの方がマシ。というご意見、甘んじますとも。自分でもダメなのはわかってます。

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EOS 20D + EF24-70mm F2.8L USM

寄って主題を明確にしても、どうにもならんことだってありますよ。ていうかだた寄っても仕方ないよね。

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EOS 20D + EF24-70mm F2.8L USM

おおっ、いけるか? いけるんじゃねえのか!? 駐車場のわきに咲いていたどうってことない花だけど、このタッチはイケるんじゃねえの!

つづきはホームページにて。

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