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September 16, 2006

iTVはMCEの二の舞か

日本国内において、リビングPCというアプローチは尽くコケてきた。パソコンはパソコンであり、どこまでいってもデジタル家電にはなり得ない。大手メーカーが放つ大画面液晶パソコンしかり、マイクロソフトのウィンドウズXP MCEしかり、である。そうしたなか、アップルはiTV(コードネーム)を発表した。これはiTunesで管理しているサウンドやムービーを、家庭用テレビで観賞するためのセットトップボックスだ。無線/有線LANでパソコンと接続し、テレビに映像やサウンドを送ることになる。10フィートUIは「Front Row」に近い操作性で、付属リモコンは「Apple Remote」を模しているらしい。テレビ接続用にHDMI端子を備えている点が今日的といえるだろう。

とはいえ、要はネットワークメディアプレイヤーだ。

ネットワークメディアプレイヤーは各社からリリースされているが、ブレイクする兆しはいっこうに見られない。メーカー各社はここにビジネスチャンスを見いだそうと躍起になっているが、リビングPCやMCE同様、パソコンとデジタル家電の融合にユーザーは思いのほか冷淡だ。そんな鬼門にアップルは、iTVで切り込もうとしている。殿、ご乱心あそばされたか?

iPodの大ブレイク以降、アップルは出せば当たる快進撃をつづけている。可能性ばかりが囁かれ、実利のともわなかった音楽配信サービスも、iTunes Music Storeの登場で状況は一変した。インテル製CPUに乗り換えると同時にBoot Campをリリースし、最近ではウィンドウズユーザーの取り込みにも余念がない。イケイケどんどん! 何をやっても怖くない。MCEはコケたけど、おれたちのiTVならイケるさ! アップルはそう考えているのか。否、彼は想像以上に慎重だ。

第5世代iPodを思い起こしてほしい。初のビデオ再生に対応したiPodだが、すでに動画対応のポータブルプレイヤーはいくつもあるなか、遅ればせながらのビデオ対応である。にもかかわらず、ビデオ再生はiPodの付加機能にとどめ、vPodとして喧伝することを控えた。iTunes Music Storeで動画配信を開始するものの、ショートムービーやPVといった短い映像ばかり。動画対応プレイヤーと動画配信サービスが尽く失敗していることを踏まえ、石橋を叩いて渡るような慎重さだ。ウィンドウズユーザーの取り込みも慎重きわまりない。Mac miniをウィンドウズユーザーのセカンドマシンとしてチラつかせ、Boot Campでマックとウィンドウズのデュアルブート環境を作り出し、Mac OSへの乗り換えを少しずつ促していく。波にのった企業としては異例ともいえる慎重さだ。

iTVは2007年第1四半期に発売が予定されている。アップルが前倒しで製品発表するのはきわめて例外的なことだ。ここにも過剰な慎重さが見て取れるが、アップルにしてみると過剰ではないのかもしれない。なぜなら、AirMac Expressという前例があるからだ。これは一見するとオーソドックスな無線LANアクセスポイントだが、家庭用オーディオを接続することでiTunesのサウンドをミニコンポなどに出力できる。実はサウンドという切り口でリビングポータルを目指した製品だ。実際に使ってみると非常に便利なアイテムなのだが、無線LANの敷居の高さが災いしてか、アップル製品のわりに認知度が低い。こうした前例があるだけにiTVの投入も慎重にならざるを得ないのだろう。

もうひとつ興味深い動向がある。それはiTunesで本格的な動画配信がはじまる点だ。当初はディズニーやピクサーの作品に限られるが、ショートムービーではなく、ついに映画のダウンロード配信がはじまる。米国以外では2007年以降のサービス開始となるが、iTVの投入に先んじて布石を打ったというところか。ただし、この動画への傾倒はうがった見方もできる。アップルの新製品発表とほぼ同時期に、Amazon.comが動画ダウンロード販売サイト「Amazon unbox」をスタートさせたのだ。ダウンロードした映像は専用プレイヤーソフト「Amazon Unbox Video Player」でのみ再生可能。著作権保護に配慮しての仕様とはいえ、これはある種のユーザー囲い込みだ。アップルはiTunesによって音楽配信の覇者になった。しかし、Amazon unboxの先行を許してしまったら動画配信の覇者にはなれない。iTVを前倒しで発表した理由のひとつに、Amazon unboxへの牽制という意味合いもあったはずだ。

最近のアップルはキヤノンに似ている。キヤノンは言わずもがな、デジタルカメラとデジタルビデオカメラの覇者である。にもかからず、デジタル一眼レフにダストリダクションを搭載したのは先頃発売になった「EOS Kiss Digital X」が初であり、コンシューマ向けHDVビデオカメラにいたってはずいぶんとソニーに先行を許し、ようやく「iVIS HV10」を投入したところだ。デジタル分野は日進月歩で技術が進化する。しかし、先んじて成功した例は思いのほか少ない。他社に先を歩かせ、実を獲る。最近のデジタル業界は、強者ほど遅れてやってくるようだ。

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